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バスク剣風譚~カレグリン戦記<仮>  作者: 水武九朗
雌伏の章~銀月暦1902年

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ザドア×ムスペイム 城塞都市キュベーの戦い 攻城戦 その3

 

「取り合えず、角付きの言う事を信じるならイネス姉は無事か?」

 まだ戦場の真っ只中で気を抜くわけには行かないが、心配は少し和らいだ。

 今まで戦闘でそれどころでは無かったので、全体の通信を聞いてみる。


『……こちら中央司令部。敵中央部隊の残りは2機だ。2対1で当たれ、数の有利を活かせ!!両翼の戦況は芳しくない。数で勝っている中央が負ける事は許されんぞ!!』

(右翼部隊は連絡が途絶えてるだろうし、左翼の状況は解らない……、か)


 上層部宛の通信回線を開く。


「司令部。こちら左翼所属の騎士バスク。都市中方部にて敵の紅黄こうおう騎士を撃破。騎士は機体を棄て現在都市外へ撤退中。こちらの機体も損耗激しく追撃不能。左翼部隊の現状はどうか」


『おぁ、右翼部隊が壊滅させられた紅黄こうおう騎士を退けたと!?左翼部隊は双角騎士を退けるも2機体大破、2機損耗軽微で中央に侵攻中だ。右翼は全機連絡は取れない』

(大破が2機?!)


「大破した機体の騎士は無事か?!」


『こちらは承知していない。もうすぐ左翼の2機が中央に到着するのでそちらに確認されたし』

(本部に報告もして無いのか)


 通信が終ると、今俺が居る中央に、2機のAGアネモイ・ギアが出てきた。今度もゲロル・ハザンだが角は無い。


『こちら左翼部隊の騎士ランドル。バスク殿、生きておられますか』


 もう1機も出てきた。どうやら双角騎士にひるんで倒れていた機体が起き上がってこっちに向かってきたのだろう。


「こちらバスク、何とか生きてはいます」

(イネス姉は勝ったんじゃないのか?プル・ガ・ルーンはどうした?)


『てめぇどんだけ機体壊してるんだよ!!そのなりで勝ったってのか?あぁん!』


 イネス姉の声がする。


(ふぃ~、イネス姉も生きてたか)


 緊張の糸が切れそうになるのを、何とか留める。もう終盤とは言え、まだ戦場にいるのだ。


「あぁ、見ての通りこちらの機体はこの後の戦闘には加われそうにない」


『なにを言われるかエイネスフィール殿!!あの”紅黄こうおう騎士”を退けられたのだ、十分どころではないお働きすぞ』


『だまれこの腰抜けが!!尻込みして味方巻き込んでこけたお坊ちゃんが何言ってるんだ、あぁ?!』


『すみませんすみませんすみません……』


『おら、早くアタシをぼんのところ《機体》まで届けろ!腰抜けでもそれくらいできるだろう!!』


『あぃた、は、はいぃ~』

(あ、殴ったな)


 ランドル機が近づいてくると、操縦席が開き中からイネス姉が跳び出してきて俺の機体に飛び込んできた。


「おまえ機体をこんなに壊されてんじゃねぇ!!」


「えぇ~~~」


 頬をグーパンされる。


『確かにお届けしましたよエイネスフィール殿。私達には中央都市の制圧の命が下りましたので、そちらに参ります。もう少しすれば、中央部隊がこちらに着きますので、そちらに合流してください』


 2機は都市中央の建物に向かっていった。

 俺も操縦席から出て、機体をぼろぼろになった愛機ウル・ダ・ルーンを見上げる。


「イネス姉はプルどうしたの?」


「……あの角付きに左腕と右足をやられたんで置いてきた。でも、相手の両腕と片角切り落として首ひん曲げて相手が逃げていったから、あの子が壊れた仇は取ったよ」


「……、それだと人の事言えないよね」


「うっ、ぼんの相手より角付きの方が強かったんだから仕方ないだろう。……多分だけど」


「”多分”だよね?イネス姉は俺の相手一度も見てないよね?」


「だぁーーー、煩い煩い煩いーっ!!っと、とにかく、二人とも銘持ち相手にしたら、もう”目立たないように”は無理なんじゃね?」


 機体を見上げるように空を仰いだ。


(都合が悪いと話題を変えるなぁ)


