二話
お待たせしました。
友達の家に飲みに行ったら気がつけば二泊していて投稿が滞っていたダメ人間です(キリ。
いや!石をぶつけないで!感じちゃうから!!(ォィ
というわけでこんな作者ですが読んでくださっている皆さん、お願いだから捨てないでください。
朝になり、眠れないことはなかったがあまり気分の良くない目覚めを迎えることとなった。そんな様子の真人に水穂は明るく声をかける。
「おはよう朝餉の用意ができているよ。この私の琵琶湖で取れたばかりの魚だから味は保証するよ」
真人の出す雰囲気の所為か会話もなく終えることになった朝食は、確かに素朴ながらおいしいものであった。
そして、それ以上に真人にとって何か胃の中から全身に何かが広がるようであった。
その、真人が来訪してからで摂った食事という一つの大きな区切りを終えると二人は改めて話をする。
「これからアタシは山に向かうよ、こちらに向かってやつを引っ張って来る予定だからここからある程度距離のある人里に行くといい」
「あの、本当に一人で行くんですか?何か手伝えることは?」
「ないさ、腐っても龍神さね、真人殿に特別な力がないのであればアタシが暴れるだけでつぶれてしまうさ、それに無理やり引っ張ってきたんだこれ以上の迷惑はかけられんさ、だからしっかり逃げておくれよ」
「水穂様、俺はここにきて一日と経っていなくて、そんな状況で放り出されるのが怖いです。それに昨日すぐに全滅するわけではないと言っていたではないですか。それなのに今からなんてそんなに急ぐ必要はあるんですか?」
「ああ、真人殿にとっては急な話かもしれないが、あいつは三月も前から居座っててね今まで食い荒らされた分を考えると倒し得ても滅亡に向かいかねないんだ。だからこれ以上に時間をかけることはできんさ」
「そんな……」
真人が昨日に比べ弱気になり下がっているが、これには理由があった。
明るくなり、湖特有の薄切りも晴れ、神隠しから時間がたって改めてこの地の惨状を見ることになったのだ。
山は縄を縛った後のように禿げ、遠目からでもわかってしまう程度には周囲は穴だらけで、山の近くに行くほど地形は荒れ果てていた。
妖怪に期待を抱き周囲を見渡し見えた景色はもはや創作物でしか見られないような荒れ方をしていた。
この様子には真人の見世物の感覚で期待していた妖怪がいかに恐ろしいものかを悟らせるに十分な光景であったのだ。
真人の覚悟は死ぬ可能性を考えての行動ではあったが、絶望的なまでの種族差といえる光景には怖気づいてしまった。
それに加え、目の前にいる少女に見せられた覚悟に、高揚感など吹き飛ばされてしまっていた。
水穂はその様子に、正しい認識を持ってくれたと安心すら覚えていた。
正直彼女は昨日の真人の態度に対しては呆れの感情だけではなく怒りすら覚えていた。
が、自分の死地に赴く覚悟を聞いた時の真人の反応から悪意あるようなものではなく認識不足だと悟り、その妖怪に興味をひかないように詳しい話は話さなかったのだ。
この理不尽な状況に、原因である自分のことを心配そうに見てくれる少年が無知な侭に死地に赴くことのないように……。
「真人殿、あなたが無事に人里にたどりつけるようにこれを渡しておこう、山の化け物みたいなの相手だと焼け石に水なものだがある程度身体能力も上がるだろう。まあ、龍神の加護というものだから私が消えたら意味のないものだがそれ自体はいい値で売れるだろうしね。」
人里への、荒れてるとは言わないが森の中を通り抜けるような道を行くことになる真人を心配した水穂は、水色の鱗のついた首飾りを真人に渡し蛇になるとそのまま行ってしまった。
それはこれ以上真人が余計な心配をしなくても済むよう、逃げるような速さであった。
◆◆◆◆
昼前に出発した真人は日が沈み始めるころには目的地が見える位置まで来ていた。。
