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ナナ(7)「もし勇者たちがドラゴンのブレスを喰らったら」

ナナがそれに気がついたのは、ゴブリンのゴブロウスキーさんに連れられて、彼の村に向かっている途中だった。

彼が丹精込めて育てていたデスマスクメロンは、やっぱりあらかたダメになってしまったようで、ゴブロウスキーさんはムスッとしたまま一言も発しないでずんずん進んでいく。

といっても、ゴブリンと人間では手足の長さに違いがあるので、ナナたちは普通に歩いているだけだ。


ゴブロウスキーさんはデスマスクメロンを全滅させた罪で魔界裁判所に訴えるといきまいていたが、ナナたちの懸命の交渉の結果、相応の額を弁償することで一応の決着をみた。

これからゴブロウスキーさんの村で、弁償額の詳細な交渉を行うのだ。魔界での物品売買に備え、魔界用の通貨もある程度は準備してあるが、それだけでは到底足りないため、ナナたちがこれまでに手に入れたアイテムを弁償品に充てることになっている。


「あれはなにかな?」


最もはやく発見したナナが指を差し言った。

ナナの向けた方向へみんなに視線が注がれる。その先には、確かに『なにか』があった。

切り通しを抜けたところで、前方に煙らしきものが確認できる。

煙の他に、何か大きなモノが悠々と飛んでいるのも。


「ヒッ」


ゴブロウスキーさんが悲鳴を上げてひっくり返った。

見ると、顔を真っ青にしてガクガク震えている。

先ほどまでの強気な表情はどこにもない。あるのは強い怯えだけだ。


「の……」

「の?」


アップルが聞き返す。


「野良ドラゴンが……でただ……あぁ……村は……おわりだ……」


それだけ言うと頭を抱えて小さくなってしまう。


ナナはすぐに仲間を見据える。

勇者として、やるべきことはわかっている。

たとえここが魔界であっても、自分は勇者だから。


「行くわよ!」


言葉はそれだけで、充分。

ライトルもガナザードも、アップルも力強くうなづく。


「まかせろ」

「わかってるって」

「村を助けて弁償もチャラにしてもらいましょー」


アップルが素早く魔法をかけ、身体能力、特に走力を底上げする。

あふれでるような力強さが体の芯から常に沸いてくるような感覚が来たら魔法が効いてきた証拠だ。

早速ナナを先頭にして走り出す。

襲撃を受けている村まで約2分。






村は無事な家もあるが、いくつかの家からは炎がごうごうと立ち上っていた。窓を突き破り隣家に肉薄、隣もろとも全焼せんばかりの勢いで燃え盛っている。


野良ドラゴンは未だ空中を悠然と飛び回り、時折咆哮をあげながらドラゴンブレスという名の火炎放射を口からごうと吐く。

それが着弾すると、例え石でできた家であっても紙のように、ぼん、と燃えてしまうのである。


悲鳴をあげながら逃げ惑う人々がそこかしこに見られ、中には必死で消火活動に励んでいる者もいる。

どういう構造なのか、両手を合わせるとそこから水が水流のように流れ出てきている。そういった能力をもった魔族なのかはたまた魔法なのかは不明だが、それでも焼け石に水で被害は大きくなるばかり。


死んでしまった人は被害の割りに少ないもののそれでも黒焦げになった死体がいくつか確認できた。



「これは……!」

「ライトル、絶句している暇はないぞ。アップル、防御結界展開! ナナはファイアーボールでドラゴンの注意を引くんだ。ライトル、一緒に来い!」


ドラゴンと戦った経験が多いガナザードがリーダーシップをとり、指示を飛ばす。


「了解! ……バードン・パンドン・スカイドン、出でよ炎! それっ飛んでけファイヤーボールっ!」


ナナが呪文を唱え手のひらにファイアーボールを発生させて投げつける。炎に強い耐性を持つドラゴンには元よりダメージを与えられないが、初級魔法であるファイヤーボールを連発してこちらに注意を向けさせる。

空を我が物顔で遊弋するドラゴンにいくつか命中するが、ケガひとつない。しかしそれでもうざったそうに一吼えすると、ドラゴンブレスを発射する。


「次はこいつよ! ぺスター・ノーバ・ベムスター、穿て轟雷! くらえサンダーランス!」


ドラゴンに向けて雷の槍が降り注ぐ。多少感電した程度のダメージは与えたようだが行動には支障がなさそうである。


ナナは一箇所にとどまらず常に移動して魔法を撃ち続ける。物理武器を使用した近接戦闘のほうが得意なのだが相手が空中にいる以上ほかに手はない。


しかし、ドラゴンはナナを敵と認識したようで攻撃の焦点をナナに向け始める。

次々に降り注ぐドラゴンブレスを敏捷性を生かしてかわし続けるナナ。そのまま村から離れた場所へえ誘導していく。


ドォーン! ドォーン!


