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NOVA☆EARTH~★宇宙大開拓時代★を駆け抜ける青少年たちの青春と冒険譚~  作者: 風雅ありす
第二章 一触即発

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3. 乱闘と少女

 宇宙防衛軍基地を飛び出したスバルは、薄暗い路地裏に居た。行き場を失った怒りを、手近な所でぶつけようとしたのだ。


 どっ、という鈍い音と共に、目の前にいた見知らぬ男が仰向けに転がる。肩がぶつかった、とかそんなどうでもいいことをキッカケに始まった喧嘩だった。


 スバルは、殴った拳の痛みも感じないほど頭に血が上っている。


 殴り、殴られ、殴り合い。スバルは、行き所のない怒りを右手拳に込めた。


 そうして、もうどれくらいの時間が経っただろうか。気付いた時には、周りをぐるりと暴漢達に囲まれていた。


(俺は、何をしてるんだ……)


 そう思った時には、もう遅い。些細な事をキッカケに始まった喧嘩は、既に収集の付かない程に大きく膨れ上がっていた。


 その事に、今の今まで気が付かなかったのは、それだけ我を忘れていたという事だろう。そんな自分を自嘲するかのように、スバルは、薄笑いを浮かべた。


「テメェ、自分の置かれてる立場が解ってるのかよっ!」


 拳が振られ、スバルの腹部を鈍い痛みが襲う。一瞬、気を失いそうになるが、根性で堪えた。


 スバルには、戦闘能力に長けたマーティエ人の血が半分だけ流れている。それに加え、場数を踏んでいるだけの事はあり、喧嘩にも手慣れていた。その目立つ風貌と父親の権威から、周囲が放ってはおかないからだ。学園の学生達の間で、スバルに勝てる者は、まずいないだろう。


 しかし、四方八方から容赦なく襲いかかる攻撃の嵐に、さすがのスバルも限界を感じ始めていた。その証拠に、殴った相手が倒れる事なく再び立ち向かってくる。


 スバルは、とっさに姿勢を低くした。不意をつかれた暴漢達に一瞬の隙が生まれる。それを狙って、スバルが大きく跳躍した。


 そのまま暴漢達の頭上を跳び越えると、放心状態でいる彼らを背にし、一目散に逃げ出した。


『喧嘩は、逃げるが勝ち』


 そう教えてくれたのは、若い頃、相当腕を鳴らしていたらしい叔父貴だった。スバルの腕っぷしは、叔父譲りなのかもしれない。


 スバルは、とにかく走った。行く宛はなかった。だが、背後から自分を追ってくる気配がなくならない限りは、止まるわけにはいかない。


 そこで暗い路地裏を抜け、賑やかな商店街を一気に駆け抜けた。人混みを掻き分けて走る内に、奴らを撒こうと考えたからではなく、ただ本能のままに走っていた。ぶつかった何人もの人がスバルに悪態を吐いていたが、スバルは無視して通り過ぎて行った。


 がむしゃらに走っている内に、どうやら足は自然と学園へ向かっていたらしい。見慣れた景色に僅かながら、スバルの心にゆとりが生まれる。


 背後から追っ手が迫ってきている様子は、ない。ここまで来れば大丈夫だろう。


 そう思ったのも束の間、前方が僅かに騒がしい。嫌な予感がした。


 速度を落とし、騒ぎの音がする方へと近づいてゆくと、暴漢達に囲まれている一人の少女の姿が目に飛び込んできた。


 その暴漢達の顔には見覚えがある。どうやら先回りされていたらしい。彼らは学生でないようだが、スバルの着ていた制服から、ここだと当たりをつけたのだろう。


 取り囲まれている少女は、スバルと同じ宇宙学園の制服を身に着けている。


 おそらく運悪く通りかかったがために、捕まってしまってしまったようだ。もしかしたら、スバルの特徴を伝えて居場所を聞き出そうとしているのかもしれない。


 スバルは、咄嗟に周囲を見回した。学園に近いこの一帯には、居住区や学園寮などが建ち並び、喧騒とは程遠いところにある。人通りは限りなく少ない。誰かが通るのを待つのは期待出来そうになかった。


