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♯179

(あ、メッセージ。凛々子(りりこ)さんからだ)

 千鶴(ちづる)のスマホに届いたそのメッセージには、何かのファイルが一つ添えられている。


 ――コンクールのお手伝い、お疲れ様。発表会の合わせ練習の日程を送るから、目を通しておいてね。未乃梨(みのり)さんにも伝えてあるから、しっかり練習してらっしゃい

 ――わかりました。未乃梨とは学校とかでちょくちょく会うんで、一応その時にも話しときます

 ――あら、吹奏楽部って夏休み中も学校で練習があるの? 大変ね

 ――未乃梨とかはコンクールメンバーで、次の県大会に出るんでそっちの練習ですね。私は個人練習ですけど


 そこで少し間が空いてから、凛々子からの返信がきた。


 ――そうなのね。私の時間が空いてたら、個人練習、見てあげるわ。夏休みはどこか旅行に行ったりするの?

 ――来週、未乃梨とか部活の子たちとプールに行ってきます。ただ、水着が中学の時のしかないんで、母さんに新しく買ってこいって言われちゃって

 ――何なら、選んであげましょうか? いつ買いに行くの?


 予想だにしなかった凛々子からの返信に、千鶴は目を少し見開いた。

(選んであげましょうかって……凛々子さん、色々忙しそうなのに、いいのかな)

 ――いいんですか?

 ――ええ。私、夏に家族旅行で海に行くから、水着はもともと買いに行くつもりなの


 千鶴はスマホに入っているカレンダーを呼び出した。終業式の翌日はちょうど空いていて、その二日後が未乃梨たちとプールに行く予定の日だった。


 ――じゃ、終業式の翌日にお願いしてもいいですか?


 五分ほど経ってから、凛々子からの返事がきた。


 ――ええ。それじゃ、待ち合わせはその日のお昼十二時とかでどう? 場所は学校の最寄り駅で。

 ――分かりました。その時間に待ってます

 ――改札の中で待っててね。街中まで一緒に行きましょう。また連絡するわ。では、お休みなさい


 凛々子からのメッセージはそう締めくくられた。

「お休みなさい」と返事をしてから、千鶴はぼんやりとその日のことを考えた。

(凛々子さんと水着を買いに行くことになっちゃったなー……って、ええ?)

 ぼんやりとした考えは、急に解像度を増して千鶴に迫ってきた。

(私は、水着姿なんて誰に見られても気にならないけど……凛々子さんって、そういうの、平気なの!? いくら女の子同士だからって?)

 千鶴は、ほとんど制服姿ぐらいしか見たことのない凛々子を思い浮かべて、思わず顔を赤らめた。私服や演奏会の衣装も、腕を出すことはあっても、スカートの丈は制服より長いロングのものばかりで、脚をさらした凛々子の姿というのは想像がつかない。

(凛々子さんって長くて綺麗な黒髪だし、肌も私なんかより白いし、そもそもヴァイオリンとか習ってるような人だし……)

 そんな凛々子が、千鶴に水着を選ぶと言っているのが千鶴を戸惑わせている。

(凛々子さんが私に選ぶ水着……ちょっと待って、今度のプール、その水着を着て未乃梨に見せるの?)


 スマホに残った凛々子とのメッセージのやり取りに目を落として、千鶴はもう一度顔を赤らめた。そのやり取りの内容は、未乃梨には隠さなければいけないような気がして、千鶴は凛々子とのやり取りをスクリーンショットで残すと、メッセージのやり取りを削除した。



 入浴を済ませて髪を乾かしている未乃梨のスマホがメッセージの着信を告げた。

(あ、凛々子さんだ。何だろ)

 未乃梨はメッセージの文面と添付されているファイルを見て、スマホのカレンダーに書き込んだ予定と見比べる。凛々子からのメッセージにはこうあった。


 ――夜分に失礼します。コンクール、お疲れ様。発表会の合わせ練習の日程を送るから、目を通しておいて下さいね。部活の方の練習もお忙しいとは思うけれど、千鶴さんのピアノ伴奏、よろしくお願いします


 真面目で丁寧な文面に、未乃梨の凛々子に対する警戒のようなものが少し緩む。

(別に、千鶴が凛々子さんと私以上に仲良くなるわけないんだし、ただ、たまたま弦楽器同士だから凛々子さんが千鶴を教えに来てるだけで、二人でどこかに内緒で出かけたりするわけないし……それに)

 未乃梨はスマホのカレンダーに書き込んだ予定に改めて目を落とす。千鶴や部活の高森(たかもり)他とプールに行く予定が、未乃梨には待ち遠しく感じられている。

(……私の方が、千鶴と一緒にいるんだもん。凛々子さんはあくまで千鶴の楽器の先生で、遊びに出かける相手じゃないんだもん)

 何度も未乃梨は自分にそう言い聞かせる。カレンダーに書き込んだ、夏休みに入って三日後のプールに行く前日に水着を買いに行く予定も、未乃梨を少し勇気付けた。

(プールに行ったら、サプライズで水着を見せて千鶴にいっぱい可愛いって言ってもらうんだから。……そういうの、凛々子さんはしないと思うし)

 そんなことを思いながら、未乃梨は凛々子に返事を返す。


 ――発表会の練習予定、ありがとうございます。コンクールは県大会に進んでそっちの練習もありますけど、ピアノの練習時間は十分取れるので千鶴の伴奏は任せて下さい!

 ――頼もしいわ。それでは、伴奏合わせの日、よろしくお願いしますね


 凛々子から届いた返信はあくまで手短だった。簡潔で発表会に関すること以外には触れない凛々子からのメッセージに、未乃梨は何故か安堵していた。


(続く)

凛々子から千鶴と未乃梨に届いた発表会に関するメッセージ。

そのやり取りは、二人の夏休みを大きく動かしそうで……!?

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