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NOVA☆EARTH~★宇宙大開拓時代★を駆け抜ける青少年たちの青春と冒険譚~  作者: 風雅ありす
第一章 逃走者

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2. 氷結の御令嬢

 同じく宇宙学園の図書室で、一人の少女が奥まった場所にある本棚の前に立っていた。そこは、電子化から逃れた古い書物が日の目をみることなく眠っている。


 少女は、それらの中から目当てのものを探すように、一冊ずつ引き抜いては、中身を確かめていった。彼女が動く度、艶やかな黒髪が肩の辺りでサラサラと揺れる。


 制服から覗く雪のように白い肌と、黒い髪がひどく対照的だ。


 大人びた表情をしてはいるが、その容貌は、まだ幼い。十二、十三といったところだろう。


 少女の居る場所から少し離れた席に、三人の女子生徒らが座っていた。


 その内の一人が黒髪の少女を目で捉え、他の二人にひそひそ声で話し掛ける。


「……ほら、見て。ニノミヤさんよ」


「あぁ、地球人の……ニノミヤ家の御令嬢ね。可愛い子じゃない。いかにもお嬢様って感じ」


 二ノ宮家は、地球人の中でも古き華族の血筋を継ぐ家系である。


 政財界から宇宙工学や医療界など、実に様々な領域で数多くの有能な人材を輩出しており、その名を聞くだけで頭の上がらない者も少なくない。


「……外見だけは、ね。中身は、ちっとも可愛くなんてないんだから」


「そう、そう! 外見にだまされちゃ駄目よ」


「そうなの? そう言えば、年下のくせに生意気だって噂を聞いた事があるわ。あなた達、彼女と知り合いなの?」


「まさか! 話した事もないわ。前に一度、話し掛けた事があったんだけど、彼女どうしたと思う? 無視したのよ、無視! ひどいと思わない?」


「彼女は、誰とだって口を聞かないのよ。御令嬢だからって、私達〝平民〟のことを見下してるんでしょ」


「マジ? そんな事するような子には見えないけどねぇ。一体、何て話し掛けたの?」


「別に、他愛も無い世間話よ。……もう忘れちゃったわ。人は外見で判断するな、ってことね。それによく見ると、彼女って冷たい顔してると思わない?」


「言われてみれば……無表情だからじゃない?」


「私、彼女と同じ講義を取ってるから、よく顔を合わすんだけど……一度だって、彼女が笑ったところなんて、見たことないわよ」


「要するに、感情がないのよ! みんな噂してるんだから。〝氷結の御令嬢〟ってね。一度で良いから、彼女の驚いた顔を見てみたいわ!」


 その時、話題にのぼっていた御令嬢本人が、三人の女子生徒らの方へと歩いてくる。


 慌てた女生徒達は口を閉じ、自分たちの会話が聞こえたのかとびくびくしながら顔を伏せた。


 しかし、御令嬢は、女生徒らのすぐ脇を通り過ぎて行き、手に抱えていた五、六冊の本を持ったままカウンターへと向かう。どうやら目当ての本を見つけたようだ。


 三人の女生徒達は、自分たちの話が聞こえていなかったことにほっとし、顔を見合わせた。


 どすん、と大きな音を立てて、御令嬢がカウンターに持っていた本を置いた。


 思わず、そちらに目をやった三人の女生徒たちは、その本を見て、目を丸くする。


「……ちょっと、見た? あのぶ厚さ」


「う、うん……私、題名も読めなかったよ」


「むちゃくちゃ頭が良いのよ、嫌味も言えないくらいにね」


 先程まで明日の試験勉強をしていた三人は、何となく意欲を削がれてしまい、もう帰ろうか、という空気になった。


 その時、図書室の静寂を破って、一人の青年が走り込んで来た。


 恒星のような髪をもつその青年――スバルは、ひらりと身を交わし、カウンターの内側へと身を隠す。


 突然の出来事に、カウンター内で仕事をしていた司書の女性が軽い悲鳴を上げた。


 その声を聞きつけ、一人の男性教官が図書室に飛び込んで来る。


「はっはっはー! そこに居たか。隠れても無駄だ!」


 そう言って教官は、カウンターの中を覗き込んだが、そこにスバルの姿はない。


 教官が顔を上げて周囲を見回すと、規律正しく並べられた机の合間から、派手な橙色の頭が見え隠れしていた。


 四つん這いになって床を移動していたスバルの視界に、見覚えのある靴が映る。


 恐る恐る顔を上げた先に、自分スバルを追い掛けて来ていた教官の勝ち誇った顔があった。


「さあ、観念しろ。年貢の納め時だ」


 だが、スバルの表情は、まだ諦めていない。


「さぁ、どうかな?」


 そう言って不敵な笑みを浮かべ、片足で地面を蹴って飛び上がった。


 教官があわてて両手を伸ばすが、間に合わない。


 スバルは、宙に浮いていた。


 この宇宙ステーション《アマテラス》では、遠心力を使った重力環境が整備されている。誰もが平等に受けている重力の支配から、まるでスバルだけが解放されているかのようだった。彼のずば抜けた跳躍力が、それを可能にしているのだ。


 その時、図書室に居た全員の視線が、スバルへと向けられていた。


 スバルは、五、六列ほど並んでいる机の上空を飛び越えて、見事、図書室の入り口前へと着地した。


 あ然とした表情で固まっている教官を振り返り、にかっと笑顔を見せた。そのまま颯爽と図書室を後にする。


 茫然としていた教官も、はっと我に返り、再びスバルを追って図書室を飛び出して行く。


 二人が出て行った後、図書室に再び静寂が戻ってきた。まるで嵐が去った後のようだ。


「……見た?」


「う、うん。すごい跳躍力だったね」


「それもあるけど……そっちじゃなくて」


「……令嬢。私、彼女の驚いた顔なんて初めて見た……」


 誰もが見逃したであろう、二ノ宮家御令嬢の表情の変化を、その女生徒だけは、しかとその目に焼き付けていた。


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