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神滅のヘッズベル  作者: くろえ
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第8話 ファーストバトル

しばらくは毎日12時更新だお!

 俺たちは気がつくと見知らぬ廃墟の中にいた。視界の左上にはRUINSと表記されており、それは日本語でそのまま廃墟を示す英単語。ドイツ要素どこいったし。


「廃墟フィールドか」


 全体マップを開き、その広さを確認する。どうやらそんなに広いフィールドじゃないようだ。

 さらに視界の右上にはマイナス一二〇という数値が秒刻みで〇へとカウントが進んでいる。


「その数値が〇になったら戦闘開始なの」


「つまり二分間、作戦会議ができるわけだな。オーケー、では早速はじめようか」


 とは言ったものの、まだ始めたばかりのヘッズベルで一体どこまでやれるか。あれこれ考えてはみたが色々と情報が足りなすぎていかんともし難い。

 俺が顎に手を当て思考していると、ミモちゃんが口を開いた。


「相手のヴンダーは全部把握してるの」


「え? マジで?!」


 ミモちゃんはパネルウィンドウを表示させて俺とテンゴウに見せた。そこにはリーダーゴリのヴンダーを含めて、他のメンバー全員の能力が記載されていた。


「あの人たちヘッズベルの晒し掲示板に全員晒されてたの。二日前の情報だから変わってる可能性もあるけど」


「なるほど……初心者狩りしてるような連中だし、当然といえば当然か」


 三人でゴリたちの情報を共有した俺たちが次にするべきことは俺たち自身のことだ。ミモちゃんの能力はチュートリアルで知ってる。あとはテンゴウのヴンダーだが……。


「あ、あのテンゴウさん? ヴンダーを教えてもらえませんか?」


「……」


 お前しゃべれよぉ! と言いたいけど怖いので言えない俺まじ小心者。


「テンゴウはヴンダー使えないの」


 ミモちゃんが無口なテンゴウの代わりに答えた。そもそもミモちゃんも無口系のキャラなのに代弁役になっちゃってるよ。


「そうなのか……って何でよ!?」


「レベル制限。チーム内でレベルが五〇以上離れているプレイヤーがいる場合、そのプレイヤーはヴンダーの使用が禁止されるの」


 ということは、テンゴウは俺たちよりも五〇以上レベルは高いのか。だったら基礎能力も相当に高いはずだな。


「わかった。じゃあテンゴウはスフィアでの攻撃を担当してくれ。多分、俺たちが投げたとしても能力値的に簡単に避けられるか、取られちまうからな」


 テンゴウは無言で頷く。

 その後、俺たち三人は段取りを決め、ある程度の勝算が見えはじめたところでフィールド内にアナウンスが響き渡った。


〈バトルスタート一〇秒前……スフィアの投下を開始します〉


「ちっ、もう二分経つのか。そんじゃ二人とも手はず通り頼む」


「あいあいさーなの」


 ミモちゃんがあざとく敬礼をし、テンゴウは再び無言で頷いた。その直後、空から落ちてきたスフィアが地表へと激突。


〈ヴェット・シュピール(戦闘開始)!〉


「テンゴウ!」


 落下地点を確認した俺はテンゴウにスフィアの確保へ向かわせる。

 テンゴウはレベル制限でヴンダーこそ使えないがラン(俊敏性)はレベル相応に高い。

 フィールド中央付近の廃ビルに落下したスフィアをいち早く確保するために走り出したテンゴウ、その後姿を俺とミモちゃんが見守っていた時だった。


『先制はくれてやるよ、雑魚ども!』


 目の前に出現したオープンチャットウィンドウにはゴリの安っぽい挑発が書かれていた。

 バトル中でもオープンなら敵にも煽りコメントできるのかよ。と思ったが、設定でチームチャットのみに絞ればいいんだった。

 そうこうしている内にテンゴウがスフィアを取ったという連絡をチャットでしてきた。ていうか、文字チャットは普通に打つんだな。


「よし、そのままF8で合流しよう」


 フィールドには座標が存在し、横軸はアルファベット、縦軸は数字で分けられている。フィールドの大きさによって数が増減するのだ。F8は俺たちがいた廃墟から右後方のフィールドの端に位置する場所。つまり逃げ場のないどん詰まりなわけだが、俺たちはあえてそこに行く。


「これで敵の一人はヴンダーを封じられるはず」


 ゴリたちの仲間の一人、その中にいるジャガイモみたいな顔をした奴の能力は後方転移(バックワープ)。文字通り敵の後方へワープするヴンダー能力だ。つまり、ケツをとられる位置にさえいなければ問題ない。


