第6話「第一の戦い」
捕食者と氷室が激突した瞬間、
空間は炸裂し、
影の海も光の波も、
すべてが“無音の爆発”と化した。
世界が巻き戻るように歪み、
次の瞬間には急激に引き伸ばされる。
氷室は歯を食いしばりながら叫ぶ。
(これが……影の“力”……!
こんな暴走じみたエネルギーを……
城ヶ崎はずっと一人で……!)
捕食者は黒い裂け目のまま、
氷室の影の津波を吸収しようと牙を開く。
城ヶ崎が叫んだ。
「氷室!
捕食者は影そのものを“餌”として奪う!
押し込め!
こちらの影の流れを暴力的に変えろ!!」
「できるのかそれ……!?」
「あなたならできる!
“守るため”の意志がある者にだけできる!!」
氷室は拳を握った。
彩花の泣き顔が脳裏に浮かぶ。
城ヶ崎が喰われて消えかけた姿も蘇る。
(絶対に負けるかよ……!
二人を守るって決めたんだ……!!)
氷室の背後に展開した巨大な影翼が、
形を変える。
巨大な刃のような鋭い影。
捕食者が空間を割りながら突進してくる。
城ヶ崎の叫びが続く。
「氷室!
“斬れ”!!」
氷室は叫んだ。
「おおおおおおおッッ!!」
影の刃が捕食者へ振り下ろされる。
だが──。
捕食者は刃に触れた瞬間、
その部分を“無かったことにした”。
影の刃が霧散する。
氷室は絶句した。
「なっ……!」
城ヶ崎の声が震える。
「まずい……!
捕食者は攻撃そのものを消す……!」
次の瞬間。
捕食者が裂け目を広げ、
氷室の胸を飲み込もうとした。
氷室は背筋が冷たくなる。
(ヤバい……! 死ぬ……!!)
捕食者の“喰われの圧力”が迫る。
氷室の影が削れ、
視界が暗く沈んでいく。
そのとき。
城ヶ崎が氷室の前に飛び込んだ。
氷室が叫ぶ。
「城ヶ崎!! やめろ!!」
城ヶ崎は笑っていた。
「私にとっては……
あなたも守るべき存在なんですよ……!」
城ヶ崎の身体が捕食者に掠る。
身体の一部が無音で“欠損”した。
氷室は怒りで視界が白く染まった。
「ふざけんなあああああああああッ!!!」
その瞬間──
氷室の胸の光が極限まで高まった。
影が暴風のように吹き荒れ、
捕食者の裂け目を一瞬だけ閉じさせる。
城ヶ崎が驚愕する。
「氷室……!
あなた、影の核を……完全に起動させた……!」
氷室は無意識に、
影を“拳の形”へと集中させた。
城ヶ崎が目を見開く。
「そのまま拳を……!
影を“硬化”させて殴るんです!!」
「影って殴れんのかよ!?!?」
「殴れます!!!
いまのあなたなら何でもできます!!」
氷室は叫んだ。
「ならやってやるよ……!!」
拳を振りかぶる。
影が拳に絡みつき、
“実体と虚無が重なる”奇妙な重みが生まれる。
捕食者が再び裂け目を開く。
世界が裂ける気配がした。
氷室は全力で踏み込む。
「お前なんかに……
妹も……城ヶ崎も……
喰わせねぇええええええッッ!!!」
拳が捕食者の中心へ叩き込まれた。
◆
無音の爆発が走る。
捕食者の裂け目が揺れ、
影の欠片が四方へ飛び散る。
捕食者の“中心にある穴”が揺らぎ、
初めて“後退”した。
城ヶ崎が驚愕しながら呟いた。
「……押し返してる……
捕食者を……影の王が……!」
氷室は息を切らしながら立っている。
拳は震えている。
でも──崩れていない。
捕食者が遥か奥へ弾き飛ばされ、
空間の裂け目が閉じていく。
だが、完全には消えない。
城ヶ崎が言った。
「氷室、まだ追い払っただけ……
殺せてはいない……!」
氷室は肩で息をしながら頷く。
「……わかってる……
でも……
初めて……“効いた”んだよな……?」
城ヶ崎は微笑み、静かに頷いた。
「ええ……
あなたは、もう……
本物の影の継承者です」
そして空間が崩れ始める。
影の海が消え、
白い光が空間を満たす。
城ヶ崎が氷室の手を掴んだ。
「戻りましょう、氷室。
あなたの世界へ」
氷室は力強く頷いた。
「もう……
ここでお前を失う気はない」
城ヶ崎は小さく息を飲んだ。
そして微笑む。
二人は光に包まれ、
現実世界へ引き戻されていった。




