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2ー1

「おい! もっと優しく扱ってくれ!」

 宗佑はゲーム外の晴人に言った。

「うるさいなー。俺より長く生きてるんだから、もう少し落ち着きなよ」

 晴人は、わざと乱暴に宗佑を動かした。

「だから、もう少し優しくって……うぉい!」

 宗佑は、その場で宙返りをした。何の合図もなかったので、酷い空中姿勢のバク宙だった。

「ひゃっほー!」

 晴人は大声ではしゃぎ出した。久々に『Fantastic War』をプレイできるのが嬉しかったのだ。

「ちょ、ちょっと……。マジで頼むから」

 宗佑は、乱暴に扱う晴人に恐怖を憶えた。

「ごめん。ごめん。気をつけるよ」

 晴人は、気をつけると言った割には再び、荒々しく宗佑を動かした。晴人は今、宗佑の主導権を完全に握っている。宗佑を、手足のように扱うことができる状態にあるのだ。

 『Fantastic War』では、キャラクターとプレイヤーの間で、操作の主導権を決めることができる。

 プレイヤー側が完全に主導権を握るスタイル。これが一般的なスタイルといえる。キャラクターは、プレイヤーに全てを委ねる形だ。

 プレイヤーとキャラクターで、操作を分担するスタイル。例えば、プレイヤーはキャラクターの移動操作を担当する。キャラクターは、装備した武装の操作をする。など、操作する線引きをお互いで決める形である。複雑になりがちな操作をお互いで補完できるため、初心者から玄人まで幅広く使われるスタイルで、このゲームの売りでもある。

 キャラクター側が主導権を握るスタイル。キャラクターが自由にゲーム内を動くことができる。ただ、プレイヤーは勝手に動くキャラクターを眺めているだけになるため、一般的なゲームでいうオートプレイに近い。

 ビルの間を縫うように、宗佑達は移動していた。今回、戦場となるのは、高いビルの並ぶ、市街地だった。ルールは、十六対十六のチームデスマッチ。相手側のプレイヤーを全滅させることができれば、勝利だ。晴人達以外のプレイヤーは、別のクランに所属しているプレイヤー達や、野良で参加しているプレイヤーで構成されている。

