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ナナ(1)

魔王軍と勇者たちが繰り広げる戦いは、いまや佳境を迎えていた。

ここは魔王宮への関門の一つであるランフェル城の玉座の間。その場所で激しい戦闘が繰り広げられていた。

よく見れば、爆炎とおぼしき焦げ跡や無数の傷の入った柱、無残に切り裂かれたレース、倒れた石像など、もう一度玉座の間としての本来の使い方をするには難しいと思われるほどの壊れ方だ。


片方は、4人。そしてもう片方は1人。数からみれば4人の方が圧倒的に有利であろうが、実際は逆だった。たった1人に苦戦している。


勇者ナナは荒い息を吐きながら、自分の背丈と同じくらいの長さがあるマジックワンドを支えにして立ち上がる。

若干釣り目がちではあるが、まず美少女に分類されるルックス。爆炎でところどころ焼けこげが目立つがつややかな黒い髪。

彼女こそが魔王をうち倒すべく旅を続けてきたパーティーの主役だ。

その瞳は未だ輝きを失っていない。


「ライトル、ガナザード、アップル、生きてる?」


その言葉を受け、倒れていた3人が起き上がる。


「どうにかな。やはり噂どおりの強さだ」

「さすが『死神』スカイツリーヌ。今のをもう一度喰らったらヤバイぜ」

「でも……、こんなところで負けていられないよ。ね、ナナ」


ナナの心強い仲間、ゴゥリン国の第2王子であるライトル、ゴゥリン国にその人ありとうたわれた聖騎士ガナザード、同じくゴゥリンにその名を轟かす稀代の魔法使い、アップル。


ナナがこの世界『ルーフディーラ』に召喚され、4人で魔王討伐の旅に出てから早3年。死にそうな目には何度もあった。

いくつもの出会い、別れを経験してきた。淡いロマンスらしきこともあった。

そして、スカイツリーヌを倒せばようやく魔王に手が届くところまで、やっとのことでたどり着いた。


あと、少し。

あと、少しなのに。


スカイツリーヌはあまりにも強かった。

たった1人で歴戦の4人を相手に迎え撃ち、なお追い詰めるまでにいたらない。


「私が」


ナナの目の奥に一つの決意が宿る。


「呼び出す」


その言葉に、ライトルが目を剥く。

「それは危険」アップルもナナに翻意を促すが、そのくらいでは翻らない。


「私たちの奥の手は、コレしかないでしょ」


そう言って返事もきかず呪文の詠唱に入るナナ。止められないとわかった3人はスカイツリーヌに突っ込んでいく。

何度やられても、何度倒されても。

ナナの呪文が完成するまでスカイツリーヌを止めるライトル、ガナザード、アップル。


「~バキシモード・ゴォルザ!」


詠唱が終わると同時に光が玉座の間を満たし、ナナの描いた魔法陣が次元の枠を超え、強大な力を召喚する。

ナナが使った召喚魔法は、術者の思いの強さに応じ、次元の果てにいるという精霊を呼び出し力を貸してもらうというものだ、

何が現れるかはほぼランダムで、イチかバチかの要素が非常に強い。


「召喚!!!」


ナナは一縷の望みをかけて叫ぶ。

どうか、スカイツリーヌを倒せるチカラが欲しい!



ナナの思いを受けて光の粒子の中から現れたのは、全裸の男だった。

男は全裸だった。

何も衣服を身に着けていなかった。

モロだしだった。

出現した男は、全裸。


なぜ全裸なのかナナには全くわからなかったが、それでも召喚したこの男が弱いワケがない。

粒子のせいで顔や局部はよく見えなかったが、ナナは信じた。



「いけぇぇぇぇっ!!!」


ナナの叫びで光の粒子に包まれた全裸の男はスカイツリーヌへ向かっていく。



そしてスカイツリーヌは目を見開いて固まっていた。

その顔に浮かんだ表情は、恐怖。

今までの戦いでは全く浮かばなかった表情。


そして。


スカイツリーヌの顔面に、召喚された男の股間が『ぴとっ』とひっついた。

M字開脚のような姿勢で向かっていたために、いわゆる黄門様的なものやボール的なものや棒的なもの……とにかく全てが魔界一の美貌を誇ったスカイツリーヌの顔面に接触してしまった。


「んぎゃゃぁぁぁぁあああぁぁぁっっっっ!!!!!」


それまでとは打って変わって絶叫をあげるスカイツリーヌ。

彼女は生まれて初めて、自身に大ダメージを喰らう。精神的に。


「汚い汚い汚ぁぁぁいいいぃぃぃぃぃいいい!!!!キィーッッッ!おのれおのれおのれぇぇぇっっ!!アンタ達ィっ、なんてモノをワタシの顔につけてくれるノヨ!!!!」


興奮のあまりぷるぷると震えながら激昂するスカイツリーヌ。先ほどまでの余裕ある態度は既になく、ガチで涙目である。



「私の美肌が腐るじゃないノッ!!覚えてらっシャイ!!!セバスチャァンっ!すぐに消毒の用意ヲッ!」


スカイツリーヌが捨て台詞を吐くと、暗闇より執事らしき魔物が現れ、彼女をエスコートしてその場から消えていった。


こうしてナナ達はかろうじてスカイツリーヌを退けたのである。


喜びに湧く勇者一行の脇で、全裸の男はわけもわからずその場にぽつねんと転がっていた。




しばらく仲間と喜びにひたっていたナナは、スカイツリーヌを見事撃退した精霊にお礼をいうべく、男の元へ向かう。

魔法で召喚した精霊は、およそ3分でこの世界を離れてしまうからだ。

しかも、召喚される精霊はランダムなので、次にまた召喚できるという保証がない。

ただしそれには裏技があり、召喚した精霊が消えるまでに彼らと召喚者の間でエンゲージを交わすことができれば、次回よりエンゲージがなされた精霊を指定して呼び出すことが可能になる。


ナナはできればこの精霊とエンゲージしたいと思っている。

よくわからないが、とにかくスカイツリーヌを一撃で撃退するほどの力を持つ精霊である。エンゲージできるに越したことは無い。

なのでナナはいそいそと精霊の正面へまわり、頭を下げお礼の言葉を述べた。


「精霊様、この度はありがとうございまし……きょうくん?」

「……ナナ……なのか?」


その瞬間、精霊……京太郎の体が消えていく。

時間が来たのだ。


ナナがルーフディーラに来て3年、土壇場で彼女達の窮地を救ったのは、ナナの幼馴染・京太郎だった。


とにかく契約しなくては!


それだけの思いで、ナナは慌てて京太郎の頬に口付ける。

対象者の了解を全く得ない行動のため、本当の精霊であれば激怒間違いなしだが、呆然としている京太郎が怒ることはなかった。

完全に消えてしまう前に、なんとか儀式は終了する。


――契約完了。


これで、また呼び出すことができる。

聞きたいことがいろいろあった。

伝えたいこともいろいろあった。


しかし、まず言わなければならないことがあった。


「1つだけ、聞いていい?」

「なんだ?」


残された時間は少ない。

京太郎の体は、いまや胸のあたりまで消えてしまっている。


「どうして……、スッポンポンなの?」


京太郎の顔が一気に赤くなった。どちらかというと恥ずかしいというより怒っている感じだ。



「そりゃ風呂に入ってたからだよ!!」



そう叫んだところで京太郎は消えた。

いつの間にかナナの横に立っていたガナザードが「精霊様も風呂に入ったりするんですなぁ」と見当外れのことを呟いていた。



こうしてスカイツリーヌを退けたルーフディーラの勇者達。

来る最終決戦の日は近い。

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