これは十数キロも道と呼べるようなものがない森を抜けてきたにしては驚異的な早さであり、一度も休憩することもなく、迷うこともなくたどりついている。
もちろんこれは、真人の今までの霊地巡りから森歩きに慣れていることを差し引いても普段ではできないことであり、理由もある。
その理由とはもちろん水穂から別れ際にもらった鱗――加護によるものだ。
水穂の言葉通りに身体能力が跳ね上がり、なおかつ真人の持つ超感覚が強化されているのか方角を見失うこともなかったのである。
このようなオカルトチックな力を得たのなら間違いなくはしゃいでいるであろう真人は、いまだに立ち直ってはいなかった。
そんな様子のまま里に向かって歩き続けていると、里の入り口で見張りのようなことをしている男に声をかけられた。
「この村に何か用か?」
その村は、お世辞にも頑強とは言えないお粗末な柵に囲まれていて、その入り口に立つ男はその職務通りに警戒していますといった様子が明らかであった。
龍神の社しか無いような方向から、真人は元の世界の服装という奇妙な格好をした男が来たのだからその態度は当然なのだが、落ち込んでいる真人はそこまで頭が回らずに不必要に怯えてしまった。
「あ、あの、俺は水穂、あ、龍神様の社から来たのですが、近くの人が暮らせるところに行くことになって、そのついでに龍神様から伝えてほしいと頼まれたことがあるので偉い人に会いたいのですが……」
「なに?龍神様のところからだと?……!!わかった案内するから少し待っていてくれ」
男は真偽の判断ができないようで、警戒を残したまま真人を眺めるが首元で首飾りに視線が止まると、驚きに目を見開き慌てて人を呼びに行った。
その様子に疑問を感じた真人であったが、首飾りのことを思い出すと納得し、警戒されて門前払いされなかったことに安堵した。
「待たせたな、じゃあ着いてきてくれ」
代わりの見張りであろう人を連れてきた男が戻ってきてそう促した。
そのまま男について村に入り、一面がよく見えた真人は絶句してしまった。
活気が、いや生気がないのである。畑仕事をしている人たちは目はうつろで方がこけていて、生えている植物は皆萎びたようでい、それでも何とか収穫している作物は黒ずんで毒々しい。
建物は壊れていないが、その中からは人が動いているような気配は感じず、夕暮れ時になろうというのに食欲を刺激するような良いにおいは感じられず、目で見える村の隅には家畜であろう牛、馬が数頭痩せこけ、けが所々禿げた明らかに健康ではなかったという状態の死体で転がされていた。
何よりこの光景を見たことにより知覚してしまった今まで感じたことのない澱んだだ空気に、真人は青褪め、歩を止めてしまった。
その様子に男――この男も体格がよさそうに見えていたが、注意して見ると明らかに不健康な様子だった――は歩き出すよう促し苦渋の表情で話しだした。
「ここも酷いもんだろう、三上山の化け物の毒の影響やらでこんな有様さ、龍神様がきっと何とかしてくれると頑張ってはいるがいつまでもつことか……ほら着いたぞ、この家に長がいる」
そう言い、家の中に呼び掛け許可を得ると真人に中に入るように促した。
家の中で真人を待っていたのはかろうじて禿げていないが髪のすべてが白く染まり、痩せこけた顔に大きくなったような目がギョロリと言うのではないかと思わせるせる翁だった。
「さて、客人ということだがこのような有様の村に何用かな?」
「は、此方の御仁はなんでも龍神様より伝えるよう頼まれたことがあると申しておりまして、首元に龍神様の鱗があり社の方から来たようなので私には判断しかねまして長に判断をお願いしたく連れてきました」
「ほう、確かに龍神様の使いの様じゃ、そのような輝きは他にはあるまい、儂はこの村をまとめておる延という、龍神様から頼まれた要件を聞いてもよろしいかな?御使い殿」
と、話を振られた真人は慌てて畏まり水穂に頼まれた内容を伝えた。
