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♯189

隣の市にあるレジャープールにやってきた千鶴と未乃梨、そして高森と植村と織田。

その日のプールでは、ちょっとした波乱がありそうで……。

 プールの最寄りに当たる隣の市に入ってすぐの海沿いの駅は、夏休みに入ったばかりの学生や家族連れで賑わっていた。

 その多くはプールバッグやビーチバッグを持っていて、駅からも近いレジャープールに向かうのが見て取れた。千鶴(ちづる)未乃梨(みのり)たちのような高校生も少なくないようで、駅の賑わいは朝方にしては若いざわめきがそこかしこに漂っている。

 通勤ラッシュより少し遅い時間のせいか、大学生らしい若い男性のグループもかなりいて、その近くは千鶴たちのような少女には近付くのがはばかられるような崩れた言葉遣いも飛び交っていた。

 駅の改札を出ると、織田(おりた)は「あー、夏休みって感じだわ」と周りを見回してから、千鶴と未乃梨の肩を後ろからつついた。

「はい、お二人さん。プールまで行く送迎バス、もうすぐだし急いで乗っちゃおうね」

「え? 瑠衣さん?」

 戸惑う千鶴の右腕を、織田は未乃梨に掴まらせてから送迎バスの乗り場に向けてそっと連れていく。高森(たかもり)植村(うえむら)も、何かを察したように未乃梨の前後を挟むように歩いた。

 未乃梨は不思議そうに小首を傾げて織田を見た。

瑠衣(るい)さん、どうしたんですか?」

「うーん、思い過ごしだといいんだけど。……後ろにいる男の大学生っぽいグループ、未乃梨ちゃんの方ばっかり見てた」

「……え。本当ですか?」

 千鶴は、未乃梨に腕を組ませたままそっと後ろを見た。日焼けした髪の黒い大学生らしい三人ぐらいのグループが、遠巻きに未乃梨を見ているような気がする。三人は千鶴の視線に気付いても、気にせず遠巻きに談笑をしながら、飲み物のペットボトルやアルミ缶を手に人混みに紛れてかなり離れた後ろを歩いている。

「……こっちばっかり見てるって感じでもなさそうですけど」

「だと、いいけどね。未乃梨ちゃん、今日は千鶴ちゃんから離れないようにね」

「はーい。……言われなくても!」

 未乃梨は千鶴の右腕に身を寄せながら、織田に向かって片目をつむってみせた。

「……もう、未乃梨ったら」

 少し困惑しながら、千鶴は未乃梨に腕に取り付かれたまま、周りを見回す上級生たちと送迎バスに乗り込んだ。


 入場ゲートを通ってから、更衣室に入ると高森と植村はさっさと服を脱ぎはじめた。織田に至っては服の下に水着を着てきたらしく、サブリナパンツの下は紺色のぴっちりしたボーイレングスのボトムスだった。

 未乃梨は、上級生たちに戸惑っていた。

「え……先輩たち、ラップタオルとかしないんですか?」

「だって、女子更衣室だし、見られて減るもんじゃないし、ねえ」

 見る間に植村は緑色のタンキニに、高森はショートパンツを重ねたシンプルなビキニに、織田は星の模様が入ったスポーティな紺色のセパレートに恥ずかしげもなく着替えて、更衣室を出ようとしていた。

「先輩たち、待って下さいー!」

「……もう。私がここで待っててあげるから、早く着替えよっか?」

 困ったように笑う千鶴を見て、未乃梨はラップタオルの下のシャツワンピを脱ぐ手を止めて目を丸くした。

「……千鶴、今日の水着、それなの?」

「うん。……変、かな」

 言葉とは裏腹に、千鶴はさして恥ずかしそうでもなかった。千鶴が着けている水着は、白地に水色の細いチェックの布地がベースの、ビキニと呼ぶには布地がやや広めのセパレートの水着だった。

 千鶴のモデルのように高い身長の割に控えめな胸元を覆うカップやアンダーバストやストラップには水色の細かめのフリルがあしらわれて、締まって上向いたヒップを覆う広めのボトムスも、腰回りをミニスカートのような膨らんだチュールの生地が二段にカバーしている。

 未乃梨は、ラップタオルの下のシャツワンピを脱いでから声を少し上げた。

「千鶴、思い切ったの買ったね? 自分で選んだの·?」

「その、……お店の人に勧められて、せっかくだし試着だけでもって思って着てみたら、意外と気に入っちゃって」

 リボンからゴムに結び変えたショートテイルの髪の根元を、申し訳無さそうな顔をしたまま掻く千鶴のフリルやチュールで飾られたガーリーな水着を着た姿は、男子ですら軽く追い越す身長にもかかわらず信じがたいほど似合っている。

「……私だって、負けてないんだからね?」

 少しむくれたような顔を見せつつ、未乃梨はラップタオルを解いた。


 更衣室の出入り口近くでは、高森と植村と織田がそれぞれ別の方を向いて辺りを見回していた。

 織田が腕組みをしながら、入場ゲートに近い方に視線をやった。

「……こっちは大丈夫そう。(れい)の方は?」

 高森は両腰に手を当てて監視員が立っている流水プールを見た。

「……茶髪のおっさんの集団がいるけど、むしろ安全かな」

 植村は「やれやれ」と肩をすくめた。意外に豊かな胸元が寄せられて、上向きに揺れる。

「あたし、彼氏引っ張ってくりゃよかったかな。小阪(こさか)さんを狙いそうなのがいるとは思わなかったわ」

有希(ゆき)、あんたの彼氏カナヅチでしょ? 来るわけないって」

 呆れる高森に、織田も頷く。

「未乃梨ちゃんも何だかんだで無防備だしね。……お、噂をすれば」

 更衣室の出入り口に、千鶴と未乃梨のはしゃいだような声が伝わってきた。


(続く)

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