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暗躍する神子3

 ゼッタセルド国王であるエルドシールがどうのように育ったのか、民は殆ど知らない。また、貴族達の多くも一通りのことしか知らない。

 捨て置かれていた前王の末の王子は、母親譲りの美貌に鮮烈な緋色を金髪と瞳に持つ。赤味を帯びた金のたてがみの様なその髪と濃く深い紅玉の瞳は、偉大な王の一人に数えられる獅子王と呼ばれた祖父にそっくりで、その姿だけでも感嘆と賞賛の対象であった。

 不遇な少年時代も母性をくすぐるのか、一部の貴族のご令嬢達には熱狂的に支持されている。だが、表立って何か行動を起こす者はいない。何故なら、その心は凍り付いた様に冷たいとされていたからだ。獅子王は姿そのままに豪快で激しい気性の持ち主だったが、エルドシールは全く正反対と思われていた。



『凍れる炎の王』



影で彼はこう呼ばれている。



 そう信じられているのには、幾つか理由がある。まず十五で王位についてより、王は笑顔を見せた事が無い。そしてどんなに美しく魅惑的な女を前にしても眉一つ動かさず、機械仕掛けのような通り一遍の社交辞令しか言わない。ご自分の結婚にも興味を全く示さず、正妃候補選定に際しても一言も口を挟む事無く淡々と了承した。

 これらのことから、一握りのごく僅かな人間を除き、王はその外見とは裏腹に凍えた心の持ち主だと信じられていた。心が凍った原因は想像するに容易く、それゆえ王の過去に関する事は暗黙の了解で禁句となっている。心を閉ざした悲劇の若き王を私の愛でお救いしたい、笑顔を取り戻して差し上げたい、と胸を焦がす女性は少なくない。


 一方、傀儡の王である事を揶揄して『張り子の獅子王』などと陰口も密かに広まっていたが、それはまた別の機会に回そう。



 エルドシールは単純にもともと表情が表に出にくい。そしてどちらかと言えば無口だ。話すのが苦手というわけでは無いが、宮廷では口は災いの元と慎重にしていたに過ぎない。

 もしエルドシールが貧相な容貌をしていれば、萎縮しているとでも思われたであろう。姿形とは、それだけで行動の印象も全て変えてしまうのである。

 エルドシール自身もどう思われているのかなんとなく把握してはいたが、実害を感じなかった上に女性避けに都合が良いので放置していた。





 「くれぐれも間抜けを晒すんじゃないわよ? 凍れる炎の王の危険なロマン香るイメージを壊すんだから、期待はずれでがっかりっていう裏切り方は絶対しちゃ駄目。良い方に裏切るのよ。私と違ってエディは見てくれは良いから期待度の初期値が大きいの。それだけに中身が残念だと落胆も大きいのよ。思ってたのと違う! その驚きの後に続くのが『期待はずれだわ』になるか、『実はとても純粋で愛情深い誠実な方だったのね(ハートマーク)』になるか、それが運命の分れ道よ!」


 王宮の王の居室で寛ぐのは、王と尼僧姿の娘という珍しい組み合わせだ。

 そして、何故か王より娘の方が居丈高である。

 言わずと知れたキヨだ。

 アレシアより一足先に王宮に上がり、ご生母様がお越しになられる前に準備を整えるという名目で情報収集に余念が無いキヨである。

 本日仕入れて来た情報、『凍れる炎の王』という称号に先程まで抱腹絶倒、大笑いしていたせいか、顔が上気して鼻息も呼吸も荒い。


 「……つまりキヨの見てくれは普通だから期待度の初期値も平均値だが、中身が我と同じ程度に残念でも落胆はそれほどでもない、ということか?」


「その通りよ。うふふ、私ってド庶民な外見だから賢さを全く期待されてないの。だからちょっと賢い事言ったりしたりすると、おぉっ!? ってこっちが期待する以上に評価が上がるのよね〜。面白いったら無いわよ。お義父様なんか私が神子だと知ったら、拾った小石が実はダイアモンドでした的な喜びようだったんだから〜。更に実のところダイアモンドじゃなくて火薬玉だったりして」


 愉快げに思い出し笑いをするキヨに、エルドシールはお義父様と呼ばれたドールーズに同情せずにはいられなかった。


「……一応皮肉だったのだが」


「あら、勿論分かってるわよ。皮肉言われてムッとしたら相手の思うつぼじゃないの。そんな素直さや可愛げを私に期待するなんて、やっぱりエディはお人好しね」


「いや、期待はしていなかった。余りにも酷い言われようなので、皮肉の一つも言っておいた方が良いかと思っただけだ」


「うわー、私そういうエディの掴みどころがない性格好きだけど、可愛くないわ〜。正妃候補の皆様にはそういう事言っちゃ駄目だからね」


 キヨは顔を顰めて苦笑いをし、やり方が分からんというので我がいれてやった花茶を一気に飲み干した。しかし、折角我がやって見せてやったのにキヨは覚える素振りも見せなかった。こやつに本当に母上の侍女が勤まるのか?

 不安になるエルドシールの内心などキヨは知った事ではなかった。既に侍女達から教えてもらって花茶のいれ方は習得済みだ。キヨは単に王様にお茶をいれてもらうというアンビリーバブルな状況を体験してみたかっただけである。



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