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バスク剣風譚~カレグリン戦記<仮>  作者: 水武九朗
雌伏の章~銀月暦1902年
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オルガ公国×ムスペイム侯国 バラン平原の戦い-戦後処理


 首を飛ばされたゲロル・ハザンから脱出した騎士ギグスは、オルガ公国軍兵士に囲まれていた。

 騎士で兵士達とは戦闘力が違うとはいえ、負傷した上で多数の武装した兵士に囲まれてはどうしようもない。

 腰の剣を地面に置いて、手を頭の後ろで組むと、囲んでいる兵士達も安堵の表情を浮かべた。これで、張り詰めた状況からの”事故”は防げそうだ。このまま捕まっても大人しくしておけば、人質交換でそう遠くないうちに故郷にも帰れるというものだ。

 戦場では敵同士だが、どちらも無駄な犠牲は望まない。特に、自分が犠牲になる事は望まない。

 しかし、多勢で負けておいてなんだが、自分ではこんなにあっさりと負けるとは思ってなかった。

 仮にも、先週まで主戦場の一端で戦線を支えていた中から、それなりの戦果をあげてきた自身と自負はあった。それがあっさりと一撃で負けたのは、新兵の時にですらなかった。

 以前、教導騎士との模擬戦で剣を持つ腕を叩き潰されて戦闘不能になっていた後輩騎士を目にした時は、”うわぁ、あいつには背中は任せたくないなぁ”、と思っていたが、その時の自分に今の姿を見せてやりたい。


「なぁ、あの騎士は何者だ?そっちに"銘持ち《ネームド》"がいるなんて情報は無かったが」

「さぁな。こっちが不利なのを見て大金吹っ掛けてきた傭兵だ。片割れはかなりイカレてるみたいだが、一介の兵士には、素性まで知らされてない。」


(そりゃそうか)


 銘持ち。実績を上げたり、高名な騎士を破った場合、その騎士には二つ名が与えられ"銘持ち《ネームド》"と呼ばれるようになる。

 二つ名を冠するような、実績を上げた騎士が味方に付いたなら士気高揚のために自軍に触れまわるのが通例だ。あと敵軍に知らせて戦闘自体を起こさないようにする手段にもなる。

 捕らえられた騎士ギグスのもとに、他のやられた2機の騎士達も運ばれてきた。

「隊長、ご無事でしたか」

 二人とも見た目に外傷はなさそうだが、立ち上がれないようで、担架にのって運ばれてきていた。


「聞きましたか隊長、相手はどうやら無銘らしいですよ。俺ら3機相手にした相手がですよ」


「あぁ、俺もそれを聞いた。これほどの腕を持ちながら傭兵で無銘とは……。これは今後名前が知れ渡る騎士の始まりに立ち会ったのかも知れんな」


「しかし、それでも俺らはしばらく囚われの身です。銘を上げるなら、早いとこ上げてもらって国元に『あの騎士が相手だったら仕方ない』ってあきらめてくれたら良いんですけどね」


「そうだな。そうなったら俺も、退役後の年金が減らされずに済むかもしれん」

 軽口を言いながらも、3人は険しい視線で自分達を倒した機体を見上げていた。


 □□□□


 バスク達のAGアネモイ・ギアが拠点に戻ってくると、複座式キャリアの後部が展開してAGアネモイ・ギア用のベッドが立ち上がる。機体がベッドにもたれ掛ると、ベッドと固定されてエア・シャワー《圧縮空気》で機体に着いたゴミが吹き飛ばされる。

 エア・シャワー《圧縮空気》が収まってから操縦席から降りると、作業つなぎを着たおじさんと少女がキャリアから降りて駆け寄ってくる。


「バスク兄ち~ゃん」


 ハボックとその娘のルクレ。俺の家が取り潰しになってからもついてきてくれたAGアネモイ・ギアの整備師だ。


「おぉ~、ルクレ。お兄ちゃん帰ってきたよ~」

「バスク兄ちゃんの、、、、、ばかーーーー」

「げほうぁっ」


 ボディにドロップキックを喰らって吹っ飛とんで倒れた所をさらに馬乗りにされて胸倉を掴まれる。


「またあの踏み込み使ったんでしょう!右足の膝から下の腱が伸びちゃってるじゃない。相手のガムスはきっちり分捕ってきたんでしょうねぇ?!!」


(コクコク)


