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8 生活を整える

ナイトは川から上がってみてた濡れていなかった…。魔法かな?

そして時間がないことからナイトを川に突き落とした理由はうやむやになり高級宿に女性をお持ち帰りすることに。

本当は転ばすだけのつもりでナイトを蹴り飛ばしたのだが、川まで落ちるとは思わずうやむやになったのに少しだけ安堵する。

女性は頑張れば一人でも歩けるらしいのだが、ここはナイトに背負ってもらった。

そのほうが早いし。

とっている部屋にそのまま連れてはいる。

宿の人に不審そうにみられたけど特に何も言ってこなかったので気にしないことにした。何かあれば声をかけてくるでしょう。

二人用の部屋で寝室は別という贅沢な部屋に入り、つかっていないベッドに女性を寝かせる。

ナイトは寝る必要がないということでベッドはつかっていないのだ。

「凄い部屋に泊ってんのね」

しみじみとまわりを見渡した後に言われた。私もそう思うけど、もっと安いところに移動したいけどナイトが認めないのだ。「これ以下はあり得ません」って言って。お金がもったいない。

「どうやって治療するの?」

聞かなかったことにしてナイトに話しかける。

河原では自信ありげだったけど。これで出来なかったら困るよ、女性に恨まれちゃうよ。

疑わしげにみているのに気づいたのか私に視線を合わせるために片膝をつきしゃがみこんできた。

「ご安心ください、私の最も得意とする術は治癒です。瀕死のものですら起き上がります」

「具体的にどんな術を使うの?」

これって魔法だよね?さっきは驚きすぎてスルーしちゃったけどあんな契約とかできちゃうなんて、やっぱファンタジーだ。

…私は使えないらしいけど。

興味津々に聞いてみた。

「そうですね、病気ですから正常な体を作るような術を使います。体の悪い部分を排除し正常な体に作り変えてしまう、といったところです。多少の痛みを伴う場合もありますがそれぐらいは我慢してくださいね」

にっこりとナイトは笑った。それに頷く女性。

多少痛いぐらいで治るなら、まぁいいか、と思ったのだが私はまだナイトのことをよくわかっていなかった。

ナイトが女性に両手をむけてつぶやきだしている時も、本当に治るのかとばかり気になって。

光が女性をつつみこみ薄ぼんやりと光っているのだが眩しくもなく改めて魔法なるものの不可不思議さにみとれていた。

さきほどの契約も魔法を利用したもので、かなり重要なときに用いられるものらしい。

だんだんと女性のうめきというか痛みを我慢している表情がただごとではないほどになり、叫ぼうとしているがナイトの手でふさがれて顔は真っ青になり癒す、というより瀕死になっているのではないかと思える状態になっていた。

これ、止めないといけないのかな!?

いや!でも?

頭は真っ白。

何をすればいいのか見当もつかず、途中でとめて失敗し逆に死んでしまったら、ってかこの状態は危険だ。

何も出来ずにいるとすぐにひかりはおさまった。女性の口にあてられていたナイトの手もどけられて正常な呼吸になりつつあるのがみえた。

真っ青であった顔色も健康的な色になりつつある。

「…治ったの?」

聞いてもいいかわからないがそのための術のはずで、それ以外が思いつかなかった。

「はい、完璧です。痛みが発生したのは反動ですので心配ありません。通常は痛みを感じないように麻痺の薬を飲ませるのですが許可がある所でしか手に入りませんので我慢していただきました」

