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♯121

織田とメッセージをやり取りするうちに、あることを思いつく未乃梨。コンクールや夏休みを控えて、カレンダーには予定が増えていきそうで……。

 織田(おりた)とのメッセージやり取りをしながら、未乃梨(みのり)はとあることを思い付いた。


 ――瑠衣(るい)さん、一緒にコンサートを聴きに行くのって、デートになりますよね?

 ――いいんじゃないかな。何聴きに行くの?

 ――クラシックのオーケストラです。ちょっと、知ってる人が出るので

 ――お、吹奏楽部らしいね。勉強もできて一石二鳥かもね


 少し置いて、織田からメッセージが続いて届いた。


 ――コンサートの後は千鶴(ちづる)ちゃんとお茶とかご飯とか行くの?

 ――休日の午後だし、お茶するぐらいかも。コンクールの練習の合間だし

 ――期末テストとかもあるしなかなか遊びに行けないよねえ。あ、そうだ


 織田はまた何かを思い付いたらしい。メッセージがまた少し間を置いて、送られてきた。


 ――未乃梨ちゃんの学校の吹部って夏休みはヒマそう?

 ――地区大会が終わらないとわからないかも。何かあるんですか?

 ――実は、(れい)と一緒に夏休みにプール行こうかって話をしててさ。何なら未乃梨ちゃんと千鶴ちゃんも来る?


 夏休みのことを打診されて、未乃梨はスマホを取り落としそうになった。

(千鶴とプールかぁ……今度は水着を買いに行くの……!?)


 ――プールですか? 水着とか、どうしましょう

 ――ま、またその辺も考えよっか。どうせなら、千鶴ちゃんに可愛いとこ見せたいでしょ? とりあえずは今度のコンサート、楽しんでおいでよ

 ――ありがとうございます。それじゃ、おやすみなさい

 ――おやすみー


 未乃梨はスマホを枕元に置くと、ベッドに寝転んだ。

(プールのことはとにかく、まずは千鶴を誘わなきゃ、だし……)

 もう一度、未乃梨はメッセージアプリを立ち上げた。



 風呂から上がって夕飯を済ませてから、千鶴は「オンブラ・マイ・フ」や「調和の霊感」といった発表会で演奏する予定の曲をスマホから動画サイトにアクセスして探していた。その中で、海外のどこかの教会らしい場所で「調和の霊感」を演奏しているものを見つけて、千鶴はその演奏に引き込まれた。

 それは千鶴が練習しているテンポより遥かに速く、ある種の荒っぽさすら感じる演奏で、動画の演奏者たちが構えている楽器もどこか違和感がある。

(あれ? 弦楽器の合奏って、こんな風に騒がしく弾くもんなの?)

 それぞれの奏者が手にしている弓は、千鶴が学校で使っているコントラバスの弓や凛々子(りりこ)が学校やユースオーケストラで弾いているヴァイオリンの弓とは反り方が違う気がする。

 その一聴したところ奇妙で、不思議に気になる演奏をイヤホンで聴いている千鶴の耳に、メッセージの通知のアラームが入った。

(誰からだろう……ん?)

 動画サイトの再生を止めてメッセージアプリを開いた千鶴の目に、未乃梨からのメッセージが飛び込んできた。

(……まさか、今日帰る時に、校門まで凛々子さんと腕を組んでたの、見られてたかな……)

 内心冷や汗をかいた千鶴に送られてきたメッセージは、そのことには触れていなかった。


 ――千鶴、遅くにごめんね。今度の凛々子さんのオーケストラの演奏会だけど、一緒に行かない?

 ――いいよ。その日、土曜だけどコンクールメンバーは練習なかったっけ?

 ――その日は先生の都合でお休みだから、どうかな、って。詳しくは明日の朝に相談しない?

 ――おっけー。じゃ、明日は一緒に朝練に行かない?

 ――わかった。駅で待ち合わせね

 ――うん。じゃ、また明日ね。おやすみ

 ――ありがと。おやすみ


 千鶴はスマホを机の上におくと、小さくあくびを漏らした。動画サイトでいくつか「オンブラ・マイ・フ」や「調和の霊感」の演奏を聴いて回っているうちに、そろそろベッドに入る時間が近づいてる。

(もう寝なきゃ。……未乃梨との待ち合わせ、寝坊したくないし)

 千鶴は二度目の生あくびをしながら、歯を磨きに自室を出ていった。



 翌朝、千鶴はすっきりと目を覚まして、朝食と身支度を済ませると昨日よりやや早めに家を出た。

 約束の時間には、ちょうど駅に向かってくる未乃梨を見つけて、千鶴は手を振った。それを見つけた未乃梨が、千鶴のそばに駆け寄ってくる。

「千鶴、おはよう。……あれ? 今日もそのリボンなの? 昨日もその赤っぽいやつ着けてなかった?」

 自分の顔を見上げる未乃梨に問われて、千鶴は後ろ髪に手をやった。

「ああ、これね。ちょっと気に入ったのを見つけたから、似てるのを買って使い回してるんだ。赤系のってあんまり持ってなかったけど、どうかな?」

 千鶴の後ろ髪を結うリボンは、昨日のよりはやや幅の狭い、赤と赤紫の中間のような色々のリボンだった。大人っぽく見えなくもない深めの色が、最近伸びてきた千鶴の髪に揺れているのが、中学時代の短かった千鶴のボブを見慣れていた未乃梨には不思議に思えてしまう。一方で、そのリボンの色が凛々子のヴァイオリンケースのワインレッドと似ているのが未乃梨にはちょっぴり癪でもあった。

「……さ、行きましょ」

「ええ? あの、未乃梨?」

 未乃梨は千鶴の左腕に取り付くように自分の腕を絡ませた。

「いいじゃない。私と腕を組むの、嫌なの?」

「そうじゃない、けど……」

 たじろぐ千鶴に、未乃梨は満足そうに笑う。

「ほら、朝練の時間、無くなるわよ。今日は私が『オンブラ・マイ・フ』を見てあげる」

「未乃梨、コンクールの練習は?」

「それもやるから早起きしたの。ほら、行くわよ」

 やや強引な未乃梨に、千鶴は高校に入って何度目かの、今のところ二人の女の子だけに見せている困り笑いをした。


(続く)


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