表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

愚であり粗であるが適ではあった話。

作者: rider

ある日、突然人類が居なくなった。僕以外。昨日までみんないた。


こんな出来そこないの冒険活劇のような展開あるはずがない。


こんなありえないこと、あるはずがない。


出来そこないの冒険活劇みたいに、誰か生き残りがいるはずだ。


なんでみんながいなくなったのか、わかるのかもしれない。


そんな淡い希望も、今ではもう抱いていない。


どれだけ探しても、誰もいない。


町だったところ、市だったところ、県だったところ。


ここまで探して僕は諦めた。


世界中を探せば、一人くらいはいるのかも知れない。


もう、いいや。食べ物だって、娯楽だって一応ある。一人ぼっちだけど。


今までとそう大きくは変わらない。そう思った。


実際、これだけ非現実的な状況に襲われても、慣れてしまえた。


恐ろしささえ覚えたが、恐怖しようとしても対象は自分しかいない。


他人の中の自分なら別だが、今は僕しかいない。


そのうち考えるのをやめた。せいぜい余生を楽しんで死のうと思った。


幸い、人がいないだけで、犬とか猫とかの動物はいた。


そのうち、これもまた非現実だが、それらの言葉が解せるようになった。


しかし彼らは非常に難解な事しか喋らない。


ある時、黒い犬は言った。


「天邪鬼鳴いた  鳴いた  泣いた」


「じゃあ、なんで僕は鳴いて足掻けないんだ。僕は泣けるはずだろう。」


黒い犬は、何も言わなかった。






いつしか、僕は少し年をとっていた。


動物たちと、走ることを楽しみ、また一人で本を読み、食事をとった。


しかし、動物たちの言葉は解せなかった。


いつだったか、白いハトは言った。


「望んだから、今なのだ。臨んだからでは、ないのだ。」


「僕はどっちなんだ?」


「君は望んだのか?」


「わからない。気づいたら、こうだった。」


「では、私は望んだからこうなった。彼らは、それに臨まなかった。」


どうも要領を得ない。数年の間満足できる答えは一度も帰ってこなかった。


それに、動物たちは、自分からしか喋らない。僕が何を聴いても、答えない。


僕は動物たちから聞いた事を聞いて、それを問うしかなかった。


それに何の意味があるかさえ分からない。ただの暇つぶしにすぎなかった。


今日はカラスが語りかけてきた。


「私は彼らが嫌いだ。君はどうだ?」


「彼らとはなんだい?」


「君であり、君が存在を確立させるためのものにある。」


「では僕の存在は確立しているのか?」


「いいや。私は彼らにはなれない。近づくことしかできない。」


そういってカラスは飛び去っていった。


そして夜には青い眼をした猫が話しかけてきた。


「知りたい?」


「なにを?」


「君を。」


「知りたい。」


「じゃあもう少し待つことね。」


そうして猫は眠りについた。




いつしか、僕は大人になった。こんな中じゃ、意味はないだろうけど。


お酒を飲もうと思った。なんとなく今まで手を出さなかったけど、今日は興味がわいた。


そうしてお酒を探しに行った。


いつも食料を調達するデパートに来た。生鮮食品はとっくに腐っているか、動物の餌だ。


だいたい保存食やインスタント食を食べるが、今日は初めてお酒のコーナーに来た。


長持ちしていそうなワインを二瓶手に取り、持ち帰った。


夜、動物たちがたむろする僕の家の居間で、いつも使うコップに入れて飲んだ。


不思議な味だった。体が温かくなった。その時、スズメは僕を見上げて言った。


「楽しめてる?」


「今かい?少し頭が回らないが…楽しくはある。」


「愚かね。まだまだ。君が知りたかった事は、いつでも探せるのに。」


「君たちにしてはまともな答えだな。僕はもう満足している。」


スズメは何も言い返さなかった。


そして僕は生まれて初めて酔っぱらった。


気づいたら、朝だった。


鶏が叫んでいる。


「愚か 愚か 後悔さえも予測できないと言うのか。彼らと変わらぬ。」


寝ぼけながらも大声で答えた。


「僕の事なのか? 僕はもう満足していると言ったろう。」


「愚か 愚か 愚かだ。」


そう鶏は言い放ち、叫ぶのをやめた。




僕はさらに、年をとった。


そろそろやることもなくなってきた。


死のうとも思ったが、ある一つの事が気がかりで死ねなかった。


どうして人類はいなくなったのか?


どうして僕だけ生き残ったのか?


