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京太郎(6)「ねこもだいすき○○○○○○」

ホースライダーのホバリング走行のおかげでかなりのスピードで進んでいると、レーダーアプリに反応が出た。

勇者一行の近くまで追いついているようだ。

もはやただの廃墟と化したランフェル城を出発してからは、古きよき日本の農村風景のような景色が続いていたので、本当に魔界なのかと疑問に思ってしまったほどだ。

それでも、遠くに見える山はやや赤茶けていて頂上からは不気味な黒煙がもくもくとあがっているので、ここが日本ではないことを痛感する。


「大分近くなってきたな……」


ホースライダーのスピードを少し落とす。そろそろナナたちの姿が見えてもいい頃合だ。


「あれじゃない?」


みなみが先に見つけ、その方向に指を差す。視線を移すと確かに人影が見える。

いずれにしてもすぐだ。京太郎は再びスロットルをあけ、スピードを上げる。

景色が後方にぐんぐん流れていき、人影らしきものは次第にその姿かたちを明確に見せ始める。

が、何かおかしい。


「……京太郎」

「ああ、違うみたいだ、な」


レーダーと照合すると座標がやや合わない。ナナたちはもう少し先にいるようである。

すり抜けようと思ったが、道一杯に広がっていたので仕方なく歩行モードに切り替える。


「見たことニャいやつだなー」

「ニャんだこれー」

「飛んでたニャ」

「うおーすげーニャ」

「げーニャ」


ニャーニャーうるさい猫型獣人の子どもたちが5人あっという間に群がってくる。猫系のクセに警戒心の薄いアホの子なのか、京太郎とみなみに対してあんまり警戒しておらず、どちらかというとホースライダーに興味津々だ。耳や尻尾がうるさいくらいに動いていて、地球でも異世界でもガキんちょの行動パターンはあんまり変わらないんだと京太郎は苦笑する。


「坊主たちこの辺の子か?」

「そうだニャ。こっからすぐにあるニャンダ村に住んでるニャ」


5人(匹?)の中でもリーダー格っぽい子供が答える。ちなみにガキんちょ軍団は男の子3、女の子2の構成である。

魔界にも関わらず普通に話が通じることにも驚いたが、本当に人間界と戦争してるのかといいたくなるのん気さだ。

ガキんちょ軍団がホースライダーにまとわり付いているのでこのまま進むと轢いてしまう恐れがあるため、一旦エンジンを停止してホースライダーから降りて話すことにする。

フルフェイスのマスクで覆っている京太郎と違い、素顔をモロだししているみなみが優しいトーンで話しかける。


「ねぇ君たち、この道を人間の4人組が通らなかった?」

「んとねー、わかんニャい」

「ねーちゃんたちもニンゲンなのー?」

「ニンゲンニンゲンニンゲンー!!」

「うおーニンゲンだニャー。初めて見たニャ」

「ニンゲン食べられるかニャ?」


ガキんちょ軍団が大興奮すぎて、みなみをもってしてもなかなか話が進まない。

たいした情報は得られそうもないが、とりあえず人間が珍しいだけで敵意はなさそうだ。

お菓子でもあげて友好度でもあげておくか、と京太郎はポケットをごそごそ探る。


目当てのものを取り出してガキんちょ軍団を見れば、全員がみなみにまとわりついてすごいことになっていた。

頭の上に無理やり乗ろうとするヤツや背中にひっつくヤツ、ヒザに乗って丸まりご満悦のヤツもいれば、あろうことか胸をもんでいるけしからんヤツもいた。みなみは呆然としていてされるがままになってしまっている。


