京太郎(9)異世界現界また異世界
ルルカ王女の婚姻話はともかく、ここでずっと話をするのも何なので、ということから続きは場所を移動することになった。
神殿の中にある会議室のような場所へ通され、席につく。
白を基調にしているのは先ほどの部屋と変わらないが、調度品など使われているものはいちいち高級そうなものばかりだ。
神殿のくせに、豪華絢爛である。
「さて、話の続きといきましょうか」
ルルカ王女が笑みをうかべて話し出す。
それを京太郎は手でさえぎって言う。
「その前に、トイレに行かせてもらえませんかね」
護衛という名目の監視役に案内され、京太郎は神殿のトイレに入った。
一緒にきたのがマッチョな兄ちゃんだったので思わずガチホモの方かと警戒したが、そんなことはなかったようでトイレの前で待っているとのこと。
流石にないかと安堵し、トイレの中へ進む。
幸い一人になれたので、京太郎は急いでダイブガジェットを起動する。
「サーチ、次元座標……っと」
まず行ったのは、この世界の次元座標を確認することだ。京太郎の召喚されたこの世界が既に発見されているのならば、必ずデータベースに登録されている。
すぐに検索結果が表示される。
「異世界No.PW0032-27M エスア・デモルク。なんだ、登録済みか」
これで懸念が一つ減ったことになる。次元連結がなされているのが確認できたため、今すぐにでも元の世界へ帰還することが可能だ。
召喚魔法はあるが返還魔法はない、などというありがちな展開でも関係なくなった。
それに、京太郎にはまずしなければいけないことがある。
「はやくルーフディーラに戻らないとな……」
世界を渡る能力はあるが、京太郎には異世界から異世界へ直接飛ぶことはできない。
一度元の世界へ帰還してから再度ルーフディーラへダイブする必要がある。
「ルルカ王女にはちょっと悪いが、ここは後回しだ」
そうつぶやいて、座標をセット。ボタンを押し込む。
なかなか出てこない京太郎を不審に思った監視役のマッチョ兄ちゃんがトイレを覗き込むと、そこにはもう誰もいなかった。
神殿は当然大騒ぎになった。
「あれ? 戻ってきたの?」
かすかに物音がした方向へ視線を向けると、兄がいた。
帰ってきた京太郎を見て、ソファに横になってお菓子を食べつつDVDを見るという、いわゆる自宅でごろごろしていた妹の真夜が声をかける。
窓から差し込む西日が、時刻はそろそろ夕方から夜に変わろうとしていることを教えてくれる。
みなみんは?と真夜が尋ねると、
「あと少しってところで俺だけ別な世界に召喚されちまってな、もう一度ダイブしてくるわ」
「大変だね。あ、そうそう、夜ご飯はどうする? 間に合いそう?」
「正直わからん。なるべくそれまでに戻ってきたいけど、間に合わないかもしれない」
「そっか。んじゃ私はテキトーに済ませておくわ」
「頼む」
「いってらー」
先ほどまで異世界にいっていたとは思えないほど普通のトーンで日常会話を終えると、京太郎は再びルーフディーラへダイブする。
戻ってきました異世界へ。
慣れ親しんだ次元回廊を抜け、京太郎はぽーんとルーフディーラへ顕現する。
戻ってきたのは、次元連結をした場所である。
つまり、ドラゴンが出た村周辺までは、結構距離がある場所であった。
今度はホースライダーで陸路を行く理由も時間もないので、経費はかかるが速いリフターユニットを呼び出し装備する。
「うし、一気に飛ぶか。リフターユニット起動!」
そう言うと、リフターユニットのエンジンを全開にする。京太郎の体が重力に逆らってふわっと大地から持ち上げられる。
ある程度高度を取ったところで、推力を後方に向ける。
轟音とともに京太郎の体が風を切って飛ぶ。
景色がかなりの勢いで後方へすっとんでいき、地上を進むのでは到底なしえないスピードで目的地に近づいていく。
「お、見えた」
先ほどぶち倒したサンドドラゴンと放置されたホースライダーが京太郎の視界に入ってきた。
ドラゴンはともかく、ホースライダーは回収しないとまずいので、一旦スピードを緩め、タイミングをはかる。
上空を通過するちょうどそのとき、ダイブガジェットを操作してホースライダーを顕現解除して回収。
再びスピードをあげて、クロン達の村の直前で着陸する。
野良ドラゴンとの戦いの激しさを物語るように、大木がなぎ倒されていたりでかいクレーターがそこかしこにあいているが、気にせず歩く。
こちらの時刻はまだ夕方に差し掛かる直前といったところで、まだ日がある程度高い位置にある。
村の囲いや門も破壊されていたり軒並みなぎ倒され、誰でもウエルカム状態になってしまっている。
「結構やられたな」
と感想を漏らしながら村を歩いていくと、中央にある広場から複数の声が聞こえたので、そちらに向かう。
猫やゴブリン、その他人間型の魔族やモンスターたちが集まっている中から、京太郎はやっと見知った顔を見つけたのだった。
「みなみ!」
その声に、一人残されていたみなみが顔をあげる。京太郎の姿に安堵した表情を見せ駆け寄ってくる。
「クロンから召喚されたって聞いたときにはびっくりして、もう私……」
「結構すぐ戻ってきたつもりなんだが、あれからどれくらいたった?」
「クロンが伝えてくれてからはまだ30分くらい。ナナさんたちは村の食堂にいるわ」
「よし、いよいよだな。じゃあ行こうか」
2人は歩き出す。