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NOVA☆EARTH~★宇宙大開拓時代★を駆け抜ける青少年たちの青春と冒険譚~  作者: 風雅ありす
第三章 悲しみの波紋

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2. スバルの悔恨

 クリーム色に輝く髪が、風に吹かれて揺れている。華奢な肩は、触れば壊れてしまいそうなのに、真っ直ぐと伸ばされた背筋が決して揺るがない事をスバルは知っていた。


「お母さん」


 呼べば、必ず振り向いてくれる。そして、こう言うのだ。


「どうしたの、スバル」


 いつもと変わらぬ笑顔がそこにはあった。手を伸ばせば届くところに母がいる。


「お母さんっ!」


 スバルは、嬉しくなって、母に抱きついた。


「あらあら、甘えん坊さんね」


 そう言って笑いながら、優しく抱きしめてくれる。懐かしい母の香り。


 スバルは、この香りが大好きだった。


 お母さん、お母さん、と何度も繰り返して呼んだ。確かにある、母の温もり。この広い宇宙中を探しても、こんなに安心出来る場所は、他にないだろう。


(あたたかい……)


 全てがいつもと同じなのに、何故だろうか、何年も離れていたような気がする。


「お母さん、もう行かなくちゃ」


 突然、母から告げられた、別れの言葉。その意味も解らないまま、スバルの身体は、冷たい風の中に放り出されていた。つい先程までは穏やかだった風が、いつの間にか強くなっている。


「どこに行くの?」


 胸の奥がざわざわとする。スバルは、前にもこんな気持ちになった事があるような気がした。


希望の星(ノヴァ・アース)を探しに」


 それは、何度も耳にした名前。母がよく聞かせてくれた〝お話〟だ。


「〝りそうきょう〟のこと? そこへ行けば、みんなが幸せになれるんだよね」


 母が頷く。


「ボクも行く。ボクも連れて行ってよ」


 そう言って、母の服の裾を掴む。そうでもしないと、すぐにでも母が消えてしまいそうな気がしたからだ。


「それはダメよ。今回の旅は、いつもとは違うの。スバルを連れては行けないわ」


「どうして? どうして違うの?」


 母は時々、仕事で宇宙船に乗る事がある。その間スバルを一人にしないよう、一緒に宇宙船に乗せてくれる事が度々あった。


「遠い、遠い所へ行くからよ。その分、危険もたくさんあるの」


「〝きけん〟って、〝危ない〟ってことでしょ? なら、ボクがお母さんを守ってあげる!」


「ふふ、心強いわね。でも、スバルは、まだ小さいから」


「小さくなんてないよ! もう六歳になったんだ! 〝うちゅうせん〟だって運転できるよ!」


 そう胸を張ってみせるスバルの頭に、母の白い手が触れる。その位置は、母の腰にさえも届かない。自分が子供扱いされた事に気付き、スバルは、母の手を払いのけた。


「ノヴァ・アースなんて、ただの〝お話〟じゃないか! 嘘なんだって、本当じゃないんだって、みんな言ってたもん!」


 そう言って見上げた母の顔は、困ったように笑っていた。それを見て、スバルは自分の言動をひどく後悔した。いつだって自分は、こうして駄々をこねては、母を困らせるのだ。


「……は、絶対に……信じて。……たちの……を……るから」


 母が口を開いて、何かを言う。しかし、風の音が強くて、よく聞き取れない。


「なに? 今、なんて言ったの?」


 しかし、母はそれには答えずに、別の言葉を口にした。


「お父さんを守ってあげて」


 この言葉は、スバルの怒りを再熱させた。


「あんなヤツ、守る価値なんかない! 俺が守ってやらなくても、一人でも、平気なんだ!」


 スバルの口から出てきた声は、もう子供の時のモノではなかった。目線も、母と同じ位の所にある。


 風が更に強さを増した。クリーム色の髪が宙で舞っている。綺麗だと思ってたモノに、初めて恐怖を感じた。


 スバルは、急に不安になり、母の顔をよく見ようと目を凝らした。


 しかし、踊り狂うクリーム色の髪が邪魔をして、よく見えない。


 母は、スバルに背を向けて歩き出した。


「待って、母さん! 行かないで!」


 走って追いかけようとするが、何故か足がもつれて前に進めない。まるで、泥水の中に足を突っ込んでいるようだ。


 その間にも、母の後姿は、どんどんスバルから遠ざかって行く――――。


「母さん!!」


 名前を呼んでいるのに、振り返ってくれない。その後姿を見て、どこか見た事のある光景だと、スバルは思った。


「スバル。お母さんを信じて。きっと希望の星(ノヴァ・アース)を見付けてくるわ」


 その言葉がスバルの記憶を呼び覚ます。


(……ああ、そうだ。これは、母さんと最後に交わした言葉。母さんの、最後の笑顔……)


 そして、きっと戻ってくると約束をして、母は、スバルの視界から消えた。何故なら、旅立ちの日、ふてくされた自分は、母の見送りにさえも行かなかったからだ。


 一人取り残された、幼い息子は、その日から、母の名前を口にする事をやめた。名前を呼んでも、振り返ってくれる笑顔はない。優しく抱きしめてくれる白い腕もないのだ。


(また、諦めるのかよ……また、俺は逃げるのか?)


 あの後姿を追いかけて、もう一度、母の笑顔に会いたかった。母の香りと、母の温もりを感じたかった。


 あれから何度、後悔した事だろう。母の見送りに行って、一言、気をつけて、と言えば良かった。もう一度、母の笑顔を目に焼き付けておけば良かった。


 自分は、いつもそうなのだ。何かをやらかして、後になって後悔する。


(もう、あんな思いをするのは嫌だ!)


 母の白い手をもう一度掴もうと、それを追い掛けた。不思議な事に、今度は足が動く。


 そして、母の消えて行った方へ向かって走っていくと、視界に一筋の光が差し込んできた。その光は、あっと言う間に辺りを包み込み、スバルは眩しさに目を細める。


 すると、声が聞こえてきた。


「気が付いた?」


 自分を覗き込む誰かの顔。そして、額に伸ばされた白い手。


「母、さん……?」


 呻くように呟き、反射的にその白い手を掴んだ。


(……違う、これは母さんの手じゃない)


 ひんやりと冷たい手の感触がスバルを現実へと引き戻す。怯える手の主に気付く事もなく、スバルは、その手を無造作に離した。


 次第に霞んで見えていた世界が色を成していく。目の前に見えるのは、白い壁。それが天井で、自分が横に寝かされている事に気付いたのは、傍らに座っている人物に気付いてからの事だった。


「お前……誰だ?」


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