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♯104

凛々子に「演奏者として、一人の女の子として、あなたをどう思っているかはっきりさせておきたい」と告げられて、思い悩む千鶴。

その頃、未乃梨は以外な人物と再会して……。

 駅のホームに、千鶴(ちづる)凛々子(りりこ)が乗る予定だった一本あとの電車が入ってきて、ドアが開いた。

「千鶴さん、行きましょう」

 凛々子は、戸惑って言葉を失ったままの千鶴の手を引いて、電車に乗り込んだ。比較的空いていた車内で、凛々子が千鶴を自分の隣に座らせた辺りで、電車のドアが閉まった。



 まだ明るい時間に、土曜日の吹奏楽部の練習は終わった。

 未乃梨(みのり)はスマホのメッセージアプリを閉じると、少し溜め息をついた。

(千鶴、まだ見学から帰ってないかな)

 アプリの画面には、千鶴からの「じゃ、凛々子さんのオーケストラの見学に行ってくるから、そっちも練習頑張ってね」という朝に届いたメッセージが映し出されていた。「行ってらっしゃい。また、学校で」という未乃梨の返信に既読が付いてから、やり取りは途絶えたままだった。

 スマホをスカートのポケットに仕舞うと未乃梨は音楽室に譜面台を返しに向かった。途中で、サックスのケースを担いだ高森(たかもり)と顔を合わせた。

「あ、お疲れ様です、先輩」

小阪(こさか)さんも、お疲れ様。そういや、今日はコンクールメンバー以外、来てなかったっけね」

「はい。……千鶴も、凛々子さんと用事があるとかで」

「へえ。また、学校外で本番?」

「二学期に入ってから、凛々子さんの入ってるオーケストラの人たちと発表会に誘われてて、それの顔合わせがてらオーケストラの練習の見学だとかで」

「凄いねえ。何か、軽音部とかよその高校と一緒にライブやってる私みたいだね……おっと」

 不意に、高森のブラウスのポケットに入っているスマホが震えた。

「全く。そういや、あっちもコンクールは無関係だっけね」

「誰からですか?」

 小首を傾げた未乃梨に、高森はスマホの画面を見せた。


 ――おつかれー。今ヒマ? こっちは(れい)の学校の近くで買い物してたとこ


 高森のスマホには、メッセージと一緒に送信者の買い物らしい画像が表示されていた。そこには、正方形の封筒のような何かの入れ物を数枚、トランプのカードのように扇型に重ねて持った手が写っている。

瑠衣(るい)だよ。ほら、連合演奏会で会った、桃花(とうか)高校でギター弾いてる」

織田(おりた)先輩が? 画像のは何なんです?」

「ギターの弦だね。確かライブ控えてて本番前に替えたいとか言ってたかな」

 ワンレングスボブの髪にグレーのセーラージャケットの制服で、ステージの上でギターを弾いていた少女を、未乃梨はたちまち思い出した。

 高森は織田に何やら返事のメッセージを入れた。程なく、高森のスマホが再び震えた。


 ――こっちは学校の練習が終わったとこ。どうした?

 ――じゃ、ちょっちお茶してかん? 駅前のカフェで集合ね


 そのメッセージには、紫ヶ丘(ゆかりがおか)高校の最寄り駅周辺と思われる場所の画像が添付されている。織田が連合演奏会で見せた、感じのいい笑顔が思い出されて、未乃梨は顔を上げた。

「あの、高森先輩。私もご一緒していいですか?」

「オッケー。あいつ、喜ぶよ」

 高森はスマホに返信を打ち込んだ。



 駅に近いカフェの前で、織田は未乃梨と高森の顔を見ると「お疲れー。あ、未乃梨ちゃんおひさ」と元気に手を振ってきた。

 ギターケースを担いでデニムのジャケットに下はミニ丈のスカートを合わせて、足元はハイカットブーツに黒いオーバーニーのソックスを穿いているその姿は、いかにもライブハウスに出入りしていそうな雰囲気を漂わせていた。

「ギター持ってるってことは、そっちもバンド練習でもあったの?」

「それは明日。今日はちょい楽器屋巡りしてたの。未乃梨ちゃんも、練習お疲れ様」

 織田は二人を促すと、カフェの中へと入っていった。

 モカフラペチーノを織田が、ホットのチャイを高森が、アイスティーを未乃梨が受け取ると、三人はボックス席に座を占めた。

「今度のライブ、ちょっと面白くてさ。見てよコレ」

 織田はスマホの画面を見せた。そこには、色とりどりの衣装やウィッグを着けた少女たちのグループが写っている。

 高森は「ひゅう」と口笛を吹く真似をして、未乃梨は目を丸くした。

「なんか、コスプレみたいですね。しかもみんな可愛いし」

「この子ら、この辺でローカルでアイドル活動みたいな事やっててさ。生のバンド入れてライブやりたい、ってんで今度うちの部の面子と一緒にライブやるの」

「こういうのとつながりがあるってまた凄いね? どっから伝手があったんだよ」

 ひと口飲んだチャイのカップをソーサーに戻した高森に、織田はわざと嘆息した。

「それが聞いてよ。画像の一番左の背の高い眼鏡の子いるじゃん?」

 未乃梨と高森は織田のスマホをのぞき込んだ。その眼鏡の少女の、短めの髪にクールそうな表情が、フリルの多い衣装と何故か良くマッチしている。

「この子、うちの部のピアノと付き合っててさ。どうせ生のバンド入れるんなら知ってる顔がいいって押し切られちゃって。ファンにもデートしてるとこ見られてるし、もういいかって運営も納得しちゃってねえ」

「え? 女の子同士で!?」

 驚く未乃梨に、織田はスマホに入っている別の画像を見せた。

「そだよん。これ、当の二人からもらったやつ。これを公表したら逆にグループの人気が上がって客も増えたらしいし、分かんないもんだね」

 画像には、未乃梨が連合演奏会でピアノを弾いているのを見た、明るめの髪をサイドポニーに結った少女が、先程の眼鏡に短めの髪の少女とクレープを手にしている自撮りが写っていた。二人はグレーのセーラージャケットの制服を着ていて、学校帰りに撮ったものだとすぐに想像がつくものだった。

(私と千鶴も、こんな風になれるのかな。……でも……)

 未乃梨は、まだ保留されたままの千鶴からの返事のことを思い出して、手の中のアイスティーのグラスを見つめた。


(続く)

 

 


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