表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
座頭の石 (ざとうのいし)  作者: とおのかげふみ
第三章 子毛の町

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

30/34

ep.6 夜の町

暗くなると、通りは昼間とはまた違った形で(にぎ)わい、活気づいた。


町の中央を流れる川べりには、いくつかの屋台が立ち並ぶ。

大通りには、宿屋や飯屋が両側に並んで、春売(はるうり)(買春)のところへ連れて行こうとする客引きもうろうろしている。


...人の往来(おうらい)も多いし、景気は良さそうだ


(いし)は久しぶりの酒の匂いと大勢の人の匂い、飯の匂いや、女の匂いに釣られて、喧騒(けんそう)、話し声、笑い声の中をゆるゆると歩いていた。


...()けてるな


子毛(こげ)に入ってから(しばら)くして、自分の後を追う存在に気付いた。

町への好奇心が勝っている間は、()けて来るやつを捕まえるのは後回しにしていたが、だいたい町の空気にも慣れたので、


...そろそろ、とっ捕まえるか


と云う気になった。


目的は分からないが、主人を追いかける犬のように石の後を追いかけてくる。

あちこちと(のぞ)き込んでは出ていくを繰り返す石の後ろを、ピッタリついてくるのだから、尾行しているのは間違い無いだろう。


石は川っぺりで足を止め、座って(ほど)けた草鞋(わらじ)(ひも)を、ゆっくり結び直してみた。

すると尾けて来た奴は、ここぞとばかりに駆け寄ってきて、(かが)む石のそばに立った。


「オジキが、お前を連れて来いとよ」


そいつの声は、微妙に震えている。


「だからなんだ? お前が言うオジキなんて知らねえ。あしの後を()いてくんな」

「な、んだと、このヤロウ」


男の声が、坂道を降りるように小さくなっていく。


「オジキの名を言えよ」

「・・・た、たのや、多の屋助五郎(スケゴロウ)だ」


...なんだ、助五郎が言ってた案内人か?


旅人を狙った物盗(ものと)り(泥棒・強盗)も有り()ると身構えていたが、気が抜けた。


「はいよ、じゃあ案内(あない)してくれ」


石はスッと立ち上がる。

そいつは分かりやすく、安堵(あんど)していた。


「お前さん、名は?」

八助(ハチスケ)・・てめえ、目が見えねぇんだったな。俺がお屋敷まで、手を引いてやるよ」


八助は、石の腕を取ろうと手を伸ばしてきた。

それを、石はやんわりと退(しりぞ)ける。


「勘弁してくれ。男同士でお手々(つな)いで歩くなんてな、あしの(しょう)に合わねえんでな。お前さん、先に行ってくれ」


「あ? 馬鹿かてめえは、俺が引っ張らなくて、どうやって目暗(めくら)のてめえが屋敷に行けるんだ」


八助だって中年男の腕など取りたくないが、早く屋敷に連れて行かないと助五郎(スケゴロウ)に怒鳴られる。

これ以上、石に好き勝手されるわけにはいかなかった。


「せっかく気を回してやったのによ」


断られた八助は、不満を隠そうとしない。


石には八助の心情など、どうだっていいが、助五郎といい八助といい、子毛(こげ)八九三(ヤクザ)たちの、感情がすぐ表に出る素直さには(ワラ)ってしまう。


...所詮は田舎八九三(ヤクザ)か、心の中が透けて見える。こんなんじゃ、上方(かみがた)の何を考えてるか分からねえ、魑魅魍魎(ちみもうりょう)には太刀打(たちう)ち出来やしない


水茶屋(みせ)での一件を思い出す。


...そういや、右馬(ウマ)は西の(なま)りがあったな。助五郎にはそれほど訛りは無かったが、あいつも西から来たのか?


とはいえ《お屋敷》とは大袈裟(おおげさ)じゃねえか? 少しは羽振(はぶ)りが良いかもしれねえな。久しぶりに旨いもんでも食えるか...


ひひひ、と一人笑いして、ふと(つる)を思い出し、バツが悪そうに舌を出した。


...あしだけ旨いもん食うのは、よくねえや


その間、八助は無言で石を睨んでいた。


「いつまでそこに突っ立ってんだ? ほら、あしの心配は()らねえから案内(あない)してくれ。前を歩けば、お前さんみたいに()けてやるよ」


石は、不貞腐(ふてくさ)れてる八助を杖で遠くへ、スウッ・・・と追いやった。


「ほら行こうぜ、八助さん」

「うるせえ」


八助はようやく歩き出した。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