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座頭の石 (ざとうのいし)  作者: とおのかげふみ
第三章 子毛の町

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ep.4 焼いた

「盲人の按摩(あんま)さんだ。歳は俺やあんたより上、もういいか?」

目暗(めくら)か・・そいつの名は?」

「・・・(いし)


名前を聞いた、弥切(やキり)の顔が(けわ)しくなった。


「どうかしたのか?」

「・・・なんでもない。そうだ、お前に話しておかなきゃならない事がある。例の尾張おわり家に持ち込む話は無かった事にしろ」


弥切の言葉に、定吉(さだよし)は顔色を変えた。


「どうしてだ?」

助五郎(ダンナ)和久(わく)家に手を回して、尾張奉行(おわりぶぎょう)にまで賄賂(ワイロ)が渡ってた


「俺の手下が尾張家の侍に追い回されて、もう少しで(とら)らえられる所だった。あれ以上の詮索(せんさく)は無理だ」


二人の間に、凍りついた風が吹いた。


「お前が子毛(こげ)で調べていた三ヶ月(みつき)の間に、ダンナは和久家と尾張家に話をつけていた。


「三者はもうズブズブだ。つけ入る(すき)どころか下手(へた)に関われば俺たちの首が飛ぶ」


弥切は自分の首を指で切る動作をした。


「それじゃ、(すえ)さまは無駄死にだ。納得がいかない、弥切、お前は俺に約束したはずだ」


定吉は唇を噛み締めた。


「覚えてねえな・・ってのは嘘だが、命あっての物種(ものだね)だ。俺はこんなところで死ぬ気はない。ここら辺りが潮時(しおどき)って事だ」


定吉の自分を見る眼球(がんきゅう)が赤く血走(ちばし)っている。


...コイツ冷静じゃ無くなってるな


嘆願書(たんがんしょ)を渡せ」

「ハア?」


弥切は冷笑(れいしょう)した。


「そりゃ無理だな、もう無い」


「!・・どこにやっ」

「焼いた。風に吹かれて飛んでったよ、灰になってひゅうってな。探す手伝いはしないが、場所を知りたきゃ教えてやるよ」


弥切は、定吉にとり絶望(ぜつぼう)的な言葉を()いた。

怒りで、遠くに聞こえる町の喧騒(けんそう)も耳には入らない。


定吉が拳を固め一歩踏み出してくるのを、弥切は(ワラ)いながら見ていた。


「この(クズ)が!」

「おっと、本心が出たな。弥切さんはどうした?」


弥切はヘラヘラ嗤っている。

(おのの)きもせず今の状況を面白がっているようだ。


「相手になってやるが、ここで騒ぎを起こせばダンナに隠し切れ無いだろう。言い訳はお前が考えろよな」

「なんの言い訳だ!」


「大声を出すな、これだからイヌは面倒でいけねえな。嘆願書の事だ。この話は俺からダンナに話しておいてやる、(よし)が隠し持ってる事にしてな」


よしの名を出されて、我を忘れかけていた定吉の足が止まった。


「よしさんは、か、関係ないだろう」


定吉は狼狽(うろた)えた。


「関係ないかどうかは、今は分からねえ。それともお前の素性(すじょう)をダンナにバラしちまおうか」


定吉は立ち尽くし、弥切を睨みつけた。


「お前も殺されるぞ」

「少なくともお前より先に死にはしない」


弥切は他人事(ひとごと)のように言う。

 

「裏仕事を仕切れる奴は俺しか居なくてな、他の奴らは能無しのアホウばかりだ。俺はダンナの(ゼニ)を産む金ヅルだから、半殺しになるだろうが死にはしない


「まあ、お前は拷問(ごうもん)され殺されるとして、よしだって、ただじゃ済まねえだろう。あの世で見守ってやりな、(よし)(たえ)の行く末を。さあ、やるか」


着物を肩まで(まく)る弥切に背を向けた定吉。


「おい、帰るのか? 面白みのねえ野郎だな。お前、用事があるんじゃなかったのかよ」


定吉は黙って去って行く。


一丁前(いっちょまえ)にお怒りだな、おイヌ様がよ」


挑発してみるも、定吉は振り向きもせず去って行った。



一人残された弥切。

弥切にも定吉の十分の一くらいは(くや)しい気持ちはある。


出会った時の、初々(ういうい)しい、すえの姿が脳裏(のうり)をよぎる。

だがすぐに冷静な心を取り戻し、すえに対する憐憫(あわれみ)を消した。


...盲目・・・石


夜の賭場(とば)を仕切るために屋敷を出て来たが、定吉が送って来たという石という名の男のことが頭から離れない。

迷ったが屋敷に戻ることにした弥切。


そこへ男が声をかけてきた。


代貸し(かしら)どちらへ? 賭場の準備は、もう出来てますが」

棄八(すてハチ)、町中で俺を呼ぶときは言葉を選べ」


棄八(すてハチ)は首をすくめた。


「今夜の賭場は、いつもの連中で新顔は居ない。楽な仕事だ。後で俺が行くから、それまでお前が仕切っておけ、下手を打つなよ」


弥切は、そう言うと棄八の返事も聞かず走り去った。






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