「…へぇ~」

「はい、病気が重いほど反動が激しくなりますが、まぁ痛すぎて気絶するだけですので命に別状はありませんからご心配なく」

いや、命にかかわらなくてもアレはトラウマになりそうだったけど。

死ぬか生きるかの瀬戸際でギリギリ死ぬほうを選んじゃうかもよ?私なら。

さらに説明を続けようとしていたナイトを無視して女性の顔を覗き込んだ。

「大丈夫?」

そっと声をかけてみると、うっすらとした微笑みをむけてくれて汗をかいているのをぬぐってあげた。

「二度と体験したくないね。けど生まれ変わったような気分だよ」

意外にもはっきりとした返答で本当につい数分前まで死ぬかけの人には見えないほどだ。

「少し眠る?もし話をしても大丈夫ならこれからのことを決めたいのだけど、無理なら自己紹介だけでもしよう?」

「大丈夫さ、ここんとこずっと寝てたからね。なんだか寝てるのがもったいない気がして寝付けそうにもない」

笑って起き上がろうとしていたので、背中に枕を当てたり布団をかけ直したりして起き上がるのを手伝った。軽く感謝されて、私はナイトがもってきた椅子に座る。ナイトは簡易キッチン?のようなところでお茶をいれてくれているようだ。

渡されたお茶をゆっくりと飲みながら、これからのことを話し合った。

無一文の女性なのとこちらが契約主ということで住居やいろいろな物の準備金はこちらからだすことにして、報酬としてのお金は私が成人した後となった。

とりあえずの生活とほどほどのお金があれば困らないらしい、生活費も報酬金から引いていくということで、私の分の生活費とともに渡せば暮らしていくことに困らない額となった。といっても私にはそれが高いのか安いのかもわからなかったけど「魂の契約をさせていただきましたので逃げも隠れもできません。私としましては足りないように思われますが今の時代では妥当な金額かと」というナイトの発言で細かいことは突っ込まないことにした。

だって契約破ったら“死”だよ、よほどの事情がない限り破る人はそうそういないし、女性も開き直っている感じをひしひしと感じる。

それほど重要な大事<おおごと>な契約だということがうかがえた。

「私の名前はフェア、後ろにいるのがナイト。あなたは?」

「本名はグランテさ、よろしく頼むよ。本名を名乗るのなんて何年振りだろうかね、母さんがつけてくれた名なんだよ」

照れくさそうに笑った顔が25とは思えないほどに幼く見えた。

「いい名前だね」

「ありがとう」

本当にいい名前だと思った、親がつけてくれてそれを本人が大事にしているんだから、それだけでいい名前なんだと思うんだ。

あと決めたことは中流地区と下流地区の間ぐらいに家を借りることと、必要な家具、日用品、雑貨、もっとも大事な保護者の手続きと学校への入学手続きを手早く済ませることとなった。

「どうして中流と下流の間に家を借りるの?中流でもいいと思うのだけど?」

素朴な質問として気になった、だってそっちのほうが安全じゃない?

「下級っていったって実際は貧民街と違いはないから危ないのさ、中流で母親と子供だけっていうのは目立つ。それに、そいつの姿をみられたら余計に目立つ。まぁ放蕩息子が妾をかこっているっていう格好をつけるなら、そこらへんが目立たないからね。あとは中流が二等のやつらが多いからいじめられちゃうよ」

ちゃんとした社会的な事情というのものがあった。大人の世界は恐い。

一つうなずくことで了解して無言で私を撫でまわしていたナイトを突っぱねておいた。

「グランテ、わかっているでしょうがフェア様は私の主人なのです。大切にするのですよ、傷一つでもつけてはなりません。大切な大切なお方なのですから」

こ、こいつは殴りたくなる。

「はぁ」

グランテさんはこまってこちらを見てくる。

「ナイト!お黙り!グランテさん、ナイトのいうことは気にしなくていいから」

注意をすれば、ただちに静かになってこちらをうかがってくるナイトを無視してグランテさんをみつめる。

「気にはならないけど、参考までに聞くんだけど二人はどういう関係?そっちの男はいかにも神官の格好をしていて美形で宿よりよっぽど教会で説教しているほうが似合いそうなのに、フェアみたいな普通の子供を囲っているようにみえるんだけど。…フェアって美系の子供なの?」

…間があったよ、間が!絶対そこにはロリコン的な言葉が入りそうな間がっ!

