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バスク剣風譚~カレグリン戦記<仮>  作者: 水武九朗
雌伏の章~銀月暦1902年
7/20

ザドア王国領 ランドック城塞都市にて

 バスク達はムスペイム侯国との国境に近い、ランドック城塞都市へとたどり着いた。

 AGアネモイ・ギアを乗せて関係領間を直接関所を越える時に足止めを喰うのを避ける為に、一度隣領のフィザレス経由で来たので、サラサの町で話を聞いてからは結構時間が掛かっていた。そのためか、都市から醸し出される空気は、既に爆発寸前の火薬庫を予感させるものがあった。

 キャリアが城門の入り口に差し掛かると、さっそく門兵がお出迎えしてきた。


「ようこそランドックへ。この都市にAGそんなモノもってどのような目的で来られました?観光には見えませんが?」


 言葉とは裏腹に、門兵の態度からは平静を装った緊張が見えていた。キャリアの中身にも興味深々のようだ。

 戦争なんてものは、開戦するまでは国家機密だ。当然おおぴらに言える事じゃぁない。

 戦争の準備してますよね?雇ってくださ~い。なんていった日には、捕らえられて情報源を調べる、なんて事にもなりかねない。

 元々付き合いがある国ならお声掛かりがあるかもしれないが、こんなキャリア2台だけのフリーの傭兵はよほど名が売れていないと、平時なら小領主にも相手にはされない。今のような、戦争の予定でもない限りは。


「いやぁ~、ザドアの方から来たんですが、ムスペイム相手に一仕事終えた所でして。で、次の仕事を探して、ヴァツアへ向かう途中に寄ったんですよ。以前ザドアで寄った町の地元の料理が旨かったんで、なるべく飯時には町に寄って食べて行こうかと」


「ほぉ。お若いのにザドアでムスペイム相手に、ですか。それで、機体の方はご無事で?」


「えぇ。まぁ道中でメンテナンスできる程度で済む位でしたから。それで、早々に次の職場を見つけて稼がないと。整備要員バックヤードスタッフも抱えてますからね」


 ことさらに次の職を探してる事を含ませてみると、その効果があったのか、門兵がなにか通信をすると、今までの緊張感とは別の、取ってつけたような笑顔でこう言ってきた。


「そんな貴殿に良い話があるのだが、どうだろう?今のあなた方に、最適だと思うよ」


「へぇ?良い話か、そいつは嬉しいなぁ。わざわざヴァツアまで行く必要も無くなるかな?」


 金目当てのように笑う。なるべく下品な、嫌な笑い方で。

 相手の門兵も同じような顔で返してきた。


「詳しくはあちらで、上官がお茶でも飲みながらとおしゃってますので、いかがですか?」


「お茶菓子もでるかな?」


「お望みでしたら」


 これは仕掛けた針に掛かったか、獲物の大きさはどれくらいかな?


「よし、話を聞きにいこうか。ハボックも付いて来て、イネス姉は居残りで。残りは誘導に付いていけ」


「留守番かよ、つまらんな~」


「了解です若。ディーター、キャリアの誘導を頼む」


「それでは兵隊さん、キャリアの誘導頼みます」


「ハイ。それではあちらへどうぞ」


 俺とハボックがキャリアを降りて兵士が指さした建物の方に向かう。奥の一室に通されると、ふかふかなソファーに勧められて座る。しばらくすると、本当にお茶と焼き菓子が出てきた。

 ドアの前には歓待という名の見張りの兵士に向かって、見せつけるようにカップを持ち上げて飲む。

 ノックがあって人が入ってくる。


「お待たせしました、この都市駐留軍の副指令をしておりますハンセルです」


 襟章を見るとかなり階級が高いようだ。都市副司令というには、少し高すぎるようだが?


「この町にはお仕事を探されている途中と伺っておりますが」


「はい、私のような傭兵は、戦場でないと稼げないものですから。警備のお手伝いなんかの平時のお仕事は大手の傭兵団さんがほとんどもっていっているもので。あぁ、私が代表のバスクです。こっちはハボック」


「よろしく」


「こちらこそ。それで、バスク殿はヴァツアに向かわれていると伺いましたが、そちらでお仕事でも?」


「いえいえ、この前までオルガでやってましたけど、下火になったらうちらのような傭兵からお払い箱ですよ。それで他に近場で燃えている所があるから覗きに行こうか、って程度ですね。それで何とか仕事にありかないと。キャリア2台にAGアネモイ・ギア2機抱えてるんで稼がないといけませんから」


「ほぉ、それでは仕事を出すのが我が国になっても問題ない、と受け取ってよろしいですか?」


「えぇ、もちろんです。早く決まる方が我々も有難い」


 不意にここで、お互い同時にニヤリと笑う。


「では、ここからは仕事を受けて頂く事前提での話になります」

(食いついて来たな。)


「こちらとしても、そのつもりです」


「……わかりました。ではこれから仕事の話です」


 :

 :


 建物から出て、兵士が先導する中キャリアに向かって歩いていた。

(だいたいマダムの言う通りか。でもまぁ、あの紙は貰わなくて正解だったな)