「未来、そっちはどうだ?」

「今のところ、敵の姿はなし。源どう?」

「こっちも――」

 源の通信は言いかけて切れた。

「源! おい!」

 晴人は、画面に表示されたレーダーを確認し、宗佑を源のシーヴの下へ向かわせる。

「未来、太志遅れるなよ!」

「晴人張り切ってるね」

「なんだかんだ言っても、晴人はこのゲーム大好きだからね」

 未来のハルと太志のヒロも宗佑に続いた。


 シーヴの目の前には、二人の相手敵キャラクターが、路地に身を隠し、交互に狙いを定めてきた。

 敵のライフル銃が火を噴いた。甲高い連続の発射音。シーヴは、咄嗟にごみ箱を遮蔽物に銃弾を躱す。

「ごみ箱じゃ、ただの紙切れと一緒でーす!」シーヴは怒鳴った。

 そんな皮肉はお構いなしに、敵は銃撃を続ける。フルオートででたらめに吐き出された銃弾が、路面やビルの壁に当たり、弾かれる。

「あっちの路地に除けながら、逃げ込むんだ」源は早口で言う。

 彼らは操作を分担している。移動に関しては、全てシーヴに一任し、その他の操作を源が担当している。

「簡単に言ってくれるねー!」

 シーヴは額に汗を浮かべながら、再び怒鳴る。敵からの弾幕が薄れたのを見計らい、散弾銃で撃ち返した。

 ろくな照準はできなかったが、こちらの動く隙を作るためだ。数メートル先の路地に逃げ込むには、十分だった。

「ゲーン。一人は左の路地から、もう一人は右の路地に身を隠してるよ」

 路地に身を隠したシーヴは、源に状況を説明した。

「オーケー、シーヴ。続けて行くぞ」

 路地から体を半分出したシーヴは、散弾銃で射撃した。

 さきほど敵のいた位置に照準を合わせて打ち返したが、手応えはなかった。路地に再び身を隠し、レシーバーをスライドさせ、排莢を行う。

「ヘイ! ゲーン! どうするよ!?」

「でかい声出すな! 今考えてる!」

 相手の執拗な射撃は続く。シーヴは、飛び出すタイミングを窺う。

「もう少し堪えろ! 今晴人達がこっちに向かってる!」

「りょうかいねー。時間を稼ぐね」

 シーヴは再び、路地から飛び出し、散弾銃の引鉄を引く。再び、敵の弾丸がシーヴに襲い掛かる。宙に舞い散るガラス片。それらを頭に浴びながら、堪らず路地に身を隠す。

「まだですかー?これ以上は、厳しいですよ……」

「もう少しだ。我慢し――」

 突然、シーヴと敵の間に、激しい閃光が走る。スタングレネードだ。

「悪い、遅くなった! 太志!」

「あいあい」

 太志の動かすヒロは、モシンナガンのスコープを覗き込み、じっと狙撃のタイミングを伺っていた。晴人の合図と同時に引鉄を引いた。

 銃弾は、右の路地から僅かに飛び出した敵の腕を射抜いた。敵はライフルを落として、苦しそうに地面に膝をつく。

「太志さん。やりましたよ!」

 ヒロは、ずり落ちた眼鏡を上げ、歓喜の声を上げる。

「はるほ、みふはとはのふわ(晴人、未来後頼むわ)」

 安堵したのか、太志は直ぐに手元のスナック菓子を口に放り込んでいた。

「太志にしては上出来だ!」晴人は、言いながら宗佑を素早く動かす。

 宗佑は、M4カービンをフルオート射撃し、膝をついた一人を狙う。銃弾は見事に相手の額を撃ち抜き、地面に崩れ落ちる。

「やるじゃない晴人!」

 宗佑と晴人の活躍に驚きながらも、未来は、ハルを動かす。彼女にとって、もう一人の敵を倒すのは造作も無いことだった。スタングレネードの閃光を浴び、動転している敵に向けて、狙いを定め引鉄を引くだけだ。M4の銃身から、三点バーストの弾丸が火を噴いた。敵の下腹部から、胸に掛けて銃弾が直撃した。敵は、大量の血を噴き出しながら地面に崩れ落ちた。

「大丈夫か? 源?」

 晴人は、宗佑をシーヴの隣に移動させて聞く。宗佑は「大丈夫ですか?」と声を掛けるが、シーヴはスタングレネードでまだ耳をやられているようで、よく聞こえていないようだった。

「おまえ! 使うなら使うって言えよな!」源が晴人に怒鳴る。

「ちゃんと合図ほしいでーす」シーヴも頭を軽く振り、晴人に不平を言う。

 散弾銃に弾を込めながら、何やらブツブツと汚い言葉を呟き出した。

「合図してる余裕がなくてさ。それに、宗佑は今日が初めてだったからさ。上手く投げられるか心配だったんだ」

 晴人は、彼らを宥めるように説明をした。宗佑も「まぁまぁ」と両手をあげてシーヴを宥めていた。

「今のは源が悪いよ」太志が言った。

「また、シーヴが死ななくて良かったですよ。私、人見知りするほうなので……また新しい人になったらどうしようかと思いましたよ……。まぁ、人見知りはハルさんほどではありませんが」

 眼鏡を中指でくいっと押し上げたヒロは、丁寧な口調で言った。

 サラリーマン時代の名残りなのか、丁寧な口調を心掛けているようだ。その割には、敬語の使い方を間違えることがたまにあるようだが。

「前に出すぎるからそうなるのよ」未来は迷惑そうに言った。

「……あんまり無茶……されると……困る……」

 シーヴと宗佑に近付いたハルは、消え入りそうな微かな声で言った。普段物静かなハルは、あまり多くを語らない。

 宗佑もハルが喋っている姿は、ほとんど見たことがなかった。

「悪かったな! 次からは気をつけるよ!」源は、投げやりに言った。

「気をつけまーす」

 陽気に言うシーヴも、反省しているようには見えなかった。

「ったく……」晴人は呆れていた。

 宗佑は、ハルとシーヴに向き直る。遠くに離れていたヒロも合流する。

「えっと……宗佑です。よろしく」

 いきなり、ゲームの戦場に駆り出された宗佑は、ハル達に簡単な自己紹介をすることにした。

「よろしくお願い致します」

 ヒロは、丁寧におじきをして言った。彼のおじぎは、理想的な角度だった。これもサラリーマン時代に培ったスキルなのだろう。

「スケさーん、よろしくでーす!」

 シーヴは、いつもの陽気な挨拶で返す。

「スケさんじゃなくて、ソウスケ!」宗佑は、強く反論した。

「……」

「えっと……ハルさん?」

「…………よ……ろし……く」

 ハルは、大きな瞳で、宗佑をまじまじと見て言った。

「俺ずっと前から、君のこと応援してたんだ! だから今、目の前にハルさんがいて、一緒にプレイできて、夢みたいだよ!」

 宗佑は、喜びを爆発させるかのように、興奮した様子で言う。

「……あ……の」

「よーし! 次行くぞ!」

 宗佑達のやりとりを遮るように晴人が大声を出した。晴人の操作で、宗佑は動き出す。

「ハル……でいいです……」

 照れ臭いのか、頬を赤らめながらハルは呟いた。

「え……う、うん。わかった。えっと……ハル。頑張ろう!」

 宗佑は少し驚いたが、嬉しかった。彼も照れ臭かったのだろうか、顔が紅潮していく。

「ハルさんがこんなに饒舌なのは、珍しいですね。興味深いです」

 ヒロは、宗佑を品定めするかのように見ていた。

「スケさんとハルは、できてるですかー!? んー? いいね! いいね! 青春ねー!」シーヴは、からかい方も陽気だ。

「あーうるさい! 青春とか馬鹿か! 俺はもう二十八だ! アラサーなんだよ! 青春なんて、とうの昔に終わってるの!」

 からかわれた宗佑は、激しく反論した。

「はいはい。親睦会はそこまで。行くわよー」

 未来は、手をパンパンと叩いて、彼らの会話を強制的に終了させた。未来とリンクしているハルは、同様にパンパンと手を叩いた。

 宗佑には、その姿がどこか可愛らしく、可笑しかった。

「……わ、笑わないで……」

 ハルは、再び頬を赤らめながら、小声で呟いた。

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