第2話:社畜の日常
朝の満員電車に揺られ、なんとか会社の最寄り駅に到着する。
すでにぐったりとした体に、容赦なく押し寄せる通勤ラッシュの波。誰もが無言でスマホを見つめ、誰も周囲に興味なんてない。俺も例外ではなく、無意識に画面を眺めながら、足を職場へと運んでいた。
俺の勤める会社は、中小のIT系企業。もっとも、その実態はブラック企業と言って差し支えない。
残業は当たり前、休日出勤も黙認。終業時間は存在しているようで存在しない。
「篠原くん、ここの資料、今日中に仕上げてくれるよね?」
朝イチから上司の声が飛ぶ。まだパソコンの電源すら入れていないのに、これだ。
「……はい、わかりました」
習慣で出る返事。もはや自分の意志なんてない。ただ、逆らう気力がないだけだ。
会社のデスクには、すでに前日の作業の続きが山積み。昼休みになんとかコンビニのおにぎりを口に押し込んで、またパソコンの画面に向き直る。
気がつけば外は暗く、時計の針は23時を回っていた。
誰もが疲れた顔でキーボードを叩き、終電の時間を確認してはまた黙々と作業に戻る。この空気、この光景にも、もう慣れてしまった自分が怖い。
結局、終電間際まで働き、会社を出たのは0時を過ぎた頃だった。
人気のない夜道を、コンビニのビニール袋を提げて歩く。
買ったのはカップ麺とビール一本。これが俺の今日の晩飯だ。
(……こんな生活、いつまで続けるんだろうな)
ふと立ち止まり、夜空を仰ぐ。
遠くに、ダンジョンのゲートがぼんやりと光を放っているのが見えた。
あんな非日常の空間が、いつしか日常の風景になっているのも、不思議なものだとぼんやり思う。
けれど、それ以上に、今のこの生活が変わることなんて、俺には考えられなかった。