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バスク剣風譚~カレグリン戦記<仮>  作者: 水武九朗
雌伏の章~銀月暦1902年

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ザドア王国 ランドック 日暮れ後の会合

「という訳で、この国との関係が悪くなりそう、というか付き合っても割喰いそうだから、取れる物とって早めに移動する事になりました」

 パチパチパチ、とイネス姉だけが手を叩く。

 町中での決闘騒ぎから帰るとすぐに、いつもの俺とイネス姉、ハボックに今回はフェオを加えての、キャリアのキャビンで緊急会議を開いた。


「えぇ。お嬢ならともかく、全く若が何をやってるんですか一体……。報酬交渉に行ったと思ったら向うの騎士切り倒してくるなんて」


「あっはっは、この商売舐められる位なら恨まれる方が幾らかはマシだろうさ。しっかし急に発つと言っても、お嬢の機体ブルはここまで逝くとあたいらにゃ無理だよ。ウルはどうなん?」


「右腕が不安定なままで良いならキャリア《ここ》でも直せますよ。これ以上は”工廠”に持ってかないと難しいでしょうね。余程の騎士を相手にしなければ、若の腕でカバーできるかも、ですがね。まぁ、ここで報酬貰えないとだいぶ懐が厳しいのは確かです。他で稼ぐにしても、このままだと若一人で実入り半減、ジリ貧一直線ですね」



 ハボックの言う”工廠”は、帝国内最高のAG工廠”ゲール工廠”の事だ。何度か機体ブルとダルを見てもらっているが、技術に値段が釣り合っていて、行くたびに財布を空にされる。

 八方塞がりとはこの事か。しかし、何か動かないと事態は悪くなる一方だろう。


「明日朝に司令部に再度交渉に行くよ。どんな事になってるか解らないけど、こちらに非は無いはず、はず……、だよね?無いはずだけどなぁ~、あ痛!」


 騎士の速度で強烈なデコピンが飛んできて、首から上が仰け反る。


「手足斬る前ならただのケンカで済んだのに、ぼんが最後に恰好つけたからこんなややこしい事になったんだからな?解ってるか?!」

(く、屈辱だ……)


「まぁ済んだことは仕方がない。どうせ俺が相手しなかったらイネス姉が同じ事やったでしょ?過去よりも未来の話をしよう。」


「アタシはそんな事しないよ」


「明日朝から俺が司令部に督促に行く。他の皆はキャリアで退去準備。行先は工廠。イネス姉は最悪戦闘になったらしんがりでみんなを逃がして」


「任された」


「了解です、若」


「やっとの決心ですか若坊ちゃん、まったく遅い位だよ」


「流されてるのは解ってる。だけど、いつか来る時が今だった、と思う事にするよ」

 自分の力でどうしようもなくなった時は、きっとこんな気持ちになるのだろう。大勢の信徒を引き連れて逃げる決断をした救世主も同じような気持ちだったんだろう。多分違うだろうけど。それくらい、他に選択肢が見当たらない。


