第8話:初ダンジョン探索
青白い光の膜を抜けると、そこは薄暗い洞窟のような空間だった。
足元は平坦な石畳。天井には淡く光る鉱石が点在しており、思ったよりも明るい。湿った空気が肌にまとわりつき、ひんやりとした感触が心地いい。
(……ほう、本当にダンジョンって感じだな)
妙に現実味のある風景に、思わず感心する。
周囲を見渡すと、同じく初心者らしき冒険者たちがちらほら。中には親子連れや、友達同士で来たような若者もいる。
入口付近には、ダンジョンの簡易マップが掲示されていた。
第一階層は比較的単純な作りで、道幅の広い通路といくつかの小部屋。さらに奥に行くと、やや広い空間があり、そこには少し強めのモンスターが出現するらしい。
(まあ、深入りはしないで、適当に一周して帰ろう)
そう考えながら、俺は恐る恐る通路を進んでいく。
その途中でふと思い出し、スマホ型の端末を取り出して、自分のステータスを確認する。
【名前】篠原悠斗
【職業】テイマー
【レベル】1
【HP】11
【MP】7
【攻撃力】5
【防御力】4
【魔力】4
【魔法防御】4
【器用】7
【幸運】6
【速度】6
(うーん……まあ、こんなもんか)
改めて見ると、講習のときに言われた職業補正のことを思い出す。
テイマーは、HP・攻撃・防御・魔力が0.9倍、速度が1.0倍、魔力防御・器用さ・幸運・MPが1.1倍の補正がかかる。
もともとの数値から微妙に上下したこの値も、どうやらその影響らしい。
(攻撃も防御も正直低いけど……器用さとMP、あと幸運はそこそこあるのか)
テイムスキルは消費MP型だと講習で聞いたばかりだ。MPが高いのは、それだけスキルを多く使えるということ。
この辺りはテイマー向き、といえば向きなのかもしれない。
(まあ、せっかくだし、ちょっとは試してみるか)
そう思った矢先、前方の曲がり角の先でピョン、ピョンと跳ねる小さな青い物体を発見した。
「……スライム?」
直径30センチほどの半透明な球体。
中に小さく核のようなものが浮かんでおり、体をぷるぷると揺らして跳ね回っている。
(おお、本当にいるんだな)
図鑑の写真でしか見たことがなかったモンスターが、目の前にいるというだけで、妙にテンションが上がる。
とはいえ、相手はダンジョン初心者の象徴、雑魚モンスターだ。
ここでふと、講習で教わったことを思い出す。
テイマーの基本スキル『テイム』は、相手のHPが減っているほど成功率が上がる。試しにやってみるか。
(別に倒してもいいけど、せっかくだし)
俺は近くの小石を拾ってスライムに投げつける。
ぺちん、と鈍い音がして、スライムがぴょんと跳ねる。HPのゲージが少しだけ減少したのが端末に表示された。
「よし……」
再びスキル画面を開き、テイムボタンをタップする。
「《テイム!》」
俺の声とともに、青白い光がスライムを包み込んだ。
しばらく抵抗するようにぷるぷると震えていたが、やがて光が収まり——
【テイム成功】
端末の画面にそう表示される。
(……マジか)
驚きと嬉しさが一気に込み上げる。
目の前のスライムは、先ほどまでの警戒心を失い、足元にぴょんぴょんと跳ね寄ってくる。
「お、おお……かわいいな」
無邪気に体を揺らすスライムを見て、思わず笑みがこぼれた。
こうして俺は、初めてのダンジョン探索で、最初の仲間を手に入れることになったのだった。