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京太郎(8)異世界召喚勇者さま

彼にとってはもはや日常でしかない次元の回廊を抜け、出口で再び光の粒子に包まれた。

感覚的に、次元回廊を抜けたところでゴーダイバーの装備一式を解除し、普段着に戻る。

今回がどういう世界かまだわからないが、自分で潜るのとは違い、召喚された場合はいろいろややこしい事態に陥ることもあることを経験しているので、奥の手ともいえる『ゴーダイバー』は隠しておく。ぶっちゃけてしまえば、自分の世界の次元座標さえ忘れなければいつでも帰れるのだ。

次元を抜けるまではどこの世界なのか確かめる術がないので、あきらめて流されるままになっていたが、足が大地を踏みしめる感覚で目的地に到着したことを知る。


ったく、いいところだったのに……。


ドラゴンを倒し、最終にして最大の目標であるナナを自分の世界に連れ戻すまであとほんの少し、というところだったのだ。

余裕を見たって30分もあればミッション完了だったろうに、いわゆる神様か何かが邪魔をしているとしか思えない絶妙なタイミングでの采配に、世界を恨みたくなる。


真っ白で何も見えなかったが、視界が戻るとどうやら自分がいる場所がどこかの神殿のような建造物であると理解できた。

足元に広がっている魔方陣が、未だ発光を続けており、なんらかの魔法が行使されていることを主張している。


う~ん、またこのような世界かぁ……。


もう飽きたというようなため息を漏らす。


ナナを探すために世界を渡る能力を持つ潜界士『ゴーダイバー』になった京太郎は、他の誰よりもいろいろな世界をめぐっていた。

そもそもこの行動自体が本来の潜界士とは完全に逸脱している。

説明が後になったが、潜界士とは今世紀最大の発見とまで言われた『エナジウム』という魔力結晶を採取する職業のことだ。ありていに言えば、猟師とか漁師に近い。

異質なのは、エナジウムは京太郎の世界には存在しておらず、異世界へ渡り魔物と呼ばれる生き物を倒さないと入手することができない、ということだ。地質に鉱石という形で含まれている場合もあるが、魔物を倒す方が簡単なので、今ではそれが主流となっている。

つまり、普通の『ゴーダイバー』は一度いい狩場の世界を見つけたら大抵そこを主戦場にするので、京太郎ほど世界を巡らないのである。


話を戻すが、京太郎が人探しのために多くの世界を回った結果、たどりついた世界の割合は、おおよそ中世ヨーロッパ的な剣と魔法の世界が6割、ほぼ現代に近いのが1割、未来な感じの世界が1割、その他諸々が2割という結果だ。


ということで、今回京太郎が召喚された世界は「またこのような世界かぁ(お察し)」という感じである。

そんな彼の気持ちをヨソに、


「おまちしておりましたわ、勇者さま。勇者さまさえ来ていただけたらこの世界もすくわれます。心から、心から感謝を」


そこに立ってにこやかな笑みを浮かべていたのは、王女様ってこんな感じなんだろうなぁ、という一般市民の妄想を具現化したかのような丁寧に手入れがされたつややかな金髪と透き通るようなブルーの目、全身から『麗しき姫君』オーラを発している王女おそらく

その後ろに控えているのは、京太郎が王女(仮)に無礼なことをしようものなら即座に切り捨ててくれようぞと不穏な空気を纏う騎士団たぶんの面々に、ぐるりと京太郎を囲うように配置されている神官と巫女達(確信)の姿だった。


そうこうしているうちに魔方陣の発光が消え、纏わり就くような感覚も消えた。おそらく、魔方陣によるなんらかの力が京太郎の体を拘束していたのであろう。

体の自由が利くようになったので、その場から一歩踏み出す。


「あー、ここはどこだ?」


王女(仮)の言葉が理解できたので、たぶんこっちの言っていることも通じるだろうとまずはしゃべってみる。

そして意図していつもより堅い言葉遣いにする。交渉をしやすくするためだ。


「ここはキンディオ王国、精霊神ムイメルパ様をまつる神殿でございますわ」


無事言葉は通じたようだ。第一関門突破である。これでコミュニケーションがとりやすくなった。


「あなたは誰だ?そして勇者とはなんだ?」


いろいろな世界を巡る中で今回のように召喚されたことでいった世界もいくつかある。理由はわからないが、京太郎は結構召喚されやすい体質のようで、大抵が勇者として呼ばれている。

よって、今回も勇者と呼称されたことで、この後の展開はおおよそ予想できるのだが、それはこちらの事情である。

一応テンプレート的に聞いてみる。


「わたくしはキンディオ王国の第二王女ルルカ・ペント・キンディオですわ。勇者さま、わたしのことはルルカとおよびくださいませ。それから、勇者とはでしたわね。勇者とは、魔王をたおすものにあたえられる称号ですわ」


そう言ってうふふと微笑むルルカ。

魔王を倒してくださいではなく、勇者=魔王を倒す者とルルカは言った。つまり、こちら側に選択権を与えることは初めから考慮されていないようだと京太郎は考える。


「ではルルカ王女。聞きたいことは山ほどあるが、いくつか質問をまずしてもいいだろうか」

「はい、どうぞ」

「魔王を倒すということはかなり難儀なことと思われるが、実際に魔王を倒したら、こちらに何をくれるのか」

「勇者という名誉を、ではご不満ですか?」

「ご不満ンゴ」

「?」

「魔王を倒すという危険なことをさせようとする割に報酬がしょぼすぎる。黄金10トンとか国家予算5年分とかの金くらいじゃないと」

「困りましたわ。そんなにはらえませんわ」

「別に黄金や金しか認めない、といっているわけじゃない。危険に見合う報酬を約束して欲しいと希望しているんだが」


んー、と何かを考えるルルカ王女。しばらくうなっていたが、その顔がピコーン、と何かを思いついた顔になる。

これは素晴らしいひらめきだ、とでもいうような笑顔である。


「わかりました。では、勇者さまが魔王をたおしたあかつきには、わたくしが勇者さまのお嫁さんになりますわ」


その言葉が出た瞬間、ぞわっとした怖気が京太郎の背中をなぜる。

騎士団や神官たちから向けられる視線が、鋭くなった気がする。


いやいや、いわれなくても、わかってますって。

そう思い、京太郎は言う。


「ところで、ルルカ王女はおいくつなんです?」





「このあいだ9さいになりましたわ。勇者さま」





なんでテンプレ通りの展開で、王女の年齢だけテンプレ通りじゃないのか。


9歳の女の子と結婚は普通に考えてない。断じてない。

俺はロリコンじゃない!


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