「厄介なのは残りの三人のヴンダーなの」


 ミモちゃんが晒し掲示板で確認した三人の能力は次の通り。

 ゴリのヴンダー〝強襲転移(アサルト)〟、投げたスフィアを視認できる任意の場所にテレポートさせる。


 顔の長い馬面男のヴンダー〝電磁(パラライズ)〟、スフィアに電磁波を纏わせて敵の補球力を激減させる。


 カエル面男のヴンダー〝曲蛇弾道(サイドワインダー)〟、投げたスフィアが変則的な軌道で飛んでくる。


「どいつも攻撃的なヴンダー能力だ。これが同レベル帯での戦闘ならもっと支援系の能力も織り交ぜてもくるんだろうが……初心者相手だからと舐めてかかってきている証拠だな」


 そんな風に敵の分析している時だった。


「おっ」


 テンゴウが集合場所に姿を現し三人が揃った。とりあえず第一条件はクリアだ。

 まずは小細工なしで一人は倒さないとならない。


「テンゴウ頼むッ!」


 これは最初から確信があったことだ。俺たちより五〇以上もレベルが高く、ミモちゃんとゲーム内でフレンド登録をしている。たったこれだけの情報だけだが、天剛というプレイヤーがどの程度の実力を秘めているのかなんとなく想像できるのだ。

 つまり……、ミモちゃんのツレが強くないわけがない。


「ミモちゃん敵の場所は!?」


 俺が確認するまでもなく、ミモちゃんは一戦闘において一度限りのヴンダー能力を発動させていた。ミモちゃんの身体から翡翠色の光が放たれ、波紋のように拡大していく。


「視えたの。左の廃ビルの奥から二人、右の茂みから一人――。最後は正面からゆっくり歩いてきてるの」


「正面で余裕こいてるのが多分ゴリだな」


「一番近いのは左側の二人、このままいくと三〇秒後には見つかるの」


 その言葉を聞いたテンゴウが俺の方を向く。

 いや、だからしゃべろうね。


「あぁ、うん。二人組とゴリは後回しで右から来てる奴を仕留めよう。当てた後にスフィアの回収もしやすいだろうし」


 無言で頷いたテンゴウはミモちゃんに何かを聞き始めたが、少し離れた場所に立っていた俺には内容は聞き取れなかった。つーか、ミモちゃんとは会話できんのに何で俺の時は目線とチャットだけなんだよ! その見た目で人見知りとかギャップありすぎだっつの!

 俺がそんなことを考えていた時だった――。

 一陣の風と共に、テンゴウから放たれたスフィアが暁の空へと昇っていく。


「おいッ! どこに投げて……!?」


 勝機を見出す為には、確実に一人は敵を減らしておかなければならない状況。にも関わらず、テンゴウは明後日の方向へスフィアを投げたことに俺は目を疑った。


 しかし――。

 スフィアは俺達の立っている場所から一〇メートルぐらい斜め上空まで昇っていくと、急激な速度で落下を始めた。


「ドライブ回転かよ!」


 物凄い昔に流行った少年サッカー漫画ばりの高速回転、そして超スピードを備えたスフィアが目標めがけて強襲する。


「――ッ!!」


 次の瞬間、スフィアの落下地点から地鳴りが響き、砂煙が巻き上がる。それと同時に微かにカエルが潰された時の鳴き声のようなものが聴こえた。


「カエルっぽい顔の男を仕留めたの」


 俺の横でミモちゃんが小さく呟いた。続いて、視界に映し出されているスコアウィンドウに1ポイントが加算され審判ロボ・ベルのボイスでアナウンスが入る。


『プレイヤー・テンゴウが敵一体を撃破しました』


 テンゴウは俺の予想以上にとんでもない強さを発揮した。

 ヴンダー能力を制限された状態で、ボールに回転を加えるテクニックのみで敵を仕留めてみせたのだ。チュートリアルでミモちゃんと対戦して解かっていたことだが、ヴンダーを使えなくてもスフィアに変化を加えることは可能だった。現実の球技と同じく、ボールの握り方や指を離すタイミングなどを変えることで大きくカーブさせたり、スフィアに回転を加えたりすることができるのだ。しかしそれは当然、キャラクターのレベルや練度によって精度も変わってくる。


「まったく……能力に制限かけられるわけだぜ」


 久々に味わった興奮に心が躍ったのも束の間。首の骨をコキコキと鳴らしながら戻ってきたテンゴウは、チャット欄にたった一言だけ書き込んだ。


〈あとは任せた〉


「はっ? いやいやいや、あんだけの強さがあるならもっと活躍してくれよ! ていうかスフィア回収いけ……いってくださいよ!」


 俺の言葉を無視するように、テンゴウはその場に座り込んでしまった。

 えー、何がしたいのこの人。

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