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松本さんの攻防戦

作者: 蔵町ユキ子
掲載日:2012/11/15


「あんたには言われたくない!」



そう叫んだのは昨日。

叫んだ時の相手のポカンとした表情が頭から離れない。

そして私は勢いのまま教室を飛び出したのだ。

だって我慢ならなかったんだもの。


なんて、今の私には感傷に浸る暇はなかった。



「で、松本さん聞いてる?」

「いいえ全く」

「その反応じゃ、ちゃんと聞いてるね」



聞いてねえって言ってんじゃねーかコノヤロー。

そう口に出して言えないのは、目の前にいる人物に歯向かったら何をされるかわからないからだ。


目の前でにっこり笑う男。

三年一組、神田瑞希。

顔良し頭良し運動神経良しのお前どこの少女漫画キャラですか、って言いたくなるほどのハイスペック男子。

略するとHSD。

私の友達は彼をよく人間じゃねえ地球外生物だ、と言っている。


そんな男子に何故か迫られている私。

後ろは壁、左も壁で右は神田の腕、そして正面は神田本人。

なにこれどこの少女漫画的ときめきシーンですか。



「あの、結局何なんです…?」

「だからね、昨日俺とぶつかったでしょ?」

「…それはさっき謝罪しましたが…」

「だーかーらー、やっぱり話聞いてなかったんじゃん…!」



だから聞いてないと言っただろう。

神田は一つため息を吐いたが、私の方がため息を吐きたい。

くそ、イケメンは何してもイケメンだなコノヤロー。


神田が言う昨日ぶつかったというのは、私が教室を飛び出した時、私が叫んだ後の出来事だ。

私は勢いのままに教室を飛び出し、すぐ近くの廊下の曲がり角で神田にぶつかった。

その時は自分のことでいっぱいいっぱいで、謝罪もそこそこにその場を去ったのだ。

どうやら神田はその時のことを言っているようだけど。


あー、何か昨日のこと思い出して泣きたくなってきたよ。



「ちょ、ちょっと何で泣きそうな顔すんだよ…」

「してないっ」

「いやいや、してるって。ったく、そんなにあいつが…」



慌てた神田は一つ小さな溜息を吐いて、恨めしそうに何か呟いた。

私は人前で、しかもそんなに親しくもない相手の前で泣くもんか、と涙を堪えるので精一杯で、神田の言葉は聞こえなかったけど。


昨日、私は教室でとある男子と談笑していた。

一年から同じクラスで、趣味が合うこともあり一番仲の良い男子だ。

もちろんというか当然というか、私は彼が好きである。

私はそんなにお喋り上手なわけじゃなく、逆に口下手なところがあった。

それでも彼は笑顔で私の話を聞いてくれるのだ。

嫌な顔一つせず、いつもいつも。

徐々に徐々に、私は彼に惹かれていったのだ。

でも今更この関係を壊すことが怖くて、私はこの気持ちを伝えようとは思えなかった。


そんな彼が、昨日冗談めかしに私に言ったのだ。

「お前って、彼女にするにはつまんないよな」と。


カッとなった。

冗談でも、彼がそんな深い意味で言ったわけじゃなくても、言ってほしくなかったのだ。

きっと泣いてしまうから。

泣いたら、私の気持ちがばれてしまうから。

ばれたら、今のこの、曖昧で心地好い関係が終わってしまうと思ったから。


そんな終わり、嫌だから。



「松本さんてさー…」

「な、に…」

「何で泣くの我慢するの?」

「我慢…なんて…」

「してるって。ほら」



突然、俯いていた視線が上にあがる。

あろうことか、こいつは私の顎を掴み上を向かせていた。

涙で歪んだ神田の顔に、笑みが浮かんでいるのがわかる。

驚いて目を瞬かせると、その動きで涙が一筋頬を伝った。



「ほら、やっぱり」

「何、するのよ!」

「いや、可愛いなあと思って」

「、はあ?」



こいつ、Sなのか?

私は神田の手をたたき落として、乱暴に袖で涙を拭う。

人前で泣くなんて…!


私はキッと睨みつけるように、再び視線を神田に向けた。

が。



「っ!?」

「松本さん俺さ」



視線を上げたら、すぐそこに神田の端正な顔があった。

思わず身を引くが、ドン、とぶつかり後ろは壁だったことを思い出す。

しまった、逃げ場がない。


そう私が慌てている間に、神田が私の顔の横に肘を着く。

ほう、これが今話題の壁ドンというものか…。

なんて呑気に考えている場合じゃないな。

近い。どうしようとてつもなく近い。

私が視線をさ迷わせていると、とんでもない言葉が耳に飛び込んできた。



「松本さんの泣き顔に一目惚れしちゃった」

「は、あ!?」

「松本さんはあいつのこと好きなんだろうけど、俺遠慮はしないから」



にっこり。

これでもか、というほど綺麗なスマイルを頂いた。


私、松本優子の攻防戦は、こうして幕を上げたのだった。



END

お読み頂きありがとうございます。

突然思いついた話ですので、色々キャラが不安定でした。

これも長編書けたら書きたいと思っています。


登場人物

松本優子:主人公。

恋する乙女。口下手設定だけど、神田にだけはずばずば言う。


神田瑞希:松本さんのクラスメイト。三年一組。

顔良し頭良し運動良しの少女漫画的完璧少年。

松本さんの泣き顔に惚れたらしい、Sっ気がある。

松本さんの友人曰く、地球外生物。

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