第4話 王子と貧乏少女
「眼鏡代が払えなくて逃げ回っていた?」
立ち入り禁止の屋上に連れて行かれ、モモの話を無言で聞いていた少年は、眼鏡代を分割にして欲しいと切り出され、珍獣でも見るような顔をした。
視線が痛い。痛すぎる。
じりじりと後ずさると、決して逃がすまいとでもするように、すっと腕が伸びてきた。
息がかかるほど至近距離から見つめられて、モモは泣きそうな顔をして頷いた。
「正確な値段を教えてもらえれば、少しずつでも必ず返すから」
「なるほど。お前は俺に借りがあるということだ」
端正な顔に不思議な表情が浮かんだのを、モモは不気味なものでも見るように見上げていたが、続く言葉を耳にして、反射的に相手を突き飛ばしていた。
「じゃあ、俺の彼女になれば? それなら、弁償は帳消しに……」
「いや、絶対にいや!」
茫然と佇む相手に思い切り拒絶の言葉を投げつけて、モモはくるりと踵を返した。
これは貧乏人をいたぶるための新手のいじめに違いない。
伊集院正隆はこの学校の王子様だと、たった今、聞かされたばかりではないか。
そう言えば、五月に実施された中間考査はパーフェクトに近かったし、その後の全国模試の結果も十位以内に入っていた。
スポーツもでき、家はお金持ち、家柄も良くて、ルックスもいい。
つまりは、下層社会を生きる貧乏人に興味を持つなんて、絶対にありえない。
女子トイレに逃げ込んだモモは、鏡に映った自分の顔をつくづくと観察した。
ジョンソンのベビーローションと薬用メンソレータム以外はつけたことのない肌は、年相応にきれいだが、華やかな女子高生のイメージからは、およそかけはなれている。
毎月、母が切ってくれる髪は、長めのおかっぱにシャギーを入れただけだし、バイトに忙殺されて疲れた顔をしているし、勉強時間もあまり取れないから、成績も後ろから数えた方がはるかに早い。
がっくりと肩を落としたモモは、重い足を引きずるようにして歩き出したが、校門の前に佇む長身の影を見るなり身を翻した。
「逃げるな!」
するどい命令口調にびくりと身体が震えたが、そのまま脱兎のように逃げ出した。
(オレ様口調の王子様なんて最悪!)
その日から、モモはますます正隆を避けるようになった。