↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
2/2

初対面

昼下がり。


外遊びの時間が終わって、教室に戻ってきた頃。


「ねえ、その髪さー」


一人の男の子が、茉白の後ろに立つ。


「なんか派手すぎじゃね?笑」


くすくす、と周りもつられて笑う。


茉白は一瞬きょとんとして——


すぐに、むっと眉を寄せた。


「べつにいいでしょ」


少し強めの声。


でも怒鳴るほどじゃない、我慢してる感じのトーン。


「だってさー、女の子ってもっと普通じゃん?」


「知らないし」


ぷいっと顔をそむける。


髪をいじられるのも、笑われるのも、好きじゃない。


それでも、泣くほどじゃない。


ただ、ちょっとだけ、胸の奥がざわっとする。


⸻


そのやり取りを、少し離れたところから見ていたのが海人だった。


「おい」


急に割って入る声。


「なんだよ」


「別にいいだろ、椎名のそのくらい」


軽い口調。でも、どこか引かない感じ。


「え、なに?かばってんの?」


「ちげーよ」


即答。


でも視線は、一瞬だけ茉白の方に向く。


「ただ、くだらねーって思っただけ」


男子は「は?」って顔をするけど、海人はもう興味なさそうに肩をすくめる。


「ほら、先生来るぞ」


そう言って、強引に話を終わらせる。


⸻


静かになったあと。


茉白はちらっと海人を見る。


(……なんなの)


助けられた、とは思ってない。


でも、さっきの空気が少しだけ変わったのはわかる。


海人はもう別の子と話していて、こっちなんて見ていない。


(変なやつ)


そう思って、また前を向く。


⸻


まだ名前も呼ばない距離。


ただ少しだけ、


「知らない誰か」から「ちょっと気になるやつ」になった瞬間。


午後のお昼寝の時間。


カーテンが少し閉められて、教室は薄暗い。


子どもたちは、それぞれの布団に入って、少しずつ静かになっていく。


茉白は仰向けで、ぼーっと天井を見ていた。


(ねむくない)


目を閉じても、なんだか落ち着かない。


さっきのことが、少しだけ残っている。


髪のことを言われたことよりも——


(……なんなの、あいつ)


あの男の子。


名前も知らない。


でも、声だけはやけに残ってる。


「別にいいだろ、そのくらい」


思い出して、少しだけ眉をひそめる。


助けられた、と認めるのはなんか違う。


でも、嫌な感じもしなかった。


(変なの)


小さく寝返りをうつ。


⸻


一方、少し離れた場所。


海人はうつ伏せのまま、全然寝る気配がなかった。


(ねみーけど、ねれねぇ)


ぼんやりしながら、視線を横に流す。


ふと見えたのは——


少し離れたところで寝返りを打つ、あの女の子。


(あいつ)


名前はまだ知らない。


でも、さっきの顔は覚えてる。


むっとした顔。


でも泣かなかった。


(ふーん)


それだけ思って、目を閉じる。


興味があるわけじゃない。


ただ、なんとなく印象に残ってるだけ。


⸻


静かな時間。


誰も喋らない。


でも、


同じ空間の中で、


少しだけ、お互いの存在が引っかかり始めている。


⸻


数分後。


「……ねぇ」


小さな声。


茉白の隣の子が、こそっと話しかけてくる。


「さっきの男の子、知ってる?」


「知らない」


即答。


「けっこう有名だよ、あの子」


「なんで?」


「すぐ走るし、よく怒られてるし」


くすっと笑う。


「あとね、なんか元気すぎる」


茉白は少しだけ黙る。


(……ああ、たしかに)


納得はする。


でもそれを口には出さない。


「ふーん」


興味なさそうに返して、目を閉じる。


⸻


でも、頭の中では、


“元気すぎるやつ”の顔が、ほんの少しだけ残っていた。


⸻


まだ名前も呼ばない。


まだ関わらない。


でも確実に、「ただの他人」ではなくなってきてる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。