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♯107

未乃梨のスマホに届いた、織田からのメッセージ。

違う学校の上級生とのやり取りに、夜は更けて。

 スマホに表示されたメッセージの送信元の織田(おりた)という名前に、未乃梨(みのり)は少し怪訝な顔をしかけて、すぐにその表情を引っ込めた。

瑠衣(るい)さん? 何で私の連絡先なんか……あっ)

 連合演奏会で、織田が未乃梨や千鶴(ちづる)高森(たかもり)と一緒に画像を撮って、それを送るのに未乃梨と千鶴からスマホのアドレスを尋ねてきたのを思い出した。賑やかで気さくな織田は千鶴や未乃梨とも初対面からすぐに打ち解けて、かなりの枚数の画像を撮って、後で送ってくれたのだった。


 ――未乃梨ちゃん今日は練習お疲れ様! また、カフェとか行こうね


 織田からのメッセージには、いつの間に撮ったのか、カフェで彼女が頼んだフラペチーノが写っている。その奥には高森のホットのチャイや未乃梨のアイスティーも写っていて、いかにも休日の午後にお茶を楽しんでいた雰囲気を綺麗に切り取っていた。


 ――瑠衣さんと今日会うなんてびっくりしました! また誘って下さい


(……ま、用事があるとしたら私じゃなくて高森先輩、だよね。私はジャズなんかやった事もないし)

 社交儀礼のような返事のメッセージを送ると、未乃梨は画像のフォルダを開いて連合演奏会の時に織田に撮って貰った画像を開いた。それを見直しながら、未乃梨はスマホの画面をスライドさせる指を止めた。

(あれ? 瑠衣さんの撮った千鶴、なんか可愛い?)

 画面の中で千鶴と身を寄せ合ってツーショットの自撮りをしている織田は、千鶴の目線だけを拾って、その顔はカメラに真正面から映らない、やや斜めの角度から捉えていた。

 結果、その画像は最近伸びてきてリボンで結うようになった千鶴の後ろの髪がしっかり写って、中学の頃に比べると女の子らしい印象を与える一枚になっている。

 他にも、織田の撮った画像は改めて見ると、未乃梨の興味を引くものがいくつかあった。

 織田が未乃梨の肩に手を回して撮った画像は、画面の隅に、日向の光らしい真っ白に飛んだ小さな場所があった。

 よく見ると、画像の中の織田は未乃梨を日陰に引き込んだ上で未乃梨の肩に手を回している。それでも、未乃梨の色素が薄い髪は日陰で撮った画像でもしっかりとその色調を主張していた。

(あれ? 私の髪色、茶色っぽい方だけどこんなに綺麗に画像に出るの?)

 別の画像では、屈み込み気味の織田の肩に高森が肘を預けるというやんちゃな構図だったが、その結果、やや下からあおるカメラが捉えた高森のアシンメトリーのボブからのぞく、耳に着けているピアスが見事に写っている。

 織田は、彼女なりに千鶴や未乃梨や高森のベストの見え方を自撮りで捉えていた。

 画像を見ているうちに、織田からの返事が未乃梨のスマホに届いた。


 ――もちろん! 私も明日はノーティラビッツと練習だし楽しんでくるよ。そういえば、コンクールの練習はどう?


 織田からのメッセージには、カフェで見せてもらったローカルアイドルのメンバーと一緒に写っている画像が一枚添付されていた。

 それはどこかの楽器店の前らしく、メンバーのあの眼鏡で短い髪のあのメンバーが長袖のTシャツの上からチェーンの細いネックレスを合わせたラフな格好で織田と写っていて、サイドポニーの少女に左腕に縋り付かれている。

(瑠衣さん、今日この二人と会ったんだ……私、千鶴とこんな風になれるのかな)

 未乃梨は、ゆっくりとベッドに寝転びながらメッセージに返事をした。


 ――コンクールの練習、頑張ってます! ドリー組曲っていうキレイな曲なんですよ

 ――それ、前に(れい)が吹いてたかも。そういえば、コンクールって、ベースの千鶴ちゃんは出るの?


 そのメッセージの文面を前にして、未乃梨は少し考え込んだ。

(もし千鶴が初心者じゃなかったら……)


 ――千鶴、初心者なんで今年はコンクールに出ないです。来年は一緒に出たいな、って思いますけど

 ――そうなんだ。来年の夏が楽しみだね

 ――本当は、もっと千鶴と一緒にいたいですけど


(……もう。私、何書いてるんだか)

 未乃梨は自分が書いた文面に呆れつつ、そのメッセージを消そうとした。画面から未送信のその文面が消えた、はずだった。

 ほんの十秒ほどして、織田から返信があった。


 ――もしかして、千鶴ちゃんって本当に未乃梨ちゃんの想い人だったの?


 未乃梨はベッドから半身を起こして、スマホの画面を見直した。消したと思ったメッセージは送信されていて、既読を示すアイコンが点いていた。


 ――あ、あの!


 未乃梨は慌ててメッセージの文面を打とうとして、メッセージの断片だけを送ってしまった。


 ――千鶴には、告白したけど、返事を待ってもらってるっていうか


 急いで追加で送ったメッセージに、またしばらくして返事があった。


 ――大丈夫。誰にも言わないから。何なら、相談に乗るよ。同じ学校の人だったら、話せないこともいっぱいあるだろうし


 その返事に、未乃梨は安堵すると、ゆっくりとベッドに倒れ込んだ。


(続く)

 

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