第11話 一目ぼれなんてばかげてる?
大学では、男の子から声をかけられたりもするけど、胸に焼き付けられた正隆の姿があまりに鮮烈で、誰かと付き合う気にはとてもなれない。
大学入学を契機に一人暮らしを始めたモモは、郵便受けに取り付けられた自分の名前を見て苦笑した。
「なんだか、昔のアイドルみたい」
母が再婚したために、モモの名前は山田モモから山口モモに変わっていた。
「山口さん、宅急便です」
モモはまたクスリと笑い、パソコンから顔をあげた。
モニターに表示されているのは、「Yahoo!ファイナンス」の株式チャート。
株に興味があるわけじゃないけど、正隆の父が経営する会社の株価をチェックすることが、何となく習慣になっていた。
受け取った荷物に貼られた送り状を見て、モモはハッと息を飲み、壁に背を預けたまま、ずるずるとその場にへたり込んだ。
差出人の名前は伊集院正隆。
入っていたのは、三冊の手帳と一通の手紙。
時限爆弾を分解するような手つきで封筒を開くと、味も素っ気もない白い便箋が二枚入っていた。
一枚は全くの白紙。
そして残る一枚には、この国の未来を背負って立つスーパーエリートにふさわしい端正な文字が並んでいる。
「一目ぼれなんて、ばかげている」
冷ややかな声が聞こえてきそうな、冒頭の一文にどきりとさせられた。
咄嗟に目を閉じたモモは、大きくひとつ深呼吸をして、再びこわごわと目を開けた。
一目ぼれなんて、ばかげている。
ずっと、そう思っていた。
でも、入学式の朝、桜の木の下に佇む姿に
見とれていたことは、まぎれもない事実だ。
講堂に入ってからも、僕はあなたを探していた。
だから大勢の目の前で失態を演じたことを恥じる気持ちより、
あなたとの接点ができたことを喜ぶ気持ちの方が大きかった。