プロローグ
忘れもしない、中二の夏休み。
僕は、恋をしていた。
お隣のナナちゃんは、いわゆる幼馴染という関係で、生まれた時から一緒だった。
兄妹、または姉弟のように育ってきたけれど、いつの間にかナナちゃんのことが好きになっていた。
だけど、この関係が壊れるのが怖くて、ずっと言うのをためらってきた。
「好きだ」
この3文字が自分にはとても遠くて。
勇気が無かった。
でも、隣のクラスの奴がナナのことを好きだという噂を聞いてから、僕の心はざわめいた。
ナナちゃんは贔屓目なしで可愛い方だったし、明るくて元気で意外と気も回る子だったから、男女問わず人気があった。
そいつがどうもナナに告白するらしいぞという噂が僕の耳に届いたとき、いてもたってもいられず、ついに僕はナナを呼び出した。
小さい頃、毎日のように遊んでいた、近所の公園。
「やぁー、この公園ってこんな小さかったんだねぇ」
とナナはにこにこ笑っていた。
しばらく世間話で時間を無為に過ごした後で、ようやく
「ナナのことが好きなんだ。付き合って欲しい」
持てる勇気を最後の一滴まで振り絞り、やっとのことで紡ぐ言葉。
「ホントに?」
ナナちゃんの第一声は「喜んで」でも「お断りだ」でもなく、なぜか疑問系だった。
小首をかしげて聞くナナは文句無く可愛いかったけれど。
「ここでウソを言う必然性がわからないよ」
そう答えた僕の言葉に、ナナはまた笑って、
「あはは。そういえばそうだね。……えっとね。あのね、私もきょうくんのこと……」
そこまで言って、ナナは僕の目の前から消えた。
マジックの人体消失が目の前で行われているかのように、いなくなってしまったんだ。
警察が行方を捜したけれどまったく手がかりはつかめなかった。
新聞の地方欄にも載ったりしたけれど、ナナは現れなかった。
いつも決まった時間に公園を散歩するお婆さんが、僕と一緒にいたナナが消えた瞬間を目撃してくれてたおかげで誘拐犯扱いはされなかったけれど、いろいろなことをいろいろな人から言われたりもした。
しばらくすると、学校では暗黙の了解というやつでナナのことを話すのはタブーみたいになった。
そして10年がたった。
一人称が僕から俺になったり周囲の環境があれこれ変わったりしたけれど、僕は今でもナナを捜している。