「こらこら坊主たち、これやるからそこのお姉ちゃんから離れてくれ。魂が抜けかかってる」


ひょいっとモノで釣ってみると、ものの見事に全員釣れた。

今度は京太郎の周りにわらわらと集まり、やたらとキラキラした目を見上げてくる。

1人ずつにお菓子を配ってみる。ガキんちょ軍団はもらったお菓子を不思議そうに眺めている。

こういうものを食べなれていなさそうだったので、手本を見せてみることにする。

包みを剥いて中身にかぶりついて見せる。


ニャーニャー言いながら、ガキんちょ軍団も京太郎に倣って中身にかぶりつく。

最初は恐る恐るといった感じであったが『美味い』と認識したのか目を見開くとあっという間に食べきった。


「甘いニャ!」

「おいしいニャ!」

「ニャんだコレ!」

「もっとくれニャ」

「ごろニャ~」


渡したのはナナが好きだった芋羊羹。黄色い見た目に程よい甘さ。ナナだけでなく京太郎もお気に入りの一品である。

もちろんコンビニのなどではなく、有名な老舗『芋長』までわざわざ行って買ってきたものだ。

結構な数を用意してきたのだが、今しがた放出してしまったので残念ながらナナ用に残しておいた1つしか残っていない。


「ごめんな。もうないや」

「それは残念だニャ。でもないならしょうがないニャ」

「ニンゲンにものもらったニャ」

「こいつらはそれほどわるいヤツではないニャ」

「甘くておいしかったニャ。この思い出であと2年は生きられるニャ」

「それよりこのメスのおっぱいはふかふかで気持ちいいニャ」

「おいそこのチビスケ今すぐみなみの胸をもむのをやめろぶん殴るぞ」

「ふニャ!殴られるのは嫌ニャ……残念だけど言うとおりにするニャ」

「…………(無言で少し息が荒い)…………」


こいつらの思考パターンって結構単純だなー、と京太郎が考えていると、


「なーなー、ニンゲン。これってオイラたちも乗れるかニャ?」


ガキんちょ――後で聞いたのだが、それぞれクロン、タマール、ミケコ、ソーラ、ポッチと大体馴染みのあるかのような名前らしい。


決して最後の名前にツッコんだりしないぞと京太郎は固く誓った――のリーダー格であるクロンが尋ねる。


「んー、単純に乗るってだけなら乗れると思うが」

「乗せてくれニャ!」

「馬に乗って村まで行くニャ!」

「凱旋ニャ!」

「……別に村に行くために来たわけじゃねーんだけどなぁ……」

「京太郎、アプリを確認したら、どうやら勇者たち一行もクロンたちの言う村に向かっているみたい」

「ということは、村に行けば必然的に出会うってわけか」

「おそらくは」


みなみの言葉でクロンたちの村に向かうことに決定する。

ただ、ホースライダーにわらわらと7人がしがみついても危ないので、ホースライダーの後ろにつけるカーゴを出すことにする。

カーゴとかカッコよく言ってはいるが、実質ただのリヤカーである。つなげると馬車っぽくなるので不自然には見えないだろう。


「そらよっと、カーゴ出て来い!」


アプリからカーゴを実体化させ、ホースライダーのアタッチメントに接続する。


「ほら乗った乗った」


カーゴに5人を乗せる。クロンたちはどうもホースライダーに乗りたかったようだが、それでもカーゴに乗り込んでしまえばそれはそれで興奮しているらしい。馬車にもまだ乗ったことがないと言っていたからそのせいだろう。またもやニャーニャーうるさくなった。


京太郎とみなみも再度ホースライダーにまたがり起動させる。カーゴにもホバー機能があり、ホースライダーと連動させることもできるが興奮状態のガキんちょ軍団が乗っているので落っこちる可能性がある。なので、歩行機能でのんびり行くことにした。

どうせ向こうもやって来るのだ。




ヒヒ~ンと時々いななくホースライダーを操りながらクロンたちと世間話をしていると、どうやらこのあたりに盗賊団が出没しているらしい。


「最近盗賊団が出るんだニャ」

「治安も悪化してるんだニャ」

「世も末ニャ」

「悪のオーク軍団がヒャッハー!って大きな馬に乗ってやってくるニャ」

「くるニャ」

「ほうほう、盗賊団ねぇ。魔界も一枚岩じゃないってことなんだな」


京太郎の疑問にタマールが答える。


「魔界だからってみんなが悪いことしてるわけではないニャ」

「村でも自警団を組織してパトロールしてるニャ」

「そういやお前ら、あんなとこまで出歩いてて良かったのか?」

「そこはそれってことニャ……」

「ったく、しょうがねえやつらだ」


出発して10分、早くも紅一点のミケコとおミソのポッチが揺れの心地よさに負けて寝始めた。クロンとタマールはまだ元気そうだがソーラもまぶたが今にもくっつきそうだ。


「あとどんくらいで着きそうなんだ?」

「この速さだったら、1時間はかからないと思うニャ」

「ということは村まで10キロくらいか……」

「ヒャッハァァ!」

「それにしてもこれはラクだニャ……」

「なんか聞こえなかったか?」


遠くで「ヒャッハァァ!」という声が聞こえた。

クロンとタマールは「盗賊団ニャ!」と叫び震え始めたが、京太郎は無言でホースライダーに備え付けられている小型ミサイルを発射する。

しばらくすると「あべしっ」とか「ひでぶっ」とか「たわらばっ」とか言う悲鳴が聞こえたような気がしたりしなかったりした。




勇者一行と再会までもう少し。


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