「それで、偽装解除するとしてどれくらいかかる?フェオ」

 顎に手を当てて考え込む。


「そうさね~、四肢と外装の交換と調整で……、1週間ってとこかね。手足だけならもちっと早くて5日。あとで外装するなら3日は要る」

 装甲を変えると、重量が変わって機体バランスの再調整が要る。整備士曰く、この作業が一番面倒だそうだ。


「じゃぁ、ハボックはど……」


 と扉をノックする音がした。整備班のヘルゲが顔をのぞかせる。


「若様すみません、なんかザドアの偉いさんが来てまして、若に会いたいって言ってます」


「誰だ?部隊長のゴッソンか?まさかハンセル司令官か?」


「あ、司令官殿も来てるんですが、それが……、どうもこの国の宰相って言ってまして」

 その場の全員の頭にはてなマークが浮かんだ。


「宰相って言えば国のNo.2、政務の実質トップが?」


「なんで宰相がこんな所に来る?そもそも何用で来たのか聞いたのか?」


「いえ、とにかく会って話をしたい、とのことだったので。」


 □□□□


 恐らく、この国で最も狭い部屋に宰相を招いた人物として、記録に残るかもしれない。

 キャリアの中の、何とか4人が入れる部屋に宰相と総司令の二人を招き入れた。室内は4人でみっしりだ。

 対するこちらは僕とハボックの2対2で対応する事にした。


「宰相様にこのような狭い部屋で、申し訳ない」


「いやいや、こちらこそ急な訪問で申し訳ない。こちらがヒースベルグ宰相閣下です。閣下から、是非とも早急に貴公と話がしたい、と言う事だ」


 ハンセル司令が同伴してきた宰相を紹介したが、どうも乗り気じゃないように見える。


「ザドア王国の宰相を務めているヒースベルグだ。君が、あの騎士バスクだね?いやぁ、その若さで大したものだ!もう一人のエイネスフィール殿はいずこかな?報告を聞いて私も君達のファンになってしまってね。後ほどでも良いので、ご挨拶させていただけないかね?」


「騎士エイネスフィールには、お話が終った後、ご挨拶させましょう。まずは突然お伺いになったのは、どういったお話でしょうか?急を要するようですが」


「おぉ、そうだったそうだった。まずは、キュベー戦で我が軍の勝利に多大な貢献をしてくれた騎士に感謝を。二人とも相当機体をやられたそうだな。褒章は弾ませてもらうよ。っと、これも本題では無かったな」


 嬉々として話が横道に逸れる宰相に、若干引き気味のハンセル司令。いつもこんな感じなのか?

 歳は宰相の方が若く見えるが、昔からの知り合いなのだろうか、などと考えていると、どうやら本題を切り出すようだ。


「今日の昼の件で伺った。我が方の騎士に、英雄殿に対する多大な認識の相違があったようだ。すでに状況はその場にいた者達から聞いている。戦功大なる貴殿に、我が方の騎士が迷惑をかけてまことに申し訳ない!!」


 大げさに宰相が頭を下げ、それに倣うように司令も頭を下げる。

 こんな、あっさりと非を認めてくるとは。これは、素直に下手にでるよりも、すこし強く出てみるか。


「宰相程の御立場の方が、軽々に頭を下げないほうが良いかと存じます。それとも、かの騎士の行動が貴国の意向、と言う事ならば別ですが」


「彼女の行動が、わが国の意志による事はありません。そこは私を信じていただきたい」


 宰相程の立場で全降りか?これは踏み込み過ぎると痛い目を見そうな予感……。ここは程々にした方しておこう。


「であれば、はねっかえりの騎士一人が町中で素手の相手に剣を抜いて敗れた。そしてその騎士は、既に自身に傷という形で罰を受けております。そこに、残る責などないと存じます」


(この機にふんだくらないので?)


(今回は流れが悪い。この国に取り込まれる可能性の方が高い、諦めろ!!)


 ハボックと視線のみで通じ合う。これが、長年の積み重ねというものだ。


「……騎士の責を問わないと?!」


 宰相の目が、こちらを訝しんでいる。それはそうだろう。ここまで弱みを見せても攻めてこないのだ。不思議に思うだろう。子供だから、と侮ってくれたら良いのだが。


「はい。私としては、この戦時下に貴国の騎士が不遇にも負傷された。その事に対してお悔やみ申し上げるだけです」


(あの騎士が勝手に襲い掛かってきたんだから、こっちが騎士ぶった切ったの無かった事にしてくれないかな~)

 と心では思っていても口には出さない。出せない。


「では、公式には彼女の怪我は戦闘での負傷、という事にさせてもらうよ。こんな事があったが彼女もキュベー戦の功労者で、国としては無下にできないのでね」


(ん?こんな不名誉を起こした騎士を功労者と呼ぶのか?)


