ep.5 呪い
...いつ来るんだ? 助五郎が寄越すと言った案内人は?
定吉と別れて四半刻(約30分)は経つ。
真っ暗な中で月明かりに照らされた石は、棒鼻(町の入り口)の立て札の前でまだ待っていた。
...あーやだやだ、案内人も断わりゃ良かったぜ
立ち上がり背筋を伸ばしながら、今日の水茶屋での事を思い返してみた。
... 助五郎は真っ当な商人を装っちゃいたが、八九三の臭いがプンプンしてる
悪党には、呪いが取り憑いている。
それは決して消えるものではなく、罪を重ねると腐敗する。
呪いが放つ悪臭は酷い臭いだが、周りは気付かない。
...そりゃみんな同じ穴のムジナだからな
身に受ける人の恨みつらみは、さらに悪党を腐敗させ、悪臭はやがて腐敗臭に変わる。
やがて腐敗臭は、身近な者に伝染し、その人生を腐らせ心を蝕む。
...何人も悪党を見て来たが、結局、生き残っても幸せになれねえ奴ばかり
生き残った奴は臆病だからこそ生き残れた。
ただ散々人を不幸にしてきた悪党に幸せな余生なんて、都合の良いものがあるはずはない。
...カモの都合の良い考えを利用して人を嘲笑ってきたくせに、自分の人生は都合良く考えるところが、人ってもの
生きてる間は報復に脅え、自分の死後の家族への報復を恐れて地獄へ行き、哀れなもんだ...
石にも呪いがかかっている。
守るわけでも、やむにやまれずでもない、命じられるまま人を初めて殺めた時から、もう逃げられない。
今日まで足掻いてきた人生に、石に人生を狂わされた人々の哀しみと命を奪われた者の憎しみが積み重なる。
取り返せない過去の悪業に贖罪は届かない。
せめて、これからは少しでも善行を行い、弦に呪いが及ばないようにしたい。
それが都合のいい話だとは分かってる。
...それでも、自分の地獄行きは決まっていたとしても、天国で幸せに暮らす、つるの姿を見上げながら地獄で責めを受けようと思う・・・
見えない、夜空を見上げた。
...いまは路銀を稼がねえと、このままじゃ旅は続けられねえなあ
湿っぽくなってしまったが、気持ちを切り替えた。
旅を続ける為には、子毛を仕切る助五郎の機嫌を、これ以上損ねるわけにはいかない。
これから会ってするのは助五郎のご機嫌取り。
...格好はちょいと悪いが仕方ねえや
由の家から子毛は遠い。
町に行かなきゃ石は仕事にならない。
それに子供もいる家だ。
呼ばれりゃ夜中だって出掛ける事もある、石の宿にするには、どうにも都合が悪い。
つるは宿代代わりに家でも水茶屋でも働くから役に立つ。
石は、よしの家では無料飯食いの木偶の坊で、なんの役にも立たない。
...寝れさえすりゃ何処だっていい。ともかく子毛で稼がなきゃな。つるは家に置いてもらわなきゃならねえから、さて、よしになんて頼もう
などと考えているのだが、案内人は一向に現れる気配がない。
「さて、行くか」
...町の誰かに助五郎の屋敷の場所を聞きゃあいい。あいつも町の住人で知らねえ奴はいねえと言ってたしな
ご大層に寄越してやるなんて言ってたがな。来なかったぞ! って言ってやりゃあ、助五郎どんな面するか見ものだな...
ああ、見えねえや
と自嘲ながら石は、漂う良い匂いに釣られるように子毛の町へと入って行く。




