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第21話「影の勝者、それぞれの誓い、そして伊勢へ」(第1章最終話)

前回までのあらすじ

怨神系リーダーにより星降りの儀が「生贄選定システム」であるという絶望的な真実が明かされ、復活した「混沌の白鳥」の前に為す術もない晴斗たち。しかし、晴斗が持っていた白い羽根が祭丸と縁、そして晴斗自身の想いを受けて輝き、白鳥の心の奥に一瞬だけ「愛の記憶」を届ける。兄・陽斗の思念は、根本的な救済の鍵が伊勢にあることを示唆する。

出雲大社の境内を離れる頃、空は薄紫から淡いオレンジ色に変わり始めていた。


僕たち—晴斗、祭丸、縁、凪、そして夜守—は、重い足取りで参道を下っていく。昨夜の戦いと絶望的な真実の重みが、まだ肩にのしかかっていた。


でも、僕の胸の奥では、兄の勾玉とあの白い羽根が静かに脈打ち続けている。一瞬だけ繋がった希望の光を、もっと強いものにするための旅が、これから始まるのだ。


「晴斗君、あれを見てください」


祭丸が心配そうに街の方を指差した。


出雲市内のあちこちで、小さな煙が上がっている。昨夜の混沌の白鳥の影響で、現実世界にも異変が起き始めているのだ。


凪がスマートフォンを確認しながら眉をひそめる。


「やっぱりな。全国でパニックが拡大してる。原因不明の停電、異常気象、それに…」


凪の声が沈む。


「各地で子供の行方不明事件が急増してる。きっと、星降りの儀の参加者たちが狙われてるんだ」


縁の勾玉からも不安の声が聞こえる。


「このままでは、一般の方々まで巻き込まれてしまいます。急いで伊勢へ向かわなければ…」


その時だった。


街から離れた森の方角から、大きな音が響いてきた。


「何だ?」


僕たちは反射的にその方向を見た。


森の奥で、禍々しい黒い光が立ち上っている。それは明らかに、神の力の痕跡だった。


「他の参加者か…」


凪が警戒心を込めて呟く。


「行ってみるか?」


僕は少し迷った。伊勢への出発を急ぎたい気持ちもあったが、もし誰かが危険な目に遭っているとしたら…


「様子だけでも見てみよう」


僕たちは森の方向へ向かった。


---


森の奥深く、人気のない空き地で、一人の少年が膝をついていた。


フードを目深にかぶったその姿は、僕たちにはまだ見えなかった。でも、その少年の周りには、激しい力の痕跡が残っている。


焼け焦げた地面、倒れた木々、そして…散らばった星の欠片の破片。


それは「大国の欠片」の、ひときわ大きな破片だった。星舞台の崩壊と共に飛び散ったと思われていたものの一つ。


少年—田中竜也は、息を切らしながらその欠片に手を伸ばしていた。


彼の契約神「夜闇」が、警戒するように周囲を飛び回っている。コウモリのような翼を持つ小さな獣は、明らかに疲労困憊していた。


「やっと…見つけた…」


竜也の声は掠れていた。


彼は昨夜から、星舞台の崩壊で散らばった欠片を探し続けていたのだ。他の参加者たちが絶望し、あるいは互いに警戒し合っている混乱の最中、夜闇の瘴気への耐性と探知能力を駆使し、執念でこの欠片を追っていた。


