第6話 避ける理由
「彼女になってくれたら、弁償代は帳消しにすると言ったことは謝る。でも、どうしてそこんなに俺のことを避けるんだ」
生活費を引いた残りから、少しずつためたバイト代を封筒に入れて、朝刊と一緒に差し出すと、正隆は静かに問いかけてきた。
(どうしてこの人を避けるのか)
自分で自分に問いかけてみたけど、答えはなかなか見つからない。
真剣な瞳を見つめているうちに、金縛りにあったように動けなくなった。
雨が新聞をおおうビニールをパタパタと叩く音にはっとした。
配らなければならない新聞は、まだたくさん残っている。
自転車の向きを変えようとした時、正隆がびしょ濡れだということに気が付いた。
手にした傘をモモに差しかけて、自分は雨の中に立っている。
十一月の雨は冷たい。
このままでは風邪をひかせてしまう。
いつものように急いで背を向けた時、重たい自転車がぐらりと揺れた。
「やまだ! おい、やまだ!」
別人のように落ち着きを失った正隆の声がした。
どうしたんだろう?
自転車も身体もものすごく重い。
何が起こったのかわからぬまま、自転車に引きずられるようにして、モモはずるずるとその場に倒れ込んだ。
目を覚ますと、端正な顔がすぐ目の前にあった。
「女子高生が過労だって!? 一体、どんな生活をしているんだ!?」
思い切り怒りを爆発させておきながら、その手はモモの手を握っている。
「新聞……」
「販売店に地図をファックスしてもらって、配っておいた」
逃げる気力を失ったまま口を開くと、すぐに返事が返ってきた。
「学校……」
「お前は病欠。俺は自主休校」
「実力テスト……」
「そんなもの、いちいち気にすんな」
目の前の少年が実力テストの結果で一喜一憂するような人間ではないことは、モモだって知っている。
前回の統一テストで、正隆は日本中の高校生の頂点に上り詰めた。
一年生でありながら、東大合格は確実とされている。
世界を舞台に活躍する父親の後を継ぐために、海外の一流大学にでも入るつもりなのかも知れない。
――住む世界の違う人。
「手を離して」
正隆は不満そうな顔をしたけど、それでもゆっくりと手を離した。