というドラゴンブレスの着弾とともに、地表がまるで爆発したかのように砂を吹き上げる。

もしアレを一発でも食らってしまえば、たちまちのうちにダメージで体はうごかなくなり、後はそのままなぶり殺されるだろうと思うと身も凍る思いだが、やめるわけにはいかない。


直撃こそもらわなくても、翼の風圧で吹き飛ばされて建物に叩き付けられたり、ブレスが体をかすめたりして結構傷ついているナナは回復魔法とサンダーランスを連発しながら地面にはいつくばる。


アップルは村を覆う防御結界で手一杯なため攻撃参加は見込めないため、後はライトルとガナザードが頼りだ。


サンダーランスでチクチクダメージを与えていたが、それ以上にこちらの消耗が激しい。


「もうヤバい!ライトルはやく!」


叫ぶナナ。


「うおおおおっっっ!!」


呼応するかのように、ライトルが文字通り飛んできた。ガナザードがハンマー投げの要領でライトルを飛ばしたのだ。


「奥義・ロイヤルストレートスラッシュ!」


ライトルの剣が一閃。

野良ドラゴンの体から血が噴出す。今度こそ確実にダメージを与えたはずだ。

苦痛にドラゴンが咆哮する。体をくねらせ、ブレスを乱れ撃ちする。


先ほどの一撃が翼近辺にもダメージを与えていたようで、ドラゴンがついに地面に着地する。


「ライトル!いくわよ!」

「任せろ!」


ナナとライトルがこのチャンスを逃すまいと突っ込む。爪をかわし、至近距離から剣を浴びせる。

やや遅れてガナザードも参戦。剛力でドラゴンにダメージを与えていく。


一進む一退の攻防が続き、気がつくと村かっらは完全に離れた草原が戦いの舞台となっていた。

この頃にはアップルも到着し、フルメンバーでの戦いだ。ナナ、ライトル、ガナザードが連携攻撃を放ち、アップルが魔法で援護といつもの戦い方で追い込んでいく。

悔しそうに叫びをあげるドラゴンの状況から、ヤツを倒しきるにはあと一押しというところとナナは判断する。

苦楽を共にしてきた仲間に、振り返り檄を飛ばす。


「みんな、あともう少し!」

「おうよ!」

「倒したらキーンと冷えたエール飲む~」

「これだけやればデスマスクメロンの弁償もお釣りが来るな……って、ナナ!」


ライトルの叫びと同時、ドン!という音と共にナナが吹き飛ぶ。怒り狂ったドラゴンの尻尾で薙ぎ払われたのだ。

ナナがドラゴンを視界を外したその数瞬が命取りになった。


地面に叩きつけられ人形のように転がるナナ。アップルが慌てて駆け寄り、すぐさま回復魔法『ヒーリングシャワー』をかける。

死にはしなかったが、ダメージが大きく回復には少し時間がかかりそうだ。


「痛ったぁ……ごめん、ミスったわ」


ごろごろと転がったおかげで草と土にまみれた顔のナナ。自慢のアーマーはべっこりとへこみ、その衝撃の大きさを物語る。


「しゃべらないで。回復してるけど、戦えるようになるにはあと2分くらいかかるから」


珍しく真面目な口調でアップルが言う。


かたやドラゴンは一人つぶして有利になったとみたのか猛然とチャージに出た。再び翼を羽ばたかせ空中にあがると、物理攻撃の範囲外からブレスをライトルとガナザードに向け連続で放ちはじめる。