「龍神様が仰るには、もはや山の妖怪は自分の手に負えない可能性が高いそうです。そして今朝討伐に向かいましたが自分では敵わないだろうからこの近隣の人たちと逃げてほしいと言われ伝えに参りました。」
「なんと……、なんということだ……。それは真のことなのですか?」
「誓って」
そのことを聞いた長は唯でさえ年老いきった様子であるのに落胆によってその身から生気が抜け切ったようにうなだれてしまう。
「そうか……、お伝えいただき感謝する。しかし、もはやこの村には全員が避難するだけの食料も、移動に耐えられるほどの力が残っている者はほとんど居らんのだよ。だから我々は龍神様と命運を共にすることになるじゃろう。故に御使い殿、これからな残りの食料すべてを女子と年若いものたちに振舞いますのでそのものたちを連れて行って頂けませんか」
そう力なく言い募る長に対し、水穂よりもらった宝のことを思い出した真人は提案する。
「長さん、それは食料さえあれば避難してもらえるということですか?」
「ああ、確かにそうじゃが……、御使い殿も知っておるじゃろう、このあたりの食料のほとんどが化け物の影響で碌に食えんものになってしまっておる。そんなものを持って逃げるに耐えられんじゃろう。ならば儂ら老い耄れと男たちは残るしかないのじゃよ」
「それならば俺は龍神様より宝を貰っています。この米の尽きることのない俵、これで村人に炊き出しを行いましょう。そうすれば全員で逃げることも可能になるはずです」
「おお!誠ですか!!!それならより多くのものが救われますぞ!!!しかし、幾人かはもう手遅れ、そしてその者を置いて村を出ることをよしとしない者もおるはずじゃ。全員というわけにはいかないかもしれませんぞ」
「はい、それでも多くの人が助かるのならこの宝を使いますしそれが龍神様がこれを俺にくれた意味だと思います」
「ありがたい、ここしばらくろくにものを食べていない者たちばかりですので。さそっく用意していただいてよろしいですかな?」
「喜んで」
◆◆◆◆
日が沈みきる前にと、急いで村の動ける者たちを集めて食料を配ると村人たちは僅かではあるが生気を取り戻していった。
そんな様子を見ながら真人は長と食料を配り続けていた。
「本当に龍神様に感謝しなけれまいけませんな。これでより多くのものが逃げられます」
「そうですね、この宝は俺に迷惑をかけた侘びにと貰ったものなのですがこのことも考えてのことだったのでしょう」
「ありがたいことです。龍神様は今までこの琵琶湖一帯の生物すべてにその恩恵を与えてくださっていましてな。それが三上山にあの怪物が現れてからこの地に毒が巻かれたような有様になってしまい……」
苦々しく語る長に対し、真人は何か引っかかりを覚える、村人が少し元気を取り戻し始めたころからこうして話していると何かモヤモヤとしていたのだ。
「もしかしたらその身が消えてしまうかもしれぬ中我らのために米の尽きぬまさに神器と言える俵を用意していただき……」
「ん?(琵琶湖……龍神様に三上山?そして米が尽きない俵ってどっかで聞いたことがッ……!!)」
翁の話を聞いていた真人に閃光が走り動きを止めると急に翁に問いただした。
「あの!?長さん、三上山の妖怪ってもしかして……」
翁から答えを聞いた真人は急いで用意してもらったものを持つと、十分な量の米を取り出した後、妖怪がいるであろう山の方へと風のような早さで駆けて行った。
水穂の加護の凄さを自覚したのはこの時になってやっとであった。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
飲み明けて帰ってきたら感想を下さっている方がいてテンションが上がりまくって変な声が出ました。
本当に読んでくれている方がいるとわかって嬉しかったです。
感想お待ちしております。