 以外そうに思ったのが顔に出てしまったのだろう、宰相殿が口に一本指を立てて話し出した。


「彼女自身は騎士家の4女で、特に家柄が高いわけでは無いが、右翼隊長は王妃の甥御で可愛がられていてね。彼女は騎士学校から補佐を務めていて、それで王妃とも顔見知りなんだよ。将来の筆頭騎士と期待を掛けていた甥を亡くした王妃に、彼女まで罪人としては会わせられない、という裏事情があってね。あぁ、この件は内緒で頼むよ?君らの騒動に立ち会った者達にも既に言い含めてある」


 ここに来た時は既に結論は決まってた、って事か……。こりゃ吹っ掛けた方が良かったかな?いやいや、やはり変に踏み込まない方が得策だろう。

 意識的に笑顔を造る。傭兵になってから一番伸びた技能だろう。


「そんな事情がおありでしたか。いやはや、それは知らなかった。私達も今日町に出ましたが、特段何もありませんでした、と言う事で」


「いやぁ、バスク殿は理解が早くて助かる!そんな貴公には、ぜひ今後とも我が国に助力していただきたいものだ」


「いえいえ、今回で機体の修理に遠出をしないといけませんので。傭兵が動かせる機体が無いと、仕事にもありつけませんからね」


「では、我が国の工廠を使えばよい。私の方で手配いたしますぞ」


 やはり宰相は、取り込む気満々か。まだこんな非力な国に腰を据える訳にはいかない。


「そのようなお気遣いは無用です。うちの機体は少々特殊でしてね。ゲール工廠に持ち込もうかと思ってます」


「ほぉ、帝国直轄のゲール工廠ですか……」


 ヴェルヌス帝国直轄領にあるゲール工廠は、帝国最先端のAG開発能力を誇る、帝国の新型AG開発を一手に担う工廠である。

 施設の性質上基本的には軍向けだが、一部は民間からの修理、改修依頼を受けている。

 宰相は考え込むと、何かを察したようだ。


「なるほど。我が領の機体も何度かお世話になりました。では、修理が終わりましたらまた、我らが戦線に復帰して頂けますよね?」


 真正面から来たな。ここで断るとどうなるだろうか。夜の内に囲まれて、出られないようにでもされるんだろうか。


「そうですね。機体の修理が終わった時点で、ムスペイムとの戦闘が続いていたのなら必ずや」


 選択肢にノーが無い問いかけは嫌いだな。


「そう言ってもらえたら安心だ。ムスペイムからの逆侵攻が無いのは、今や君達の武名に支えられているのだから。ひいては、君たちが領外に出る事は極秘で頼むよ。向こうの銘持ち騎士二人もしばらく動けない事だろうが、もし出てこられたら、君達が居ない今の我が軍だと被害が多そうだ」


 笑い返そうと思ったが、引き攣ってしまった。ここまでへりくだる宰相がいるだろうか。いままで立場が上がれば上がるほどに尊大で横柄になる人しか居なかったので、戸惑ってしまう。

 当然、これが本心ではないだろうが、上っ面だけでも人当りが良いに越したことはない。


「それで、いつ頃ここを発つつもりだね?」


「明日には発とうかと。先ほども言った通り、今のAGの無い我々はお役に立ちませんから。しかし、キュベー戦の分の料金は頂けるのでしょうね?」


「それはもちろんです。こちらの要求に見合う以上の武功をあげられた。明日朝にでもこちらのキャリアに届けさせますので」


 そう言って、深夜唐突に訪れた”それ”は、去っていった。


 それから、キャリアでは一斉に安堵のため息が漏れる。

 当然のごとく、部屋の外で聞き耳を立てていたイネスから、明日昼に穏便に出発出来る旨が、すでに全員に知れ渡っていたのだった。


 □□□□


 翌朝司令部に向かった俺達を、宰相本人と司令官その他もろもろのお偉い面々が待ち構えていた。

 そして、目つきの悪いお姉さんから睨まれながらも契約の倍額以上の報奨金を渡され、街から出る時も裏の物資運搬用門を通って出る事に。


 こうして一行は城塞都市ランドックを出発し、AGを帝国直轄領にあるゲール工廠へと向かうのであった。


読んで頂いてありがとうございました。

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