表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/12

6 平凡な生活を手に

無言でその蜂蜜色の瞳を見詰めていれば動揺して、困惑して、なぜか泣きそうになっている。

「奴隷商人…ですか」

朝ごはんをいただいてナイトを枕と防寒代わりにして二度寝してから現状の説明を請われた。

いまだに路地に転がっている私。

なんか起き上がる気力がまだありません。

一食では、まだまだ足りないらしい。

なのでポツリとポツリと今までのお話をしていたわけだ。


「そう。人攫いから逃げて来たの。孤児はよく狙われるから」

「孤児なのですか?」

「両親は多分死んでる、その後の養育者も行方不明、教会に預けられたけど裏で取引されそうになって、逃げて、で、今、死にかけている孤児ですけれども」

簡潔にまとめるとそういうことだ。

私が路地に転がっていたのはマガラさんが仕事から帰ってこなくて、死んだって噂が流れて、住んでいた家を近所の人たちに取られ教会がやっている孤児院に入れられたが、そこがまた人身売買を行っているところで、売られそうになって逃げた。あとは人攫いに攫われそうになったりとか逃げて逃げて今の現状。死にかけておりますとも。

「よく頑張りましたね」

背中をなでられていた手が汚れきってしまっている髪に移動して何度も優しくなでてくれる。

なぜかするりとそれが入り込んできて昨夜流した涙と違う涙がながれた。

胸元の石を握りしめて耐えようとしたが、その石は目の前のナイトの住処のようなもの。

なら目の前の人物に抱きついても問題ないでしょ?汚れきった私を撫でているのだから本人も気にしていないはず。

なので私は泣き疲れるまでギュッーと抱きついて静かに泣いた。

そのおかげか淀んでいた気持ちが今の天気と同じようにすっきりとさわやかになった。

ただ体力がないのに泣きすぎてぐったりとしてしまったけれどね。




私が落ち着いたのを見計らってナイトは提案をしてきた。

「まずは人並みの生活を送れるようにしましょう」

提案されたことはもっともであるが、孤児にどうやって人並みの生活をさせようというのだ。

「そういえば食べ物と飲み物はどうやって手に入れたの?」

石から出てきたのならばお金というものを持っているはずがない、結構早く戻ってきたし。

「ええ、神様について少々語らせていただきました。そしたら皆さん親切ですね、持って行きなさいと渡されたんです」

なぜだろう、ナイトの笑顔が黒く感じる。

その言葉には何が込められているのか聞きたいような聞きたくないような気持ちにさせられる。

でもここはあえてスルーだ。神官服をきているのだから神官の説法と間違えられたんだと思うことにしておこう。私のために。

「まずはお金がないと」

お金、それによって衣食住を賄えてしまう、素晴らしいものだ。それが私には徹底的に不足しているからこのような事態になっているわけで。

ナイトは少し考えたかと思えば、とんでもない提案をしてくれた。

「では私が体を売ってきましょう。見目はいいので、それなりの金額を手にすることはできます」

「却下で」

一部の隙もなく反対です。自分が最後まで手を出さなかった領域に何軽く行こうとしているのですか。だめに決まってます。

それにちょっと困ったようにしてから目に入ったものが気になったのか、ぐるりと周りを見渡して、高い建物である城や教会をしばらくじっとみていた。

「ここは幸い王都のようです。私の隠し財産が残っているのなら何もせずとも生活できますよ。少々確認につきあっていただけますか?」





気がつけば私はベッドの上に座らせられていた。

もう外は夕方のようで日が沈み始めている。そして目の前にはスープにパンに果物、その果物もナイトが今切り分けている。

お風呂にも入れられて服も変えて、すっかりとボロ状態からこざっぱりとした町娘に変身を遂げていた。そして今いる場所は町娘が気軽には入れないようなハイグレードなお宿。

いかん、流されてここまで来てしまった。

路地裏でのナイトの発言からその隠し財産とやらに興味がでて、いわれるがまま移動した。ってか抱っこされて運ばれた。

体力が戻っていないので多少の距離もつらかったのだ。

なぜか美貌男に抱っこされている小汚い小娘という組み合わせであるのに、通り過ぎる人々はまるで見えないかのような反応が不思議でならなかったが。

連れて行かれたのはこじんまりとした小さな教会。その教会の個室らしきところに地下への入口がありそこに侵入。

地下通路へとつづき小さな個室があった、そこに無造作に置かれている宝石や硬貨、とよくわからない道具類。

それもどっさりと。

あのときは、しばらく茫然としてしまったね。

ほこり臭くてせき込んだことで正気を取り戻したけど。

「残っていて良かったです。私にはどれくらい必要かわからないので好きなだけお持ちください」

そんなこと言われても…。

ということでナイトが適当に硬貨だけを持ち出して、高級宿屋に入り込んだのだ。

高級なだけあって風呂もあって言えば服もかってきてくれて病人食まで準備していただきました。

さすが高いだけあるっ!

