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1ー4

 宗佑はステージに転送されたときと同じように眩い白い光の中を浮遊していた。どうやら、誰かにやられたようだ。

 後頭部に手を触れると、手の平にべっとり赤い塗料が付いた。不快に感じた宗佑は、野戦服のズボンに手の平をゴシゴシとなすりつけて汚れを落とした。暫くして、見覚えのある場所に戻ってきた。

「No.7帰還しました」

 DDD社の制服を着た係員が2人、宗佑の転送ポッドに近づく。何やらヘッドセットのようなものを付けており、上階のオペレーターに帰還の報告を行っているようだ。

 転送カプセルに戻ってきた宗佑は、視界の右上に表示されていたタイマーが消えていることに気づいた。

(終わっちゃったな。結局倒せたのは1人だけか。散々な結果だな)

 B9Fの転送ポッドのある部屋には、既に模擬戦を終えた何人かの参加者がいるようだ。血を連想させる、真っ赤な塗料が体中に付着した姿は、戦争映画で観た野戦病院のシーンを思い出させる。

 疲弊して壁に寄り掛かって腰を下ろし、俯いている人が目に付く。

 慣れない環境と、戦いの緊張感からか、宗佑はひどく疲れていた。このままベッドに倒れ込み、明日の朝までぐっすりと眠れたら幸せに違いない。

 壁に寄り掛かって、ボーッと床の一点を見つめていた宗佑にアニーが声を掛けた。

「宗佑さん、お疲れ様です。初めてのファンウーの世界はどうでしたか?」

「何とも言えません。戦い方も全然ダメでしたし」

「今回は模擬戦ですから、うまく出来なくて当然です。この後、実際にプレイヤーの方と戦場に出て色々勉強すればいいじゃないですか」

 さっきまで落ち込んでいた宗佑に、アニーは励ましの言葉を掛けた。

「そうですね。元気出てきました! ありがとうアニーさん」

 笑顔で頷いたアニーに宗佑も笑顔で応えた。アニーの後ろに控える係員が、2人のやり取りを遮るように近付く。

「向田宗佑様。武器の返却と着替え、シャワーを済ませたら明日の朝までは自由時間になりますので」

「へいへい。わかりましたよ」

 アニーとの至福の時間を邪魔された宗佑は仏頂面で、係員の指示に従った。

 アニーに別れを告げ、諸々の作業を淡々と行った宗佑は、自分に与えられた個室へ移動した。ベッドに勢いよく倒れ込んだ宗佑は俯せのまま眠ってしまった。


***


「晴人! おはよ!」

 後ろから晴人の背中をポンっと叩いた未来は、肌を露出した服を着ている。

 彼らの学校には制服がないので、服装は自由である。未来は、背伸びしているからなのか、露出の高い服装を好んで着ている。晴人は、ジーンズにカーキのミリタリージャケットを羽織っている。晴人はだいいたい同じような格好で登校している。

「おはよ。未来、ちょっと見え過ぎじゃないか?」

「え、そうかな?」

 晴人はどうしても未来の露出された体に目がいってしまう。

「ていうか晴人学校来るの久々じゃない? たかがゲームで引きずりすぎ」

「うるせーよ。俺はな、お前が思ってるより繊細なんだよ」

「何恋する乙女みたいなこと言ってんのよ」

 校舎前の道を通り、晴人と美来は自分達の教室へと向かう。


「お。三日ぶりの登場じゃん晴人」

「ひへゃひぶり(ひさしぶり)」

 教室には、(げん)太志(たいし)が窓際の晴人の席の周りで彼らを待っていた。

 源は学校にまで、コレクションしている武器を持ってきていた。太志は相変わらず、何か食べている。

(今日は焼きそばパンか)