 スバルが再び、暴漢達の中心へと視線を戻す。そこに居るのは、黒髪の、小柄な少女だった。おそらく、スバルより年下であろう。


 それにも関わらず、少女は、叫び声一つ上げない。叫べば誰かが聞きつけてくれるかもしれないのに、それをしない。遠目で、少女の表情まで読み取る事は出来ないが、声も出さずに耐えているのが解る。


 スバルは、舌打ちをした。体力は、既に限界を越えている。


「やめろっ! お前らの相手は、この俺だろう!?」


 叫ぶと同時に駆け出し、地を蹴って跳んでいた。暴漢達が声のした方を向いた時には、スバルは既に、彼らの頭上高くに居る。


 突然の頭上からの襲来に、少女の周りを固めていた数人が、為す術もなく地に伏せた。それにより、少女を束縛する手は払うことがきたものの、そこは敵のど真ん中である。


 普段のスバルであれば、難なく勝てる数だが、今の状態での勝率は、かなり低い。


 スバルが背後に少女を庇い、敵と対峙する。何か策があるわけではない。スバルが弱っているのは、暴漢達から見ても解る。


 ただ、勝つ事ではなく、負けない事だけを考えていた。


(この人……)


 庇われた少女は、無言でスバルの背中を見つめていた。この光景をどこかで見た事があるような、一種の既視感に似たようなものを感じたのだ。こんな状況に陥っているというのに、少女は落ち着いていた。


 暴漢達が一斉に攻撃を仕掛ける。その間を縫うように、スバルは確実に相手の急所のみを狙って闘った。喧嘩に慣れているからこそ、出来る所業だ。


 スバルには、自分の背後にいる少女の様子を見る事は出来ないが、少女の叫び声は、やはり聞こえてこない。


(よほど度胸が据わってるのか、それとも、声も出ないほど怯えてるのか)


 どちらにせよ、ぎゃあぎゃあと喚かれては、集中出来なくなる。スバルは、もみくちゃにされながらも、必死で少女を庇いながら応戦した。


 そんなスバルの姿を少女は無言で、ただ見つめ続けていた。


 集団の中、何かが鈍い光りを放った。その瞬間、スバルの顔色が変わる。既に痛みを感じなくなっていた筈の身体に、鋭い刺激が走ったのだ。何とか持ちこたえて、手当たり次第に攻撃を食らわせた。


 確実に仲間がやられていく中、決して倒れないスバルに暴漢達が次第に焦り始める。ここまで来ると、気力の差が物を言う。


 スバルは、それに勝った。


 とうとう諦めた暴漢達が退散して行く。その姿が見えなくなったところで、息を荒くしたスバルが少女を振り返った。


「おい、大丈夫か」


 背丈は、スバルの肩よりも低い。見下ろす形で少女を見ると、少女もスバルを見上げ返した。


 漆黒の瞳が、そこにはあった。見たところ地球人のようだ。間近で見ると、ドキッとするほどに整った可愛い顔をしている。


 だが、少女の表情には感情と名のつく色が一切ない。怖い思いをした筈に違いないのに、怯えた様子すらない。まるで人形のようだと、スバルは思った。


「どうして、…………なの?」


 少女の小さな唇が微かに動く。聞き取れず、もう一度聞き返そうと、顔を近づけたスバルの視界が霞んだ。頭がぐらつき、踏ん張ろうとしたが、足に力が入らない。


 そのままスバルは、倒れた。


 半ば少女に寄りかかるようにして倒れ、そんなスバルを受け止めきれず、少女もろとも地に倒れ込む。


 少女は、自分に倒れ掛かってきた青年の身体がひんやりと冷たいことに気付いた。なんとか彼の身体を仰向けに転がし、その腹部に広がった赤い染みを見つけた。


(なんだか、やけに……寒い、な……)


 白濁とした意識の中で、スバルは、遠くで誰かが自分を呼ぶ声を聞いた。


 しかし、はっきりとは聞き取れない。身体から力が失われていくのが解る。もう何もかもが、どうでも良かった。


 そして、スバルは、静かに意識を手放した。


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