ということで現在に至る。

「ってかナイトって生きてたの?でないと隠し財産なんてできないよね?ってかアレ本当にナイトのものなの?自分のだって証明できるの?あんな不敬になりそうな所に隠してるなんて裏金っぽいじゃん。使ったら泥棒になったりしないのっ」

血がめぐり始めると色々と気になりだした、気づくの遅いよ私。

軽やかに笑って答えてくれそうにないナイトを睨みつけてみるけど効果がないようだ。

「ちゃんと答えて。でないともう呼んであげないよ、ずっと石の中にいて窮屈な思いすることになるかもしれないんだから」

「フェア様、それ脅しになっておりませんよ」

かわいいなー、と言葉が聞こえそうな撫で方をされました。

子供だから子供扱いでも問題ないんだけど、ちゃんと説明はしてくれないと。

撫でられていた手をずらして捕まえておく「ほら、説明」と促してみるけれども。

「もう少し大きくなってからお答えいたしますね、それまではゆっくりと成長なさってください。私がお守りいたしますから」

切られた果物を差し出された、新鮮な果物なんて久しぶりでついついそちらに意識が行ってしまう。

甘い匂いがしたんだもん。

あれだけどっさりとあった硬貨もいつかはなくなるので今後のことを考えることとなった。

とりあえずは安定した生活っ!これに限る!

「それならば三等平民の方に保護者となってもらうのが現状の最善かと」

「さんとう?」

そりゃ、王様がいて貴族がいてそれと平民、奴隷、というくらいはわかるのだが更に細分化されてんのかよ。

「単純にいえば王族、貴族、平民、奴隷となるわけですが平民にも一等、二等、三等と三つにわけられています。それによって住む場所や優遇などに差が出ます。基本的に上から金持ち、中級、貧しいと思っていれば問題ありません。本当は私が保護者となってお育てしたいのですが残念ながら身分の証明ができませんので誰が適任かと考えた次第です」

「それでなんで貧しい三等なの?」

「簡単です。お金のない三等なら取引しやすいからです」

あれ、ちょっとこの胎片は腹黒いよ。にこやかにしているのになんか黒いよ。私は腹黒くないよね。

「…学校には通いたいよ、貧しいとかじゃ学校行けなくない?」

ちょっとここは譲れないからね。なんでそんな極上の笑顔してんですか、ずり下がりたくなってきた。

「フェア様は賢いのですね。嬉しい限りです。大丈夫です、保護者の方は女性の方を選びましょう、そしてその女性は貴族の愛人をしていて、そのお金で通う、という粗筋です」

ちょっとちょっと、とナイトを呼びつけて思いっきり枕で、その美麗な顔をたたく。

「ふしだらな関係反対!」

っていうかこいつ神官服着てるくせに言うこと言うことがおかしいんだけど。そんなの通用しないってよ。人様に迷惑かけるの前提だし。

「…ふしだら、ですか?…そうですかね。フェア様がおっしゃるのなら違う案を考えましょう」

「是非、そうして。んで取引って?」

「単純です。保護者、という役割をしてもらう人間を雇いやすいからです。口が固くてお金につられて長期間拘束しても大丈夫なのは仕事に就くことが難しい三等平民ぐらいですからね。それなら、奴隷を、とおっしゃるかもしれませんが奴隷では平民登録されていませんから保護者としては不適合です」

なるほどね、家族のふりをしてくれる人を雇うってことか、でも手続きは本物にして私はその人の養子にでもすれば、お金はあることだし一般人として暮らしていくのに問題なしとなるわけだ。

保護者がいれば私が働く先を探すこともなく学校に通えるし、食べるものがちゃんとあれば人間は大きくなるわけだから私は成長できる。変に上のほうとかにしちゃうとあとあと困る、しがらみとかできるかもしれないし、いいかもしれない。三等ならいざとなれば逃げても不振に思われないかもしれないし。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