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バスク剣風譚~カレグリン戦記<仮>  作者: 水武九朗
雌伏の章~銀月暦1902年
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オルガ公国×ムスペイム侯国 バラン平原の戦い-その2

 □□□□ ムスペイム侯国軍側 □□□□


「オープン回線でなにやってるんだ敵さんは?陽動か、それとも本気か?」


 AG分隊を率いるギグスには、信じられない行動だった。

 現代の戦闘では、まずAGの数が戦況を左右する。1機でも多ければ他の戦力は簡単に蹂躙出来てしまうからだ。

 いままでこちらからの行動《アクション?が遅れたのも、敵陣偵察とAGを回してくる時間がかかった為だ。


『こちらムスペイム軍司令部、接近してくるのは1機のみ、ガムス・ルサと思われます』


 実際、司令部から入る連絡も、機体のレーダーに映るのはただ1機。


「本気か。だがあの様子で正気だったら……」


 オープン回線から聞こえてきていたのは、酔っぱらったような女の声と、相手司令部と言い争う声。そんな声がどこまで信用できるのか。


「まぁいい、こっちは出来るだけの事をするまでだ」


 気持ちを入れ替えて、僚機に指示を出すべく通信スイッチを入れる。


『司令部からもあったが、オープン回線で聞こえていた通りだ。相手がどういうつもりか解らんが、俺達には関係ない。各機展開して囲うぞ。こちらの数の利を生かす。敵の後詰が来る前に手早く行くぞ!!』


『右翼了解、手柄のほうから飛び込んてきましたからね』

『左翼了解、右翼言われたばかりで欲出して飛び出すなよ』

『そうだ、あせらず行こう。向うから数の利を手放してくれたんだ、こちらはそれを焦らず拾うだけでいい』


 ここまでは、勝手に相手が負けてくれているとしか思えない幸運と、そんな幸運に恵まれるのは誰の日頃の行いだろうか、少なくともそれは自分じゃないな、と思っていた。


 □□□□


「ウル、おまえ見くびられてるみたいだな。いいぜ、見返してやろう! お前が並の機体じゃないって所をさぁ」


 向かってくる3機の中央が先行している。

 定石通りなら、先頭の1機と打ち合った隙に、左右からはさみ撃つつもりだろう。

 交戦距離までまだ少し、という所で中央の相手の速度が落ちる。両翼がそのまま進んでこのままだと3機に囲まれる形になるだろう。

 しかし俺とウルなら、その距離はすでに間合いの内だ。

 ウル・ダ・ルーンは一瞬足が沈む程強く踏み込んだ後、まるで飛ぶような勢いで踏み込むと同時に切っ先を突き立てる。

 相手は剣を構えている最中、喉を突き貫かれた。

 機体は首を貫いた勢いそのままに相手の右側を走り抜け、首に差し込んだ剣を回転させて相手の頭部をねじり切る。

 両脇の機体は、こちらを向きながらそのまま駆け抜けて行く。


『ギグス隊長ーーー!!』

『あんたが先に落ちてどうすんだよ!!くそ、右翼!!挟み込むぞ!!』


 両翼の機が中央の機に集まってくる。


「次は……こっちかな?」


 首に絡まった剣を引き抜くと、左側の敵に機体を向ける。

 剣を振り上げながら向かっていくと、敵右翼機は剣で上段を受ける構えを取った。


『こっちに来た?!』


 そこに、ウルで機体の勢いをそのまま飛び前蹴りを入れて、相手の機体を倒す。


「気を取られちゃうよね~」


 AGアネモイ・ギアの重量がぶつかった衝撃が騎士を襲う。機体は丈夫でも中の人間は衝撃でしばらく動けないだろう。

 残った1機と、足を止めて向かい合う。


『くそ、なんだかんだでこうなった?!何でだ!!』


「3対1で余裕ぶっこいてたところ悪いねぇ。でもそんな相手じゃぁこっちは修行にナラんのよ!!」


 じりじりとお互い距離を測っていたところ、しびれを切らして相手が上段で切りかかってくる。切りかかってくる相手の剣をいなして剣先を地面に突き立てると、相手機体の勢いそのまま地面に叩きつけた。

 そこで、最初に頭をねじ切った機体が膝から崩れ落ちる。

 3機全てがく行動不能になったのを見て、機体の中で大きく伸びをする。


「ふぃ~、こんなんで強くなってんですかね俺は」


 機体を放熱している所に、2機のAGアネモイ・ギアが近寄ってくる。イネスが乗るプル・ガ・ルーンと友軍のゲロル・ハザンだ。

 この帝国圏内では正規軍が駆るのがゲロル・ハザン、傭兵はガムス・ルサが乗騎の定番だ。

 そのため、今回のような帝国内の小国同士の小競り合いでは、同種機体が戦う事が常となっていた。


『おお、3機相手を一瞬に倒すとは。本当に出番が無くなるとは思ってなんだ』

『くぉらぁ~、バカぼう! 本当に全部やる奴があるか! なんで私の分を残してない!!』


「残してもどうせ怒るんだろう? だったあら一緒じゃないか。あ、司令部? 相手は全機騎士は生きてると思いますから、お気をつけて」


『了解した。地上部隊に伝えよう』

「あ、あとこれは司令官殿に。うちの部品取りに使うんでガムス・ルサは貰いますけど、相手のゲロル・ハザンはなるべく直しやすいようにしたんでそちらで使うならどうぞ。その分報酬の上乗せお願いしますね~」


『……了解した。報酬の件に関しては司令官に伝えておこう』

「頼みます」(やりぃ!!)


 今回の戦闘で剣に歪みができたけど、これで機体のチェックと剣のメンテ代分位は上乗せされる事を期待しよう。今回はダメージ受けなかったけど、そろそろオーバーホールの事も考えとかないとなぁ。

 答える前に間があったのは、きっと(こいつら図々しいなぁ)とでも思われたんだろう。


『おらぁぼん、私を無視するな!! 私の暴れ足りないコノキモチはどうしろってんだ!!よし、お前ボコってやるから降りてこいオラァ』


 プル・ガ・ルーンが膝をついて座ると、イネスが操縦席から降りてきた。

 俺もゆっくりと機体を座らせて操縦席から出ていく。


「3機相手によくやったなぼん。でももう少し剣は大事に使わないと、一度の戦闘で駄目にするようだと一流の騎士って言えんがなぁ」


 イネスは昔から、俺に対してだけ言葉遣いが悪くなる。

 我が姉弟子であるイネスことエイネスフィールとは、幼い時から一緒に育ってきたが、年長者としては先輩風を吹かしたいのか、俺にだけはマウントを取るかのような態度を取る。

 そしてそれは、AGアネモイ・ギアに乗った時と酒に酔った時により助長される。酒に酔うと、対象が誰彼構わずになるので、恐らく本心が表に出てるだけなんだろう。

 それを知ってる周りは、なるべく飲ませないようにしているが、本人が酒好きなので始末に負えない。


読んで頂いてありがとうございました。

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