「そうだよな。でも、少なくともこの領は出よう。どうせここで侵攻は終わりだろうし」


 それに、機体を修理しないと、再び戦場には出れないし。


「ん~、そうだな。ムスペイムもこのまま黙ってないだろう。敵の増援が来るとなると、残ってる機体で守り切れるかは怪しいもんだ」


「どうするにしても、整備のみんなにどうやって謝ろう」


「そうだな……。今までで一番ひどい壊れ方じゃないか?こりゃぁ、ルクレにスパナで殴られるだけで済まないかな~」


「俺はハボックに謝るから、殴られるのはイネス姉に任せるよ」


「ふ、いくらぼんに甘いハボックでも、今回はさすがにぶち切れる方に賭ける」


「そうだな、ウルもプルも左腕やられてるから、部品足りるかな」


「お!だったら共和国いかね?技術の国っていう位だから、部品の調達もできるんじゃない?それに帝国にない目新しい物でもあれば、ルクレの機嫌も良くなるだろうし」


(共和国か?でもなぁ)


 イネス姉が言う共和国とは、内戦に明け暮れる帝国に隣接する大国”エルフェス共和国”の事だ。

 AGアネモイ・ギアの生まれた国という事で、『技術立国』のイメージがあるが、実際は突出した天才の残した遺産をただ喰い尽くし、そして喰い潰した国だ。

 AGアネモイ・ギアが発明されて250年。開発者が設計図やら論文やらが大量に残され、それを数多くの研究者たちが解析しているにも関わらず、未だ大半の部分が未解明という状態であった。

 そんな国に行ってもも、実用に至らない技術はハボック達へのご機嫌取りには良いかもしれないが、ウル達の修理に役に立つかは怪しい。


「共和国はイネス姉が思ってるような国じゃなよ」


「えぇ~?だってあの天才メイビルの国なんだよ?戦争ばっかの帝国よりずっと栄えてるんじゃないの?」


「共和国と貿易やってる商人に聞いたけど、なんか国全体が暗い、というか活気が無くて、あと物価も高いらしい。帝国から物資もっていけば儲かるらしいんだけど、帝国も食料不足で輸出に規制かけてて、どっちかで言ったら帝国の方がマシって聞いた。それにAGアネモイ・ギア廻りの部品も、内戦してるだけあって質を問わなかったら量は豊富にある」


「じゃぁ、また近くの所領をウロウロでもするの?」


「取り合えず、ハボックとルクレに頭下げてから考えるわ」


「……そうだね」


 二人は互いの頭を撫でる。


「今回も生きてて良かった」


「今度も負けなかったな」


「ハハッ」


「フフッ」


 二人揃って天を見上げ、しばらく笑いあっていた。

 それからしばらくして、中央の敵AGアネモイ・ギアの撃破と都市の降伏が伝えられた。

 このキュベー攻城戦には勝利したザドアだが、その先の進軍を断念せざるを得ない程の損害を被り、その後ザドアは占領したキュベーを放棄する事となった。



◇◇◇◇◇◇

キュベー攻城戦 AGアネモイ・ギア 損害状況

・ムスペイム軍 5機投入

 大破:4

 中破:1


・ザドア軍 16機投入

 大破:6(内訳:右翼部隊4、左翼部隊2、中央部隊1)

 中破:3(内訳:右翼部隊1、左翼部隊1)

 小破:2(内訳:中央部隊1)


なお、戦死者は何れも騎士のみでムスペイム軍3名、ザドア軍6名。


◇◇◇◇◇◇



読んで頂いてありがとうございました。

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