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♯190

フェミニンな水着を植村や千鶴に見せる未乃梨。早速流水プールに入って夏を満喫する千鶴たち五人は……?

 更衣室から出てきた水着姿の千鶴(ちづる)未乃梨(みのり)に、高森(たかもり)たち三人の上級生はそれぞれに驚いた。

 同年代の並の男子より背が高い千鶴の、フリルやチュールをふんだんにあしらった水色のセパレートの水着姿を、植村(うえむら)はしげしげと見つめる。

江崎(えざき)さん、可愛いの選んだね? しかもめちゃくちゃ似合ってるし」

「こういう可愛いのを身長高い子が着ると、こんなふうにキマるんだね。こいつは真似出来ないや」

 高森が自分より遥かに背の高い千鶴を見上げながら嘆息する一方で、織田(おりた)は未乃梨の水着に目を輝かせていた。

「未乃梨ちゃん、いいねそれ! 大人っぽいのに挑戦するなんてやるじゃん!」

「ちょっと冒険してみたくて。……千鶴にも、凄く似合うって言ってもらえました」

 未乃梨は、はにかんだ笑顔で少し離れた千鶴に目をやった。

 その未乃梨が身に着けているのは、ストラップが細めのトップスと両サイドに大き目の蝶結びのリボンが付いたショーツの、濃いめのピンクのやや大胆なビキニで、同じ色の短いパレオを巻いていなければ肌の露出は五人の中では最も多いだろう。

「いいんじゃない? 私が千鶴ちゃんだったら、未乃梨ちゃんそんなセクシーなの着てくれたら、大喜びしちゃうな」

「セクシーって、……そんな」

 未乃梨は、もう一度はにかむように笑った。


「よーし、早速泳ぎますか!」と先陣を切った高森に引っ張られるように、千鶴たちは流水プールに入っていった。

 泳がなくても歩くような速さで流れていくループした水路のようなプールで、高森と植村は一足先に慣れた様子で水に身体を任せている。

 千鶴も、未乃梨の手を取って水の中へと誘った。

「未乃梨、私たちも行こっか」

「う、うん」

 躊躇しかける未乃梨に、織田がビーチボールを細長くしたようなものを渡す。

「未乃梨ちゃん、これ貸し出しのフロート。よかったら使って」

「あ、はい。ありがとうございます」

 織田からスティックタイプのフロートを受け取ると、未乃梨はプールの流れに身体を沈めていった。

 流水プールの流れは未乃梨が思っていたより速かった。織田から受け取ったフロートに掴まって流れに乗るうちに、他のプールの利用客の間をすり抜けるように一足先に入っていた高森に追いついてしまう。

 高森が、濡れたメッシュ入りのボブの髪を払いながら未乃梨の側に立ち泳ぎで寄ってきた。

小阪(こさか)さん、フロート借りたんだ?」

「私、流れるプールって初めてなので。 ……ん?」

 不意に、未乃梨の足の裏に、指でつつかれるような感触があった。

「な、何?」

 戸惑う未乃梨の側の水面に、緑色のタンキニを着けた誰かがざばりと浮き上がってくる。

「え? きゃああっ!?」

「あたしだよ。びっくりした?」

 水面に現れたのは、流れるプールの中を潜って泳いでいたらしい植村だった。

「もう、植村先輩……きゃっ?」

 未乃梨はフロートを手放しそうになって、背中からプールに沈みかけた。その未乃梨を、後ろから受け止める者があった。

「未乃梨、大丈夫?」

「あ、うん……ありがと」

 千鶴がフロートから手を放しそうになった未乃梨を、後ろからそっと受け止めていた。千鶴の身長なら流水プールの水深は簡単に足が底につくらしく、千鶴は水の中を歩くかスキップでもするように流れに乗っている。

 フロートに掴まる未乃梨を流れの中でゆっくり誘導する千鶴を他のプールの客に紛れて覗き見しながら、植村は高森の耳元に口を近付けた。

「……(れい)、あの二人、何だかんだで良い雰囲気じゃない?」

「……有希(ゆき)、あんた江崎さんが仙道(せんどう)さんとくっつく方に賭けてなかった?」

 高森に突っ込まれて、植村はプールの流れに身を任せながら「ふふん」と笑う。

「ま、今は小阪さんがリード、って感じだけどね。遠目に見る分にはあの二人ってなかなか可愛いカップルじゃない?」

「全く。有希ったら、彼氏が来れないからって自分と関係ないとこではしゃいじゃって」

「代わりに水着は見てもらったけどね。超喜んでたけど」

「でもカナヅチだからってプールは断られたんでしょ?」

「ふふん。二人っきりで水着見せたら、後は決まってるじゃん?」

「……全く」

 何故か妙に得意気な植村に、高森は呆れ顔をする以外の選択肢が思いつかなかった。


 流れるプールを二周ほどしてから、千鶴たちはプールサイドに上がった。そこで織田が「こっちこっち」と千鶴と未乃梨をプールサイドに植えられているカナリーヤシの根元呼んだ。

「はーい二人とも。せっかくだし、撮らない?」

 首から提げている防水ケースからスマホを取り出す織田に、未乃梨は「お願いします!」と元気に答えた。

 烈しい陽射しは、未乃梨の水着姿の身体が千鶴に間近で見られるためらいをあっさりと取り払っている。

 未乃梨は、千鶴のセパレートの水着で素肌を晒している腰回りに両腕を回す。水着姿同士で身体を密着させる形になって、千鶴は「あの……未乃梨? そんなにくっつくのは、ね?」とひたすら戸惑うのだった。


 そんな千鶴や未乃梨と、二人を撮る織田を遠巻きに見ながら、植村は高森にのんびりと相談を持ちかけた。

「玲、次どこ行く?」

「スライダー行きたいんだけど、どう?」

「奇遇だね。あたしもスライダーで考えてた」

 植村はそこまで言うと、高森の耳元にそっと話しかける。

「……駅で小阪さんをガン見してた大学生っぽいの、近くにいるよ。画像撮り終わったら、そろそろ移動しようか」

「……おっけー」

 高森は、黒髪に日焼けした肌の大学生らしい男の三人組を、横目で見た。 


(続く)

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