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ご令嬢の企み

「セリーヌお嬢様、お帰りなさいませっ!!」


 やっと帰って来たセリーヌに、メイミは飛びつかんばかりに勢い良く出迎えた。

 普通なら驚くところだが、セリーヌもまたちょっとした興奮状態だった為に完全にメイミの様子は無視してぴっちりしっかり扉を閉じると、ベッドに飛び込んで大笑いを始めた。

 声を殺す為に枕に顔を埋めてバンバンとベットを叩きながら爆笑しているセリーヌに、流石のメイミも目を丸くして立ちすくんだ。

 ひとしきり笑うと、目に涙を溜めながらセリーヌは肩で息をしながら起き上がった。


「あ〜、全く傑作だったわ」


「一体何があったんですか?」


「それが本当に予想外の連続で、予想外に二ヶ月楽しめそうなのよ。とりあえず、お水頂戴?」


「あ、はい!」


 メイミは弾かれた様にセリーヌに水を用意して差し出した。その水を公爵令嬢にはあるまじき勢いで一気に飲み干すと、セリーヌは怒濤の勢いで話し始めた


「まず国王陛下が予想外だったの。ちまたでは凍れる炎の王と言われ、確かに鉄面皮みたいに無表情な方だと思っていたのだけれど、実際はかなり熱いお方みたいなのよ。侍女まで遠ざけて事実上人払いをした状況で、何て言ったと思う?」


「はぁ……」


「それが……ぷっ、大真面目な顔で、くふふっ、『我は傀儡の王である』って……っ! あ〜、もう駄目!」


 再び笑い出したセリーヌに、メイミはすかさず二杯目の水を用意する。これもまた一気に飲み干して涙にを滲ませた目元を無造作に指で拭う。

 もはや化粧も乱れ、綺麗に整えた髪型も乱れてリボンが外れかけていという、身内以外には見せられない様相だ。


「とにかくね、陛下は傀儡の王を脱却したいらしいのよ。その片棒を担ぐ王妃様がご希望なの。それぞれ背後に巨大派閥を背負っている正妃候補達相手に、随分と思い切った事をなさるわ。皆、陛下には傀儡でいてもらった方が色々と都合が良いから、確かに人払いもする筈よね」


「はぁ。私には良く分かりませんけれど、お嬢様が楽しかったなら良かったですわ」


正直、メイミは政治的なことは全く分からないので何がそんなに面白いのか分からなかった。


「でももっと愉快だったのはね、その後よ。実質的に、外見は正妃候補選びに全く関係無いっておっしゃったことになるから、陛下が去った後のチェルネイア姫の顔ったら……!」


「ゼットワース侯爵の姫君ですか? あの美女と名高い……」


「そうよ。きっとご自分の美貌には絶対の自信がおありなのね。だから慈母様の前だというのに、恐ろしい顔をして怒りを露になさっていたわ。美女も台無し……」


 また笑い出すセリーヌに、メイミは少し疑問を感じる。こんなに楽しそうなセリーヌは、最近は全く見なくなっていた。これは、もしかして、もしかするのかしらと、メイミの悪い癖がむくむくと頭をもたげ始めた。


「あのぉ……それでセリーヌ様、まさかとは思いますけれど、正妃になりたいとか……?」


「まさか! 正妃になんかなったら魔女の森に帰れないでしょう? でも、陛下は面白い方だからお友達になれたらとは思うわ。多分、陛下は私が正妃になりたくないと思っている事をご存知でしょうし」


「そうなんですか?」


即答で否定するセリーヌに、メイミはがっかりした。


「ええ。わざわざ私達正妃候補が心底望んでこの場にいるかどうか分からないとおっしゃったくらいだもの」


「変わった方ですわね」


 メイミもそれなりに身分の高い殿方と知り合う機会がある公爵家の侍女である。たとえ遊びだとしても、身分の下の女なら高貴な自分に望まれて嬉しくない筈は無い、と思い込んでいる馬鹿が多過ぎて、それが普通という認識になっている。


「そうよね。普通は正妃候補なんてなりたいと思ってなれるものではないわ。勿論私はそんな気はさらさら無いんだけれど。仮にも正妃候補として王宮入りしておきながら正妃になりたくないと思っている存在を許容するなんて、確かに変わっていらっしゃるわ。私も名家の令嬢としては変わっている方だという自覚はあるの。だからかしらね、陛下の事、気に入ってしまったわ」


「えぇ!? 気に入ったってセリーヌ様! それは恋なんじゃないんですか!?」


 俄然目が輝き出すメイミに、セリーヌは顔をしかめて軽く扇子でメイミの額を叩いた。


「もう、メイミったら恋愛小説の読み過ぎよ。嫌々正妃候補として王宮入りしたけれど、その王様相手に恋に落ちました、なんて馬鹿な展開を想像してるんじゃないでしょうね?」


「え!? 違うんですかぁ?」


 叩かれた額をおさえながら納得いかない顔で食い下がるメイミに、セリーヌも呆れた顔でやれやれと溜め息を吐いた。


「違うわ。仲間意識が芽生えただけよ」


「仲間意識……実はそれが恋心だったとか……」


「メイミ!」


 性懲りも無く続けるメイミをセリーヌはピシャリと名を呼んで黙らせる。こういう所は名家のご令嬢然として、流石に上に立つものの威厳がある。内容は内容なのだが。

 メイミが大人しくなった所でセリーヌは扇子を開き、それで口元を隠して隣りに呼び寄せた。内緒話の典型的なスタイルである。メイミは主人の意を受けていそいそと身を寄せた。

 

「それでね、正妃なんて地位、誰でもやりたい人がやればいいと思っていたのだけれど、ちょっと考えが変わったわ。どうせならフィリシティア姫になって欲しいの。別にね、私は容姿の事も母の出自の事も、気にしていないわ。でも、馬鹿にされるのは気分が悪いの」


「チェルネイア姫ですか?」


「そうよ。だからフィリシティア姫を応援してチェルネイア姫を妨害する事にしたの。勿論メイミ、あなたも協力してくれるわよね?」


「セリーヌ様を馬鹿にした人を蹴落とす協力なら惜しみませんわ」


「流石は私の侍女! だってチェルネイア姫が正妃になったら、私はあの人に最高礼をしなければならないのよ。考えただけでも腹立たしいわ」


「私も想像しただけで腹が立ちます!」


「頑張りましょうね、メイミ!」


「はい!」


 最早扇子を放り出して固く手を握り合う主従は、新たな目標に燃えていた。

 そしてメイミは、温室の事を伝えるのをコロッと忘れていた。



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