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ナナ(4)

今日こそは魔王宮へ到達するぞ!と意気上がるナナ達4人がランフェル城に乗り込むと、そこに待っていたのは大方の予想通り、塔将スカイツリーヌ。


つい先日大暴れした玉座の間は、時間もなかったのか修繕されることもなく玉座も横に倒れるなど無残な姿をさらしていたが、その玉座の横に新たにベッドを持ち込んでいる馬鹿がいた。


4人は目を疑ったが、天蓋付き・カーテン完備の豪華ベッドが間違いなく鎮座している。

こんなものを持ち込んだのは一人しかいない。もちろんスカイツリーヌである。


のっぴきならない理由(→朝礼)で朝早くに起きざるを得なかったため、勇者一行が来るまでの時間スカイツリーヌは二度寝を決め込むことにしたのである。

ベッドの横には執事セバスチャァンが当然のごとく控えていたものの、特にナナたちにリアクションすることはなかった。


「あのー……」


想定の斜め上を行く現実に、どうしたらいいのかわからなくなったナナは思い切ってセバスチャァンに話しかけてみる。


「なんでございましょうか?」

「あ、話通じるんだ。よかったぁ。……えっと、コレって……」


イヤというほどその存在を主張してくるベッドを指差す。


「勇者どのが来られるまで寝ると言って、スカイツリーヌ様が持ってきたものにございます」

「なんでここで寝てるんでしょうか?」

「手前どもにも事情がございまして、本日は朝早く起きざるを得なかったのでございます。用事そのものはすぐに済んだのですが、寝不足だと今日のリベンジ戦に差し支えるからもう一度寝るとヤヒ……ゲフンゲフン、スカイツリーヌ様が強硬に主張されまして」

「自分の家で寝ればいいのに、なんでここで寝てるんだ?」


ライトルがもっともなことを半ば呆れたように言う。


「スカイツリーヌ様は寝起きが……なんと言いましょうか……な感じですので、どうせならここで寝てたほうが寝坊もしないでいいのではないかと……」

「自分で言ったの?」

「私が提案いたしました」


セバスチャァンが恭しく頭を下げる。


「「「「あんたかよっ」」」」


勇者一行による総ツッコミを受けるなど、それなりに騒々しいはずであるがベッドの中のスカイツリーヌは全く起きる様子がない。

ナナはライトル、ガナザード、アップルを集めて会議を始める。


「で、どうしよっか?」

「方法はいくつかある。その1、問答無用で襲い掛かりぶっ倒す。その2、シカトして素通りし、魔王宮へ進む。その3、どうにかして起こしてから戦う」


ガナザードが渋い顔で言う。


「もうひとつ追加ね。その4、寝起きドッキリ」


と、アップル。


「時間を考えれば1か2なんだが……。あそこの執事がそうはさせないだろうな」


ライトルが所在無さげにたたずむセバスチャァンに視線を送ると、ガナザードも同調する。


「確かに。飄々としてるけど、ありゃ相当なタマだぞ。底知れねぇ感じがする」

「ただ、スカイツリーヌに危害が及ばない限りはこっちと戦う気はなさそうだ。だとすると、必然的にその3になるな」

「そうなるね。あの執事にも協力してもらおうか」


ナナも頷く。


「ねぇ、寝起きドッキリは?その4は?」


アップルが悲しそうに問うて来たが、ガナザードが冷たく「ねぇよ」と切り捨てていた。




「あのー」

「なんでございますか?勇者様」

「そこのベッドで寝てる人を起こしたいんですけど……」

「どうぞ」


作戦会議を終え、恐る恐る切り出したナナにセバスチャァンはいたって普通な風に返事をする。


「いいんですか?」

「私も同伴いたしますので問題ございません。そもそもスカイツリーヌ様が起きないことが悪いので」

「そんなもんなんですか?」

「そんなものでございます」

「さー、ベッドへとつげきー!」


こうして、ルーフディーラの歴史上初めて人間と魔族による共同作戦が開始される。




豪華そうなレリーフがあちこちについている天蓋ベッド、そのカーテンの前。

そこには潜入部隊が緊張の面持ちで待機していた。


ナナ、アップル、そしてセバスチャァンである。


ライトルとガナザードは後方支援、つまるところ単なる待機組になった。

当初は自分も当然突入するメンバーに入るのだと、2人ともなぜか鼻息を荒くしていたが「いやー、さすがにないでしょ」「いくら相手が魔族だからって、そこはマナーを守るべきだよねぇ」という女性陣による意見という名の命令により涙を呑むことになったのであった。