しかしそれを教えてくれるものは何もない。


僕は少し思い切った。


トカゲが話しかけてきた時だ。


「僕はここにいる。でも君はどうなのかな?」


「なぜヒトはいなくなった。何故僕だけここにいる?」


「少しだけ愚かではなくなったようだね。」


「君たちは何か知っているのか?」


「もう少し位鳴けたっていいだろう。」


トカゲはシュルシュルと物陰へ去って行った。


不思議だ。年をとるにつれ動物たちの言葉が理解できるようになってくる。


最近は、動物たちが何か知っていることを確信できる会話ができた。


一昨日の朝だ。


亀は言った。


「どうだい。愚かの意味が解ったかい?」


「ああ、多分ね。でも何故愚かなのかは死ぬまで解らないと思う。」


「そうだな。君は私達とは違う。」


「・・・そうか。」


彼らとは何なのか。


臨むとは何か。鳴くとは、泣くとはなんなのか。




そして僕は老人になった。


何時死のうとおかしくなくなった。動物たちは気にも留めない。


息が苦しくなった。もう少ししたら死ぬのかな。


なぜかライオンが見えた。幻覚か・・・それもいいかな。


しかしライオンは話しかけてきた。


「やはり彼らは愚かなのだな。最後まで知ろうとしない。」


「驚いた、・・・なんで君みたいなのがここに居る。」


「私は君と違って存在している。」


「ハハ、君までそれか…僕はもう知った気がするよ。」


「ほう、是非聞かせてもらいたいものだ。」


「彼らとはヒトだろう?ヒトは・・・なんらかの理由で僕を棄てた。」


「そうだ。よくわかったな。」


「長い月日は・・・気まぐれだったらしい。」


「では存在とは?」


「存在・・・というよりは存在の証明かな?」


「よくわかっているらしい。そうだ。君は存在している。」


「でもそれは僕と言う物質がいるのが解るだけで僕と言う個人の存在は確立していない。」


「何故だと思う?」


「比較の対象がないから。かな。今ここには僕しか人間が居ない。僕なの僕ではないのか。わからない。」


「そうだ。君はもう人間と言う種族でしかない。彼らではなく君なのだ。」


「ああ。そうだな。でも、僕は何故同じヒトに棄てられたかはわからない。」


「ふむ・・・想定外だな。てっきりわかっているのかと。」


「証拠がない。あくまで仮説だし、君たちも知らないはずだ。」


「いや、知っている。しかし証拠はない。」


「・・・ハハ・・・まあ、いいか。僕はもうこれでいなくなる。どっちにしろヒトは絶滅するんだ。」


「ああ。そうだ。」


「僕だってみんなと同じだ。捨てる神がいるなら拾う神もいる。拾ってもらえるんだ…」


「ククク・・・ハハハ・・・実に愚かだな。」


「ああ、しかし、僕は君たちと会話できて幸せだよ。地球と一体になれた気分だ。」


「自然の象徴である我らと同じ場所にいて地球の一部分でなかったつもりだったのか?」


「少しね。人間は地球の表面に居るものだと思っていた。中に居るとは思っていなかった。」


「愚かだ。しかし、彼らも同じだったのだろう。だからだな。」


「そうだね。どうやら君と僕の考えは一緒だったらしい。」


「そうだな。・・・大丈夫か?」


「いやあ・・・結局泣けも鳴けもせずに逝くらしい。・・・僕も地球に・・・」


「・・・では・・・な・・・」


「ありがとう」


息絶えた。





―――――以上が今回の実験のレポートです。


「そうか…やはり…そうだったのだな?」


「ですね。やはり人類は…」


「あの少年だったもの以外全人類を一度にこの居住衛星に移動させた。」


「そして彼が地球に必要とされているか、確かめた。」


「あいつは人類代表だ。地球は彼を必要としていた。つまり人類は地球に必要と言う意味だ。


「・・・残念ながら・・・」


「ああ、地球と一体にならなければならない。」


「・・・衛星居住区内電源を全てオフにしてきます。」


「ああ、終わったら私に知らせろ。すぐに実行する。」


私はコーヒーを飲みながら待った。20分ほどして男は戻ってきた。


「・・・完了です。」


「・・・ではこのボタンを押す・・・いいな?」


「はい。」


ゆっくりと、ボタンが押された。



ピピピ・・・カイシシマス。


衛星は、地球へと向かった。火の玉となって。




人間は最後まで実に愚かで滑稽だった。








評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