でも、その欠片は混沌の力に汚染されかかっていた。本来の七色の輝きを失い、黒ずんで禍々しいオーラを放っている。


夜闇が心配そうに主を見つめる。


「主ヨ…コノ欠片、邪悪ナ力ニ満チテイル…アナタ自身モ蝕マレル…」


竜也は一瞬だけ躊躇した。


夜闇の忠告は正しい。この欠片を使えば、確かに強大な力を得られるだろう。でも、その代償として、自分自身も混沌に染まってしまうかもしれない。


でも、竜也の脳裏に、病室で眠る姉の顔が浮かんだ。


やつれた頬、苦しそうな寝息、そして時々見せる悲しそうな笑顔。


「ごめんね…竜也…こんな姉さんで…何もできなくて…」


その言葉が、竜也の心を決めた。


「構わない…!姉さんを救えるなら、僕はどんな力だって受け入れる…どんな犠牲だって払うさ!」


竜也はためらうことなく、黒ずんだ欠片を握りしめた。


その瞬間、竜也の体から黒いオーラが立ち上った。欠片の邪悪な力が、彼の体内に流れ込んでいく。


痛みが全身を駆け巡る。でも、同時に圧倒的な力も感じられた。


夜闇のステータスが急激に上昇していく。


攻撃D→A、防御E→C、神技C→A、絆B→C、霊格C→B


でも、その代償として、竜也の瞳が赤く不気味に輝き始めた。


彼の心の中で、何かが冷たくなっていく。


これまで感じていた罪悪感や躊躇いが、まるで氷のように凍りついていく。


「これで…これだけの力があれば、姉さんを…」


竜也は立ち上がった。その顔には、以前の迷いや優しさは微塵もない。


ただ、目的のためなら手段を選ばない、冷徹な意志だけがあった。


夜闇が悲しそうに鳴く。


主の変化を、一番近くで感じ取っていたからだ。


「主ヨ…モウ引キ返セナイ…」


でも竜也は振り返らなかった。


黒ずんだ欠片を胸にしまい、静かに森の奥へと消えていく。


---


僕たちが誰かの痕跡を発見した時にはもう誰もいなかった。


「なにかがあったみたいだな…」


凪が焼け焦げた地面を見て呟く。


「でも、もう誰もいない」


祭丸が不安そうに周囲を見回している。


「でも、とても嫌な気配が残ってます…何か邪悪な力が使われたような…」


縁も心配そうだった。


「星の欠片の破片が散らばっているようですが…これは『大国の欠片』の一部でしょうか」


僕は地面に残された足跡を見つめていた。


明らかに僕と同年代の子供のものだ。それも、一人だけ。


「一人で来て、一人で去った…」


僕は立ち上がった。


「きっと、星舞台の崩壊で散らばった欠片を探しに来た参加者がいたんだ」


でも、その参加者が誰なのかは分からない。


ただ、この場所に残された邪悪な気配が、僕の胸に不安を呼び起こした。


「急ごう」


僕は仲間たちを促した。


「ここにいても、答えは見つからない。伊勢で、本当の解決策を探そう」


---

出雲駅に到着すると、意外な人物が僕たちを待っていた。


御門院雅だった。


彼女は美しい朝の光の中に立っていたが、その表情は昨夜よりもさらに複雑で、深い決意を秘めているように見えた。


「あら、皆様もいらしていたのですね」


雅の声は相変わらず涼やかだったが、どこか違っていた。


吹っ切れたようでもあり、新たな覚悟を固めたようでもある。


「雅さん…」


僕は彼女に近づいた。


「君も伊勢に向かうの?」


雅は少し微笑んだ。それは、これまで見たことのない、自然な笑顔だった。


「いえ。私は、御門院として、この出雲の地に残ります」


「残る?」


「ええ。一族の『偽りの罪』と向き合い、そして『混沌の白鳥』の復活を阻止するための手がかりを探します」


雅の瞳に、確かな光が宿っている。


「昨夜の戦いで分かったのです。御門院の呪いは確かに偽りでした。でも、だからこそ、本当の御門院の使命があるはずです」


『白雪姫』も雅の肩で静かに頷いている。その姿は、以前よりもさらに美しく、そして強く見えた。


雅の決意が、契約神にも良い影響を与えているようだった。


「あなた方とは、目指す場所が異なるやもしれません」


雅は東の空を見上げた。


「ですが、もし伊勢で『真の支配者』や『システム』を打ち破る道が見つかるのなら…その時は、私も力を貸しましょう」


雅は僕に向き直った。


「これは、貸し借りなしの、対等な協力者としての約束です」


僕は雅の手を握った。


「約束する。必ず、みんなが幸せになれる方法を見つけてくる」


雅の瞳に、一瞬だけ涙が浮かんだ。


でも、すぐに晴れやかな笑顔に変わった。


「ええ。信じております」


