第10話「影の牙と白の断罪」
屋上を覆う風が裂け、
氷室の影が黒く膨張した。
拳や足から生まれた影が、
まるで牙のように空間を貫く。
氷室の瞳が赤く光る。
「──来い、白刃……
俺が……王だ!!」
白刃はその姿を一瞬ためらった。
これまでの影狩りの標的は、
“影の王”の力を完全に制御できなかった者ばかりだった。
しかし──
氷室は違った。
城ヶ崎の教えと、自分の守りたいものへの執念。
それが、影を形ある武器として顕現させている。
白刃の霊断刀が振り下ろされる。
しかし氷室の影が牙となって刀を受け止めた。
ガキィン!!
鋭い金属音はせず、
代わりに影の裂けるような音が響いた。
白刃の目に初めて、驚きが走る。
「──影の力が……形を持つ……!?」
氷室は叫ぶ。
「俺の力は、守るための力だ!!
お前みたいな奴に屈するわけねぇ!!!」
黒い影がうねり、霊断刀を叩きつける。
白刃は跳び退き、
刀を構え直す。
「なるほど……
王の覚悟がそうさせるか」
氷室の背後で城ヶ崎が警告する。
「油断するな、氷室!
白刃は影の王を斬るために訓練された!
一瞬の油断で消えるぞ!」
氷室は肩で息をしながらも、
赤い瞳を白刃に向ける。
「消えてたまるかよ!!
俺は……俺は王なんだ!!!」
影が牙となり、氷室の足元から空間を切り裂く。
屋上の風が巻き上がり、
建物の影さえうねる。
白刃は霊断刀を振るうが──
氷室の牙に触れると、
刀身が揺らぎ、形が歪んだ。
「な……っ
これは……!」
氷室は影の力をさらに解放した。
拳から腕、足、背中、肩。
全身の影が刃となり、白刃を包囲する。
「──これが……
影の王の力……!」
白刃は背後に跳び、
霊断刀を両手で構え、
必殺の一閃を放つ。
だが──
氷室の影が牙となって刀を受け止め、
さらに前方へ押し返す。
「ぐ……!
この圧……王の意志……!?」
白刃の体勢が崩れ、初めて氷室の牙に押される。
城ヶ崎が叫ぶ。
「そうだ、氷室!
その意志の力で影を顕現させろ!
守りたいものを思い出せ!!」
氷室の目に彩花の顔が浮かぶ。
そして城ヶ崎の笑顔も。
(守る……俺は絶対に守る……!
彩花も……城ヶ崎も……
誰一人失わない……!!)
赤い瞳が光り、
黒い牙の影が巨大化する。
影がうねり、
白刃を完全に包囲した。
白刃は刀を振るうが、影の牙が柔軟に形を変え、
攻撃をすべて防ぎ、さらに圧をかけて押し返す。
「ま……まさか……
影を自らの意志で形に……!?」
氷室は低く唸る。
「──これが王の意志だ!!
影は俺の牙!
牙は俺の拳だ!!」
影の牙が白刃を押し潰す。
白刃は初めて本気で恐怖の色を浮かべた。
そして──
黒と白、光と影が激突する音なき轟音。
都市の夜に、無数の影の波紋が広がった。