それに怒りを見せたのが私ではなくてナイトであった。

「失礼なっ、フェア様が私のようなものの子供などとフェア様が穢れてしまいます!こんなに清らかで美しいお方が私の血縁などではあり得ません。フェア様は私ただ一人の主人。そして私だけが守り育てることを許されている存在。私が愛し、いつしむことを定められた人物。わかりましたね!失礼な発言はしないでもらいたい」

いや、何言ってるか分からないし、グランテさんポカーンってなってるし。

「要約すると、現在の保護者的な人物でそれ以上は気にしないでください。私もよくわからないので」

そう、本当によくわからないのだから。

「まぁ、うん、わかった。触れないでおくよ、そっちのは名前も呼ばないから。うん、呼んだら怒られそうだし。あとはフェアって呼ばせてもらうから。私のことは母さんでもグランテさんでも呼び捨てでもいいよ、年を考えると母親と娘ってことにするだろうし」

ナイトのことには触れないでくれるのはありがたいけど、どんどんと設定が決まっていってしまっている。

当初の予定どおりといえば予定通りなんだけど、なんだかなぁー。




翌日、グランテさん、改めて私の二人目のお母さんはすこぶる元気になった。

魔法ってすごーい。

私の時はもっと時間かかったんだけど、それって自力で治したからだよね。ナイトが看病したがったからゆっくりと治してたわけじゃないよね。

とおもいつつナイトをみると目をそらされた。おっかしいな“ながら制御”してないからわたしの考えていること漏れているはずなのに返事をしないなんておっかしいな。

ナイトが一歩さがった。

ちらっとみるだけにして制御をしつつお母さんと手をつないで、外に出た。

保護者の法的手続きは、あっという間に終わった。

なにそんなザルな感じでいいの?と心配してしまうぐらいあっさりとしたものだった。マガラさんからグランテさんに移しただけ。孤児院では移動させていなかったらしくそのままであった。

そして組合的なところに行って家を借りる手続きも済ませた。大人の人ってすごいね、なんでもできるように見える。

借りた所はマガラさんと住んでいたものより少し大きくて、それぞれの個室があり前の世界でいうところの2LDKという物件だ。室内には最低限の家具はあり、あと必要なのは日用品ばかりと学校への手続き。

そっちのほうも簡単にすんだ。私が一人で来たときはだめだったけど保護者が一緒なら楽勝。すぐに終わらせて、買出し。

特におしゃれなデザインがあったりかわいいデザインがあったりするわけではないので実用的なものを選んで終了。台所用品と掃除道具だけを買い軽く掃除して。

本格的に住むのは三日後なのだ。人が住んでいなかったようで、掃除と必要な物の買い出しに時間をかけることとなった。

あとはベッド用品とか勉強に必要なものとか洋服一式とか食器とかいろいろとある、それに家と買い物場所との往復で時間がかかってしまうのだ。

「あと必要なものは、おいおい買っていけばいいんじゃないのかね」

元からある椅子にすわってだれてしまったお母さんはお疲れのようだ。

男手がないのだから重いものは必然的に大人が運ぶことになってしまったのだ、私が運んでもよかったけど「子供に運ばせるなんて、どんな鬼畜さ」と断られてしまった。

なので私が持っていたものは軽いものばかり。

ナイトはいない存在としてやっていこうと思って、まだ新しい住居には姿を現したことがないし、なるべく姿を見られて目立つことになるのも嫌だったので申し訳ないけど石の中に引っ込んでいてもらっている。

私も荷物を置いて、水を汲んであったカメから器に水をいれて“お母さん”に差し出す。

「どうぞ」

「ありがとう」

やさしそうに笑って受け取りながら、頭をなでられる。こっちの世界の大人は子供の頭をなでるのが好きなのか、よく撫でられる。

「“お母さん”、これからよろしくお願いします」

「こっちもよろしく」

彼女をお母さんとして、本当の親だと思って成人するまで過ごす簡単な決意を言葉にして伝える。

演技の下手な私が表面だけ取り繕うことなんてできないし、目立ちたくないのだ。本当の親だと思えば自然に生活できるように思えたから。

今日から心で練習した“お母さん”という言葉を口に出すことによって、本当の親子のように生活できるはずだ。

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