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♯192

スライダーのゴムボートから下りる時に、ちょっとしたハプニングがあった未乃梨。

プールのカフェでも、未乃梨の周りにはまだひと波乱ありそうで……。

 スライダーのゴムボートから下りて、ボートが着水した浅いプールに倒れ込みそうになった千鶴(ちづる)と、真っ赤な顔で先に浅いプールから上がってきた未乃梨(みのり)を先に下に着いていた高森(たかもり)たちが出迎えた。

 織田(おりた)が、足元がまだおぼつかない未乃梨の手を取ってプールから上がらせる。

「未乃梨ちゃん、スライダー楽しめた?」

「ちょっと怖かったです! あんなに横に揺れて動くなんて思わなくて!」

 安心したのか、未乃梨の声は弾かれたように大きくなっていた。

「でも、千鶴ちゃんも一緒だったし、大丈夫だったでしょ?」

「それは……その……」

 未乃梨の声が急に尻すぼみになって、その顔が再び赤く染まる。その視線は、すぐ近くで高森や植村(うえむら)と話す千鶴に向けられていた。

「千鶴ちゃんのこと、気になる?」

「……いえ、その、何でもないですから」

 未乃梨は、反射的に口元に手をやって、千鶴から顔を背ける。その千鶴も、何故か右頬に手を軽く当てていた。


 植村が「ちょっち冷たいもの飲みに行かない?」と他の面々に呼びかけた。

 スライダーのボートが着水したプールからすぐ近くのカフェには、屋根の下でゆっくり休めそうなテーブルや椅子のある広いスペースがあり、真昼に向けて強さを増す陽射しを避けるにはちょうど良さそうだ。

 高森と植村が他の三人に席を取らせて、ドリンクやスイーツを買いにカウンターに回る。

江崎(えざき)さんがメロンソーダで小阪(こさか)さんがイチゴのアイスクレープで瑠衣(るい)がジンジャーエールで……有希(ゆき)、決まった?」

「そーだね、あたしは――」

「ねえねえキミたち、二人で来たの?」

 メニューを見ていた植村が高森にオーダーを答えようとして、後ろからの声に遮られた。

「良かったら、俺らと回ってかない?」

「……は?」

 植村が眉をひそめて振り向くと、短い金髪にそれなりに鍛えているらしい身体の日焼けした男性客の二人組が下心丸出しの笑顔を向けてきていた。片方が着けている幅の広い金色のネックレスや、もう片方が髪に乗せているフレームが細いサングラスからして、その二人組はどうも植村や高森と相当歳が離れているようだ。

 高森がその男二人に向けて軽く鼻を鳴らす。

「あ、今日はうちの親父とか兄貴と来てるんで、間に合ってます」

「ごめんねおにーさん達、今日は町内の近所同士で来てるから」

 続いて出まかせを言う植村に、意外にも男二人のネックレスをした方はあっさりと引き下がった。

「そうなんだ。じゃ、ご家族で楽しんで」

「親がいるんじゃあしょうがねえな」

 サングラスを頭に乗せた方も続いて踵を返す。男二人が立ち去るのを見届けると、高森はため息をついた。

「全く、いい大人が高校生をナンパすんなよ」

「ほんっと気分悪いよね。あ、(れい)、あたしはアイスワッフルのチョコで。……小阪さんに席取りしてもらって正解だね」

 植村も頷きながら、千鶴や織田とテーブルを囲んで談笑しながら待っている未乃梨に目をやった。

 可愛らしい水着の割に並の男性と比べても座高のある千鶴や、一見普通に談笑しながらきっちり周りに目を配っている織田のお陰か、未乃梨に近付こうとするプールの男性客はいないようだった。

 高森と植村は、それぞれにほっと安堵して息をついた。


 席取りをしている千鶴と未乃梨は、織田の話す桃花(とうか)高校の吹奏楽部の話で持ち切りだった。

 織田は、意外な話を二人に持ちかけた。

「二学期にうちの高校の学園祭でさ、吹部でジャズ喫茶やるんだよね。私もそこでギター弾いてるから良かったら遊びに来てよ」

「生演奏ですか? 凄いことやるんですね」

 千鶴は目を丸くした。

「そういえば、桃花の吹部って半分軽音部みたいな感じでしたっけ」

 顎を組んだ細い手に預ける未乃梨に、織田が「ふふん」と笑う。

「そうだよん。何なら未乃梨ちゃん、フルートで飛び入りとかやっちゃう?」

「え……そんなの、ありなんですか?」

「うん。去年は軽音部のバンドの子が一曲歌っていったりしてるしね」

 表情に躊躇が見える未乃梨と、興味深そうに話を聞いている千鶴の向こうに、織田は目をやった。

(さっきカウンターで玲と有希をナンパしようとしたのとは別の未乃梨ちゃんを狙ってるっぽい男連中が向こうに二人……面倒くさいなあ)

 カフェの屋根の外から遠巻きに未乃梨や千鶴の様子を伺っている、どこかの高校生らしき二人組が織田には先ほどから気にかかっていた。

 その二人は髪の色こそ黒いものの、派手なショートパンツの水着やいかにも最近買った風な安っぽく光る手首のバングルが織田には視界に入れるのすらわずらわしい。

(歳は私たちと同じぐらいで高校デビューしたてで女の子と遊んだこともなさそうなタイプ、か。さて)

 ほどなくして高森と植村がカウンターで買ってきた飲み物やスイーツの乗ったトレーを運んできた。織田はジンジャーエールを受け取りながら、高森にそれとなく耳打ちする。

「……さっきから未乃梨ちゃんをじろじろ見てるのがいるけど、どうする?」

「……ああいう遊び慣れてなさそうなのが厄介だよね」

 高森は自分の頼んだフラッペを植村にスプーンでひと口差し出しつつ、植村の手にしているワッフルをひと口かじりながら未乃梨や千鶴を遠巻きに見ている二人組を横目で見た。


(続く)



 



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