「思ったより出しませんでしたな、若」


「そうだな、それなりに戦力は揃ってきてるんだろう。それで機体の傷が少なく済めばルクレが喜ぶ」


「……私が言う事ではありませんが、若もお嬢も娘に甘すぎませんかね」


「悪いか?」


 持ち帰りに包んでもらった焼き菓子の袋を持ち上げる。


「甘やかしすぎて無いか、心配になってます」


「母を失う子供は想像以上に苦しいもんだから。甘やかす位じゃないと心が折れちまう。それに俺の父様の事がなければノンナは……」


「それは違いますよ若。妻が死んだのにお館様は関係ありません。それに母を失ったのは若もお嬢も同じでしょう。それ以上は、若が背負われなくても良いんです」


「……そういう事にしておくよ」


 城壁内部で、少し開けた場所に複座式キャリアが6台程並んでいた(そのうち2台は俺達のだ)。単独の傭兵が使うキャリアは、複座式でも動けるAGアネモイ・ギアは1機のみで、もう一方には鹵獲や部品をばらした機体を乗せて居る事が多い。それが大手傭兵団になると、補給物資の運搬部隊が別に居るので複座式に2機のAGアネモイ・ギアを乗せている。

 今回どちらの国にも大きな傭兵団が動いている噂は道中聞かれなかったので、恐らくキャリアの台数=AGアネモイ・ギアの機数と見ておいた方がいいだろう。

 傭兵が6機で、正規の騎士がどれくらい出るか。10機程出せるなら戦力的にはまぁ十分って所か。あまり吹っ掛けられなかったのもしかたない。


「しかし、俺達の2機が増えたんでだいぶやる気になったんじゃないの?ここの司令官様は」


「そうですね。普通に考えたら脇腹を突かれるムスペイムにそれほどの備えは無いでしょうから」


「解らんよ?思ったよりオルガに対して攻めきれてない。全力を出してこれなのか、隠し玉を出してないだけなのか。それはそれで何が出てくるか楽しみじゃないか」


「……まぁ、若とお嬢なら大抵の事なら心配はしてませんがね」


「あぁ、それに戦場なら剣聖に出くわす事は無い」


 剣聖が国家間の戦争に直接関わる事を禁止する国際法がある。その剣聖に次ぐと言われているのが、帝国の3閃と呼ばれる3人の国家騎士だ。しかし、帝国本体がムスペイムに付いたとう話があれば、戦場には瞬く間に広がる。なにより、いち地方領地の内紛に本国が片方に味方するとなると「なら我が領へお見方を」と収集が付かない自体になりかねない。

 そして、3人とも帝都に張り付いていているという。

 良くも悪くも大手が動くと周りに触れまわる事で、相手側の傭兵は割に合わないと逃げ出す事になる。その代わり当然値は張るが。

 3閃の以外にも銘持ちと言われる優秀な騎士を各国が取り込んでおり、戦力拡大を狙っている。

 戦場で有名になった騎士には、傭兵であってもそういった各国からのリクルートが絶えないが、俺達はそれを嫌ってなるべく目立たないように、でも戦場で経験を詰む為に今も動いている。


「俺もイネス姉もまだ、剣聖には届いてない。今はまだ、な」


「そうですね。今はまだ、ね。でもそう遠くも無いと思いますよ?身内贔屓ですが」


「ち、身内贔屓かよ」


「えぇ、私は直接剣聖を見てないですから。もし見ていたたとしても、騎士じゃない私には理解できないと思います。現に今の若とお嬢はその域にいますから」


 昔、俺の父様は剣聖と決闘をした。

 そして、負けた。

 右腕と、右足を膝から切り落とされた。

 その時の決闘に立ち会ったのは3人。俺と、イネス姉と、イネス姉の母親のユフィ。

 その決闘のあと、母とユフィは家に帰ってくる事は無かった。

 俺は小さかったせいか、前後の記憶はあいまいだが、あの全身黒い鎧と、美しい剣の軌道は脳裏に焼き付いている。

 そして、利き腕を失った父様の姿も。

 物心ついてからイネス姉に当時の事を聞くと、ただ。

『母様達は私とバスクに、ただ強くなりなさい、って言ったんだよ。バスク、私と一緒に強くなろう。強くなって、どっちか剣聖になろう。まぁ私の方が強いから、先に剣聖になるのは私だけどもね』

 それ以外、いくら聞いてもイネス姉も剣聖との決闘の事は話してくれなかった。

 でも、剣聖の強さは俺の脳裏に焼き付いているし、イネス姉も見ているはずだ。

 仇を取ろう、なんて気はまだ起きない。

 大陸一と謳われる剣聖が親の仇なんて、言った所で仇討なんてかなわない。イネス姉は本気かもしれないが。

 今俺にとっては、今と少し先をみんなで生きる事で精一杯だ。

 でも騎士として強くなる事は、生き残る可能性が上がる。そして、父の悪名があるから、どこかに仕える訳にもいかないから、流れの傭兵として糧を得るしか、今の所はない状況だった。

 キャリアの窓からルクレが手を振っているのを、俺は手を振り返す。


「さ~て、ここからまたお仕事と行きますか」


読んで頂いてありがとうございました。

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