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プロローグ

 戦争で飯食ってきた家で育った子供が世間に放り出されたら、どうやって生きていけばいいのかなんて、子供にはわかんないよ。

 

 だから僕は。

 だから俺は。

 

 訳知り顔で大人を見下して。

 冷めた目で世間を斜め見て余裕な振りをして。

 

 見栄を張って。

 虚勢を張って。

 

 世間も自分も騙し騙しその場しのぎで切り抜けていくのさ。

 

 だって人生って、そんなものだろう?

 

 □□□□□□


 あぁ、何故だろう。とうに亡くなった父が目の前で笑っている。

 その父の横で、家を出ていった母親がそばで微笑んでいる。

 父も母も、普段から厳しかった人達だったから、二人揃って笑顔だったときなんていつの時だったか。

 まだ幼かった僕が、初めて木の棒を握って剣の真似事をしたとき珍しく二人して笑ってたと、おじいに聞いた事があるけど、そんな幼い時の記憶なんて無いはずなのに、何故か二人が笑顔でこっちを見ている。


(二人はこんな顔もするんだなぁ)


 家人だちが揃っている前で、父が戦闘服で正面を見据えながら涙を流している。

 その前には目に涙を溜めて、なお毅然としている母娘の姿があった。


(これは、姉弟子の父上が亡くなって、初めて父の涙を見た時……)


 それまで、僕と剣術の稽古をしてた姉弟子と、いつも僕に優しくしてくれた姉弟子の母が。

 いつも笑いながら7つも年下の僕に本気で打ち負かしては、勝ち誇って笑ってた姉弟子が。

 初めてみた、感情で壊れそうになっている姿だった。

 それからしばらくの間笑顔が消えて、話しかけても感情が無くなったような返しばかりだったのを覚えている。

 父の涙も衝撃だったけど、いつも一緒にいた姉弟子が別人のように無気力になったのが何より怖かった。


 黒い鎧姿の相手を前に、右腕と右膝が切り落とされて、傷口から血を流して倒れてる父の姿だった。

 僕と姉弟子は、その姿を姉弟子の母に抱き留められながら見ていた。

 父を負けるのを僕が目にした、最初で最後の姿だった。

 そして、その時から母と姉弟子の母の二人は姿を消し、それ以来会えていない。


 次は、頬の熱さの感覚から始まった。

 それは、父が敗北して片方の手足を失ってから、季節が一つ廻った頃に起きた。

 寝ている所を、おじいに頬を叩かれて目を覚ます。


「坊!!早う起きなされ!!」


 そんな起こされ方をした事が無かったから、僕はすぐに目を覚ました。


「お館様が城にてご謀反されました!!この館も囲まれるまで猶予はありません。その前に早く落ち延びなされよ!!既に愚息がギアを持ち出しておりますゆえ、はよう合流なさいませ」


「え?父様が?!どうして……」


「とにかく、今は時がありませぬ。後々の事は愚息と落ち合ってからになさいませ!!」


 そこから、誰に手を引かれたのかすらも覚えてないけど、僕は遠ざかっていくおじいとずっと目を合わせたまま。

 そして屋敷から炎が上がる。それは、戦いの火だ。

 その後は夜闇の中を、赤く染まった空が遠ざかっていくのを睨んでいた。

 これは過去に実際にあった出来事。

 何度も夢にみた光景。

 そんな情景の中、女の歌声が流れてくる。

 もうそろそろ夢の終わりか。

 これが自分の原体験だと確信をもって、そして今も自分が背負うべき役割で運命なんだろう。

 この夢を見る度に、今の自分が何のために生きているのか、誰に生かされたのかを思い出す。

 そこで、歌声のボリュームが上がってきて、自分が覚醒するのを自覚する。

 そして、意識が現実に戻ってきた。

 そこは敵とにらみ合いになっている戦場で、『アネモイ・ギア』とよばれる巨大兵器の操縦席の中だ。

 通信機からは機嫌よく歌う女の声が聞こえてくる。まったく戦場で歌うなんて、神経が何本かイカレているとしか思えない。


「寝てる”俺”も同類か……」


 自嘲しながらも、うたた寝していた間に状況に変化が無いか調べる。

 父が領主に謀反して討ち死にし、燃え盛る家から逃げ延びて7年後の俺は、あの時逃げた戦場を糧に、生き続けていた。


読んで頂いてありがとうございました。

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