2人は必死で回避していたが、最初にガナザードが、次いでライトルがついにブレスの直撃をもらってしまう。


悲鳴をあげて地面を転がる2人にアップルがすぐに水魔法をかけ炎を消し、回復魔法でダメージを軽減し傷を回復させるが、回復に手をとられて彼女には攻撃するヒマがない。

ナナもあと1分は動けず、このままではなぶり殺しにされてしまう。空中にいる相手との戦いを今までほとんど経験していなかったので、ノウハウがあまり蓄積されていないのだ。

加えて遠距離攻撃の手段を持っているのが自分とナナだけで、ガナザードとライトルはさっきみたいな単発の合体攻撃しかできない。


「ちょ~っと手詰まりかなぁ」


左手でガナザードを、右手でライトルに回復魔法をかけ続けるアップル。いつもの口調は戻ったが笑顔なない。


ドラゴンは勝利の雄たけびをあげ、とどめを刺すべく特大ドラゴンブレスの発射体制にはいったところで、さらに上空からグオーッという謎の音が耳に届く。


「何の音?」


まさかもう一体ドラゴンなんていわないよね?


ナナも怪訝な顔をして上空を見ているのがアップルの視界に入る。



空になにか点のようなものが見える。

それは音とともに大きくなってくる。

豆粒ほどだったそれが、人だとわかるまでそれほど時間はかからなかった。


ドラゴンがブレスを吐き出す直前、急降下してくる上空の人が何かを切り離した。

およそ上空500mで切り離されたそれも、シルエットから人だとわかる。


風きり音を放ちながら落下してきたその人は、ドラゴンの横をすごいスピードでそのまま通過し、くるくるっと回転しながら割と華麗に着地を決める。


その格好はルーフディーラの感覚からするとなにやら珍妙で、なにかひらひらしたフリル的なものがいっぱいついていた。

一般にはかわいいと評されるべきなのだろうが、それを長身のクール系美人が着ているとただ一言「似合わない」。


ぽかんとするアップルたちに一瞥もくれず、クール系美人は手に持ったスティックを振りかざす。



「ティラミス・コンニャク・ミルフィーユ! 水にな~れ!」



直後にドラゴンの口からとどめとばかりに放たれたブレスは、ただの水になってざっぱ~ん!と滝のようにそのまま地面に雪崩落ちた。


真下にいたナナがモロかぶりしてズブ濡れになったが肉体的なダメージはない。「ドラゴンがゲロのように吐いた水をモロにかぶった」という精神的ダメージはあるかもしれないが。


「そーれ!」


つづけてクール系美人が手に持った黄色い何かをドラゴンへ向かって投げる。

そのフォームは明らかに女の子投げなのに、なぜか時速130キロくらいのスピードを放ち。

自分の口から水が出て動揺しているドラゴンの口の中に、キレイにすぽっと入っていく。恐ろしいコントロールである。




その後、何が起こったのか、アップルはあまり思い出したくはない。


ドラゴンが突然苦しげに身をよじったかと思うと、急に縮んでしまったのだ。

ルーフディーラの稀代の魔法使いと呼ばれるアップルだが、巨大なドラゴンが縮むなど、それまで全く聞いたこともない現象が目の前で起こっている。

みるみるうちにニワトリ程度の大きさに縮んでしまったドラゴンを見て満足そうにうなずくクール系美人。

その彼女が「ほら今よ」と早く倒せとばかりにこちらを促してくるので、アップルが恐る恐るファイヤーボールを一発うつと、ドラゴンは「キュィー」と一鳴きして死んでしまった。




村の長に死ぬほど感謝され、デスマスクメロンの弁償も勘弁してもらい、ただ一軒の食堂でこれでもかとご馳走を振舞われたが、苦闘激闘の末、ドラゴンを倒すというカタルシスが一気にひっくり返ったブーイングが起こりそうな結末に、アップルはエールを浴びるほど飲んで寝た。







「今日はなかなかいい仕事をしたと思うんです」

「ピンチに颯爽と駆けつける。これぞヒーローの醍醐味」

「なんだかんだで追いついたし、あとは連れ帰るだけですね」

「そうだな。ティラミス」

「殴りますよ」

「殴ってから言うなよ、コンニャク」

「蹴りますよ」

「蹴ってから言うなよ、ミルフィーユ」

「帰ったら大事に隠し持ってるエロDVDのコレクション捨てます」

「すみませんごめんなさいそれだけは」

間があいてしまいました

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