「おう。ひさしぶり。ていうか、学校にまで銃持ってくるなよ。リボルバーの拳銃か?」

「コルト・シングルアクション・アーミーだ! 知らないのか!?」

「いや、大概の人が知らないと思うぞ!?」

 自分の席についた晴人は、鞄を置いて椅子に座った。

「で、来週のクラン戦はどうすんだよ?」

 源はコルトSAAのシリンダーを回転させて、ふざけながら、晴人に聞いた。当然、弾丸は装填されていない。

「しつこいやつだなー。前も言ったけど、キャラがいないんだ。不参加だよ」

 鞄からゲームの雑誌を取り出した晴人は、雑誌を眺めながら答えた。鞄の中には、教科書の類、学生の本分である勉強に関するものは一切ない。

 携帯ゲーム機に、ゲーム雑誌、攻略本。ここまで、はっきりと勉強よりゲームに情熱を注いでいるのは寧ろ清々しい位である、と以前担任の教師に言われたほどである。

「来週までに探せばいいだろ?」

 コルトSAAの銃口を晴人に向けて源は言った。いつものおふざけなので、晴人は華麗にスルーした。

「探すとか簡単に言ってるけどな、俺とビリーは最高のコンビだったんだ。そんな簡単に代わりのキャラなんて見つからないよ」

「まぁまぁ、とりあえず駄目元でさ、DSHOP見てみようよ」

 未来に促されて、晴人は渋々鞄の中からノートPCを取り出し、電源を入れた。

 DSHOPのサイトを開いた晴人は、『Fantastic War』のページへ進んだ。未来と源と太志は、晴人の背後からPCの画面を覗き込んだ。


「お! てか武器のコーナー大量入荷!」

「ひゃべものは(食べ物は?)」

 先ほどまで焼きそばパンを食べていた太志は、今度はコロッケパンを食べている。

(朝からよく食うな……)

「何このデザイン可愛い!  オーダーメイドの野戦服だって! ママいい仕事してるわ! 晴人そこ見せてよ!」

「お前ら……」

 三人の意見を当然のように無視した晴人は、キャラクターのページを開いた。

「えーっと。とりあえず新しく入荷した奴を検索して……」

「おー! かなり増えてるじゃん!」

 背後から画面を除いていた源は、晴人の肩に手を置き、画面に顔を近付けた。

「どれどれ……。おー凄いじゃない。晴人、ランクの高い順にソートかけてよ」

 未来にそう言われた晴人は、検索条件のコンボボックスを選択し、ランクが高い順にキャラクターの表示を並べ替えた。

「んー? これだけ入荷してるのに、全然ランクの高いキャラがいないぞ。しけてんなー」

「本当ね。中途半端なのばかり」

 気づけば、未来まで画面に顔を近付けて、食い入るようにキャラクターを見ていた。

(ちょっと胸が当たってるんだが……。このまま黙っておこう)

「うーん……。たしかに……。これといって、魅力的なキャラはいないな」

 晴人は、頬杖をついて、マウスを動かす。

「でも、クラン戦は来週だぜ? とりあえず、繋ぎでもいいから何か買ってさ、来週なんとか参加してくれよー」

「えー!? 繋ぎで買うとか嫌なんだけど……。良いキャラ見つかるまで、不参加じゃダメなのかよ?」

「ダメ! お前は強制参加だ。逃れられんのだ」源は偉そうに胸を張っている。

「太志! ちょっと……」

 源は太志を呼ぶと、席から離れた位置で何やら話をしている。

「はー。そりゃあファンウーには、早く戻りたいよ。好きだしさ。でも、キャラは大事だろ?」

「そりゃそうね。でも、源は言っても聞かないから」

 未来は興味がなさそうに、髪をいじっている。

「晴人、ちょっとPC見せてくれ」

 源はいつの間にか太志との話を終え、戻ってきていた。

「ああ……」やや、強引に席を奪われた晴人は、立ったままPCの画面を見る。

 源は、PCの画面を見ながら、マウスを手際良く動かしている。カチカチと、クリック音だけが暫く続く。

「……。ちょ、ちょっと待て。源お前……」暫く眺めていた晴人は何かに気付く。

「太志!!」

「あいあい」

 気づけば、太志が晴人の背後にピッタリと張り付いていた。源の合図で、太志が晴人を羽交い締めにする。

「おい! お前ら! 何する気だ!?」

 晴人は、必死に抵抗するが、太志の巨体からは逃れることができない。

「よしっ! オッケーだ! 太志!」

「あいあい」

 太志は晴人を離し、どこから出したのか、大きなチョコバーをモリモリと食べている。

「これで、キャラの心配はいらんだろ?」

 源はニヤニヤしながら言う。どうやら太志に賄賂を与えたのは、源のようだ。

 晴人はPCの画面を見ると、ガックリと肩を下ろす。


 このたびは、DSHOPよりご購入頂きましてありがとうございます。三日以内に、お客様のデータ端末に、キャラクターを転送致しますので、ご確認をよろしくお願い致します。

            DDD社 DSHOP


「あらま。これはお気の毒……」

 未来はノートPCの画面を覗くと、晴人の肩をポンポンと叩いて、自分の席に戻っていった。

「じゃあ。来週頼むぜ!」

「うまい」

 源と太志も何事もなかったかのように去っていく。

 こうして晴人は、勝手にキャラクターを買われ、来週のクラン戦に参加することとなった。晴人は、後日届いたデータを確認してみる。そこには、正真正銘新しいキャラクターの姿が。


《SOSUKE MUKAIDA 向田宗佑》

 Height(身長):175

 Weight(体重):65

 Age(年齢):28

 Rank(階級):軍曹

 Kill(キル)数:0

 HS(ヘッドショット)数:0

 Insury(負傷)数:0

 Cure(治療)数:0

 WIN(勝利)数:0


「ソースケか……。とりあえず、来週はこいつで頑張るしかないか……」

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