そう言うと、雅は『白雪姫』と共に、出雲大社の方向へと歩いていった。


その後ろ姿は孤独だったが、昨夜までとは違って、希望に満ちているように見えた。


---


新幹線の車内で、僕たちは今後の作戦を練っていた。


「伊勢神宮は、全ての神社の頂点とされている場所」


縁が説明してくれる。


「そこには、星降りの儀の起源に関する最も古い記録があるかもしれません」


祭丸も興味深そうに頷く。


「陽斗君が探していた『真の鍵』も、きっとそこにあるんですね」


でも、凪は少し心配そうだった。


「問題は、伊勢に着くまでに、どれだけ世界の状況が悪化するかってことだな」


凪のスマートフォンには、相変わらず緊急ニュースが流れ続けている。


混沌の白鳥の影響は確実に拡大している。そして、星降りの儀の参加者たちの間でも、混乱と対立が深まっているようだった。


「でも、諦めない」


僕は窓の外を見つめながら言った。


「昨夜、一瞬だけでも混沌の白鳥に光が届いた。それは、まだ希望があるってことだ」


僕はポケットの中の白い羽根に触れた。


まだ微かに温かい。その温もりが、僕の決意を支えてくれている。


「きっと伊勢で、答えが見つかる」


祭丸が元気よく頷く。


「はい!私たちの絆の力で、必ず道を切り開きましょう!」


縁の勾玉も温かく光った。


「世界の歪みを正し、失われた絆を取り戻すために…私たちにできることを、すべてやりましょう」


凪も悪戯っぽく笑った。


「まあ、面白そうだからな。最後まで付き合ってやるよ」


夜守も凪の肩で小さく鳴いて、同意を示している。


列車は東に向かって走り続ける。車窓から見える風景は、どこか平和で美しかった。


でも、僕たちは知っている。


この平和な日常の裏で、世界を揺るがす巨大な陰謀が動いていることを。


そして、その陰謀を止めるのは、僕たち12歳の子供たちの役目だということを。


---

夕方、駅に到着した。


ホームで乗り換えを待つ間、僕たちはそれぞれの想いを口にした。


祭丸が最初に口を開く。


「僕は、陽斗君との約束を果たします。晴斗君を守り、そしてみんなが笑顔になれる世界を作るために、僕の全ての力を使います」


その小さな体に、確かな決意が宿っている。


縁も静かに誓った。


「私は、真の縁を結び直します。敵も味方も関係なく、すべての魂が安らげる絆を」


凪は肩をすくめながら言った。


「俺は…まあ、面白いからついて行くだけだが、でも、あの混沌の白鳥に一瞬でも人間らしい表情が戻ったのを見ちまった以上、最後まで付き合うしかないな」


夜守も凪の肩で、決意を込めて鳴いた。


そして僕は、兄の勾玉を握りしめながら誓った。


「僕は、兄さんが問いかけた『選択』の答えを見つける。そして、この世界を正しい形に戻すんだ」


ポケットの中の白い羽根が、僕の誓いに呼応するように温かく脈打った。


---


別の影も動いていた。


街の一角で、フードを深くかぶった少年が、同じく電車に乗り込んでいた。


田中竜也だった。


彼の瞳は相変わらず赤く光り、その表情には一片の迷いもない。


胸に隠した黒ずんだ欠片が、不気味な光を放っている。


夜闇も、主の変化を悲しそうに見つめていた。


でも、もう止めることはできない。


竜也は、自分なりの『選択』を下したのだ。


姉を救うためなら、世界がどうなろうと構わない。


たとえ自分自身が悪魔になろうとも。


電車は、同じ方向へ向かって走っていく。


やがて、竜也と僕たちの運命は再び交わることになる。


その時、何が起こるのか。


まだ、誰にも分からなかった。


夜が更けていく中、二つの電車は同じ目的地へ向かって走り続けていた。


一つは希望を乗せて。


もう一つは絶望を抱えて。


そして、その先にある伊勢の聖地で、すべての運命が決まろうとしている。


夏の夜空に星が瞬く中、僕たちの物語は新しい章へと向かっていく。


---


**『ぼくらの夏休み神話』第1章 完**


**次章予告**


*ついに明かされる星降りの儀の真の起源。*


*陽斗が遺した『鍵』の正体とは。*


*そして、竜也の抱える深い闇と、避けられない運命の再会。*


*混沌の白鳥の脅威が現実世界に迫る中、晴斗たちは最後の希望を見つけることができるのか。*


*『ぼくらの夏休み神話』第2章、近日開幕――*

最後までお読みいただきありがとうございました!

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