「もしダメだったら、次は俺達の番な!絶対だぞ!!」


異様なテンションで力説しているライトルをジト目で眺めつつ、ナナ、アップル、セバスチャァンはカーテンをくぐった。




「うわぁ……」


カーテンをくぐると、なんとなくアロマっぽい匂いがナナの鼻腔をくすぐる。薄暗い視界の中でスカイツリーヌの顔をまじまじと眺める。

スカイツリーヌは、妖艶な彼女にしたらイメージ戦略上ありえない水玉のパジャマを着てすやすやと眠っている。これだけ起きないって、この人どんだけ爆睡してるんだろうとナナは思う。

すぐ戦えるようにという気構えなのか、なぜかマスクをしたままなので素顔を見ることはできないが、非常に整った顔立ちであることはわかる。なんか悔しい。

若干はだけた胸元はその存在を執拗に主張しているようで、胸部に密かなコンプレックスを抱えているナナとしては、思いっ切り鷲掴みにして、力の限りこねくりまわしてやりたい黒い欲望についかられてしまう。とても悔しい。

しかしギリギリのところで効いた理性が伸びかけた腕を押しとどめることに成功し、惨劇は回避された。

ちなみにアップルは自身の胸が豊かなので「はぁ~」とか「ほぉ~」だの単純に感心しているだけだった。


ときおり「くー」という寝息が聞こえるだけという無害な存在のスカイツリーヌを相手に、勝手に精神的に大きなダメージを受けたナナは、なぜか「フフフ……」と黒い笑みを浮かべて腰にくくりつけてある貴重品袋から、いまや本来の目的に使うことはかなわないアイテムを2つ取り出した。

1つは現代人の必須アイテム、ケータイである。


ずっと充電されずにいた携帯電話の電池残量は、普通に考えればなくなってしまうものだが、そこは魔法の世界である。ナナはアップルに頼んで、ケータイに対象物の時間を止める魔法をかけておいたのである。もちろん電源はオフにして。従って、ナナはアップルにその魔法を解除してもらえばよい。

ケータイを取り出したナナは、早速アップルに再び使えるようにしてもらう。

そしておもむろに電源オン。


数秒後、懐かしくも見慣れた画面が現れる。ナナがケータイを取り出したのはもちろん電話をするためではない。

ケータイの代表的な機能、カメラを使うためだ。


そして、ケータイと共に取り出したもう1つのアイテムを握り締める。




ゼブラ社が誇る定番アイテム、マッキーの油性ペンである。

なんでファンタジーな世界でそんなモノを持っているのかと言われると困るが、このナナという少女は「いつどこで芸能人に会ってもサインがもらえるように」という理由で、外出する際には必ずマッキー(黒)を携帯するという少し残念な思考の持ち主だったからとしか言いようがない。




もうナナが何をしようとしているか、もうお判りだろう。




とても勇者とは思えない黒い笑みを浮かべ、おもむろにマッキー(黒)でスカイツリーヌの頬に「肉」と書いた。




異様な雰囲気に途中からついていけなくなったアップルは、セバスチャァンに尋ねる。


「いいの?あれ」

「いたずら書き程度であれば問題ありません。そもそもここにきても全く起きないスカイツリーヌ様が悪いのでございます。スカイツリーヌ様にも少しは反省していただかないと……」


しれっと答えられたので、それ以上言えなくなる。


鼻毛を描かれ、眉毛をつなげられ、胸元を大胆にはだけさせられた格好のスカイツリーヌ(熟睡)をナナが鬼気迫る表情で写メを撮りまくる。異世界の風景写真が詰まったケータイのメモリー、その残り少ない空き領域を全てこれに費やすかの如き勢いだ。


「あなたのとっても恥ずかしい姿を魔界の隅々にまで広めてやるんだから。腐フフフ……」


そんな光景を2人は生暖かく見守っていた。


「これって盗撮ですよねぇ」

「そうですな」

「私達、スカイツリーヌを起こしてないですよねぇ」

「そうですな」




どうにもこうにも中の様子が気になって、こっそりとカーテンの陰からうかがっていたライトルとガナザード。

それに気づいたセバスチャァンが、スカイツリーヌがくるまっている暖かそうな羽根布団をおもむろにべろんとめくった。


ドキドキしながら覗いている2人の視界にいきなり飛び込んできたのは、スカイツリーヌの美尻。

しかも、なぜかパジャマがずり下がってモロ見えになっている。




何が?

→パンツが。

色は?

→白だ。

エロい?

→とっても!!




魔族なのに、妖艶な魅力があるのに、なんで白パン!!


「ぶほッ」


興奮のあまり思わず噴出すライトルとガナザード。

それで覗かれていることに気づいたアップルと正気に戻ったナナは2人を「サイテー!」と叫んで蹴り飛ばした。



スカイツリーヌは寝ているだけなのに、戦う前から勝手にダメージを受けている勇者一行(アップル以外)に未来はあるか!?


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