 ボディへのタックルが効いて、一瞬声が出なくなった。


「じゃぁ若、回収に人やっときます」

(頼む、ハボック)


 とジェスチャーで答える。

 ハボックはさもいつもの光景とばかりに娘を止めることはなかった。


「で、剣も駄目にしたって?!毎回毎回こ壊してくるんだから」

「それでも、今日も勝って帰ってきたろう?ルクレ達が機体を見てくれてるお陰だよっと」


 馬乗りになってきたルクレの腰をもって持ち上げて自分の体を起こす。俺の膝に座らせて向かい合う形になる。


「む~、またそう言って誤魔化す」

「誤魔化してないよ~、本当に心の底から思ってるよ~」


 この小さな女の子には、俺達の誰もが逆らえない。

 複座式のもう一方に機体を寝かしたエイネスフィールが、こっそりと近付いてきていた。


「ル~ク~レ~ちゃーーん!!ぼんばっかり構ってずるいぞ~。あ~、ほっぺぷにぷに~」


 イネスは俺からルクレを奪うように抱き上げて頬擦りをする。


「お姉ちゃ、っん、ちょっ、とまっ、て、待ってって言ってるでしょう!!」


 腰ベルトから取り出したスパナでイネスの脇腹を殴る。強烈なボディを受け『ごほぁ』と呻き声を上げてボディを抑える為に抱き付いていたルクレを手放した。


「そういやお姉ちゃん、バスク兄ちゃんに敵全部押し付けたでしょう?そのせいでバスク兄ちゃんが無理する事になったんだから、お仕置きはイネス姉ちゃんにした方が良いみたいね」


 スパナを両手にもってもてあそぶ姿は、とても10歳には見えない威圧感を与える。


「え、いや、あれはぼんの修行になると思って。え、いや、ちょっと待って。ごめん、ごめんなさいって」


「え、へ、へぇ、大丈夫。ちゃんと骨と内臓と神経は外すから」


 今のうちに、と気配を消してゆっくりとその場を離れてハボックが向かったキャリアの運転席の方に向かった。

(俺の代わりに耐えてくれイネス姉、ルクレの気が晴れるまで)


 キャリアの運転席に乗り込むと、そこで機体のチェックを始めたハボックが機材に向き合っていた。


「ふぃ~、ハボックもゴメンね、機体と剣壊しちゃって。すまんけど修理頼むわ」


「今回は装甲も無事ですし、一機は無傷で部品の伝手もありますから、ここ《キャリア》で直せる程度の軽いもんです。今チェック走らせてますけどドック入りもまだ大丈夫でしょうし。それより事後処理が終わったら次はどこ行きます?」


「取り合えず、今回の金で打ち上げと補給を兼ねて近くの町に行こうか。そこでご当地物でも頂いて一息つこう。このご時世、ついでにきな臭い噂も付いてくるだろうし」


「了解しました~っと」


「なに、帝国が今みたいに腐ってるお陰で、まだまだ仕事場せんじょうにあふれてるからな」


 大型犬の鳴き声を聞きながら、窓から顔を出してそううそぶく。


「わ~るかった、悪かったから!次はちゃんと私も戦場に出るから!ぼんに押し付けないから~」

「本当ですか!ちゃんと二人無傷で帰ってくるんですよ?いいですか」


 ドス、ドスっと重い音がきこえる。


「わかったから、もう許してよルクレちゃん。ぼんも助けにきてよーー!!」


 大型犬と子猫がじゃれてる声を聴きながら、次の町で食える飯に思いを馳せた。


読んで頂いてありがとうございました。

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