第12話「影の王、闇を統べる」
夜明け前の都市は静まり返っていた。
氷室は廃ビルの屋上に立ち、
影の波を静かに収束させていた。
黒い霧が夜空に吸い込まれ、
牙のような影は跡形もなく消えた。
彩花が兄の隣に立つ。
「お兄ちゃん……すごい……
影を全部使って、白刃さんも……」
氷室は微笑むが、
その目には覚悟と疲労が混じる。
「まだまだだ。
白刃は初手だ。
この先、俺たちを狙う奴はもっと増える」
城ヶ崎は氷室の横で影を整理しながら、
静かに語る。
「今、あなたの影は完全に顕現しました。
“王としての影”です。
あなたの意志で形を作り、守るべきものを守る──
これで、誰もあなたを止められません」
氷室は拳を握る。
「王……か。
悪いけど、俺にはまだ“王様らしいこと”なんて全然わからねぇ。
ただ……守ることだけは、絶対に譲れねぇ」
彩花が小さく頷く。
「お兄ちゃん……
絶対に誰も守れないなんて思わないよ」
そのとき──
都市の向こう、闇の中から小さな影が蠢いた。
城ヶ崎が眉をひそめる。
「……もう次の者が動き始めています。
影の世界は静かに見えて、常に戦場です。
あなたの覚醒は、“狩られる者”から
“狩る者”への第一歩に過ぎません」
氷室は夜空を見上げる。
(狩られる側……だった俺が、
狩る側になる……
影を操る王として……)
拳を握り、意志を固める。
「わかった……
なら行くぞ。
彩花、城ヶ崎……
誰も失わないために、俺は……
影の王として、闇を統べる」
城ヶ崎の影が静かに、しかし確実に膨らむ。
「ええ。
私も従います。
あなたと共に、影の王としての戦いを──」
彩花が兄の手を握る。
「お兄ちゃん……一緒に行くよ」
氷室は頷き、夜空へと足を踏み出す。
ビルの屋上から落ちることもなく、
影が二人を包み込み、都市の闇を裂く。
──これが、“影の王”の初陣。
闇は深く、敵は多い。
だが、氷室の意志は揺らがない。
「誰も……誰も失わない……!」
黒い影が翼のように広がり、
街の闇を包む。
そして──
夜の街に、新たな伝説が生まれた。




