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座頭の石 (ざとうのいし)  作者: とおのかげふみ
第三章 子毛の町

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ep.5 呪い

...いつ来るんだ? 助五郎(あいつ)が寄越すと言った案内人は?


定吉(さだよし)と別れて四半刻(しはんどき)(約30分)は経つ。

真っ暗な中で月明かりに照らされた(いし)は、棒鼻(ぼうはな)(町の入り口)の立て札の前でまだ待っていた。


...あーやだやだ、案内人(あない)も断わりゃ良かったぜ


立ち上がり背筋を伸ばしながら、今日の水茶屋(みせ)での事を思い返してみた。


... 助五郎(スケゴロウ)は真っ当な商人を(よそお)っちゃいたが、八九三(ヤクザ)の臭いがプンプンしてる


悪党には、呪いが取り憑いている。

それは決して消えるものではなく、罪を重ねると腐敗(ふはい)する。

呪いが放つ悪臭は酷い臭いだが、周りは気付かない。


...そりゃみんな同じ穴のムジナだからな


身に受ける人の恨みつらみは、さらに悪党を腐敗させ、悪臭はやがて腐敗臭(ふはいしゅう)に変わる。

やがて腐敗臭は、身近な者に伝染し、その人生を腐らせ心を(むしば)む。


...何人も悪党を見て来たが、結局、生き残っても幸せになれねえ奴ばかり


生き残った奴は臆病(おくびょう)だからこそ生き残れた。

ただ散々(さんざん)人を不幸にしてきた悪党に幸せな余生なんて、都合の良いものがあるはずはない。


...カモの都合の良い考えを利用して人を嘲笑(あざわら)ってきたくせに、自分の人生は都合良く考えるところが、人ってもの


生きてる間は報復に脅え、自分の死後の家族への報復を恐れて地獄へ行き、哀れなもんだ...


石にも呪いがかかっている。

守るわけでも、やむにやまれずでもない、命じられるまま人を初めて(あや)めた時から、もう逃げられない。


今日まで足掻(あが)いてきた人生に、石に人生を狂わされた人々の哀しみと命を奪われた者の憎しみが積み重なる。

取り返せない過去の悪業(あくごう)贖罪(しょくざい)は届かない。


せめて、これからは少しでも善行を行い、(つる)に呪いが及ばないようにしたい。

それが都合のいい話だとは分かってる。


...それでも、自分の地獄行きは決まっていたとしても、天国で幸せに暮らす、つるの姿を見上げながら地獄で責めを受けようと思う・・・


見えない、夜空を見上げた。


...いまは路銀(ろぎん)を稼がねえと、このままじゃ旅は続けられねえなあ


湿っぽくなってしまったが、気持ちを切り替えた。


旅を続ける為には、子毛(まち)を仕切る助五郎の機嫌を、これ以上(そこ)ねるわけにはいかない。

これから会ってするのは助五郎のご機嫌取り。


...格好はちょいと悪いが仕方ねえや


(よし)の家から子毛(まち)は遠い。

町に行かなきゃ石は仕事にならない。


それに子供もいる家だ。

呼ばれりゃ夜中だって出掛ける事もある、石の宿にするには、どうにも都合が悪い。


つるは宿代(やどだい)代わりに家でも水茶屋(みせ)でも働くから役に立つ。

石は、よしの家では無料(ただ)飯食いの木偶(でく)(ぼう)で、なんの役にも立たない。


...寝れさえすりゃ何処だっていい。ともかく子毛(まち)で稼がなきゃな。つるは家に置いてもらわなきゃならねえから、さて、よしになんて頼もう


などと考えているのだが、案内人は一向に現れる気配がない。


「さて、行くか」


...町の誰かに助五郎(あいつ)の屋敷の場所を聞きゃあいい。あいつも町の住人で知らねえ奴はいねえと言ってたしな


ご大層に寄越してやるなんて言ってたがな。来なかったぞ! って言ってやりゃあ、助五郎(ヤロウ)どんな(つら)するか見ものだな...


ああ、見えねえや


自嘲(わらい)ながら石は、(ただよ)う良い匂いに釣られるように子毛(こげ)の町へと入って行く。





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