京太郎(2)
もし、次があるなら。
やっとつかんだ手がかりを逃すわけにはいかない。
全てが夢だったという可能性もあるが、本物である可能性を追い求めたい。
そのために京太郎は準備を整える。
目的は1つ。
ナナをこの世界へ連れ戻す。
コンコン、とドアがノックされた。
どうぞと返事をすると、真夜が顔を出した。
「兄貴、これもっていきなよ」
ポンと投げたものを受取る。見れば、小型のハンディカムだ。
「バッテリーは充電してあるからさ。可能ならナナちゃんになんかしゃべってもらいなよ。それで、戻ってきたらそれ持っておばさんに会いにいこう」
真夜の言うおばさんとは、ナナのママさんのことだ。この10年間、ナナのことを一番心配し、そして一番傷ついた人。
ママさんだけじゃなくて、もちろんナナのパパさんも、姉の日菜さんにも、妹の華奈ちゃんにも。
ここしばらく訪問していなかったが、明るいニュースを持っていきたい。
ナナが生きてることをきちんと報告する。それも、証拠つきで。
まったく、真夜のクセに気が回るとは何事だ。
妹の頭をわっしゃわっしゃと撫でまわしてやると、
「なんだよーやめろよーあにきーせくはらだぞー」
と手足をじたばたさせていた。
「京太郎、今日の仕事は中止しますか?」
準備万端、ハンディカムを含む必要そうなものをリュックに詰め込み颯爽とリビングへ戻ると、ノートパソコンとにらめっこしていたみなみが尋ねてくる。
「今受けてるのはしばらく延期にしたいんだけど、できる?」
「現在の依頼案件の重要度は必ずしも高くないので、他にまわしたり連絡をいれれば可能だと思われます」
「頼む。しばらくこっちにかかりきりになりそうだ」
「わかりました」
そう言ってみなみは携帯電話で連絡を取り始める。その姿はデキるキャリアウーマンのようであるが、実際みなみはかなり有能で京太郎は仕事仲間からかなり羨ましがられている。
テキパキと電話をしているみなみの後ろ姿をしばらくぼーっと見ていた京太郎は、ふと思い立ってみなみのそばに歩いていく。
気配を殺しつつ、耳元にふーっと息をふきかけてみる。
「…ではそのような方向でお願いいたしぃひゃっ!!」
可愛い悲鳴があがり、腰が砕けてしゃがみこむみなみ。
小さないたずらが成功して笑みを浮かべていた京太郎の眼前に、怒り心頭の鬼が仁王立ちする。
ややツリ目気味の目が完全にツリ上がり、ギロリと睨まれる。
「ご、ごめんね」
「ダメです」
可愛らしく謝ってみたが、180センチを超える男がやったところで気持ち悪いだけだった。
ノーモーションで繰り出されたみなみの右ハイキックを喰らい、京太郎は「ごべばぁっ」と意味不明な叫び声をあげながら吹き飛んだ。
デキる女、蜂須賀みなみも体育会系であった。
家具や家電をいくつか轟音と共に巻き込みんだ上、最後にテーブルの角にお尻をしたたかにうちつけたせいで括約筋が刺激されたのか、急にトイレ(大)がしたくなる京太郎。
顔しかめながらひょこひょことトイレに向かう。
いそいそと尻を全開にして便座に腰掛けたその瞬間、彼は再び光に包まれた。