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神滅のヘッズベル  作者: くろえ
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第7話 コガネ、ゴリラに絡まれる

しばらくは毎日12時更新デス!

 コンビニでのバイトを終えて、寝るまでの短い時間でヘッズベルをプレイする。この日課になりつつある生活をしていると昔のことを思い出す。


「コガネ、ちょっとオシッコいってくるの」


「いまからちょっと悲しい回想するところだったんだけど!? 早く済ませてきてね!」


 俺はヘッズベルにログインして早々、ミモちゃんから呼び出しを受けていた。まぁ当人は今しがた尿意に呼ばれて離席しているわけだが。

 ログイン初日に俺たちがいたオケアノスの街には、大きく分けて三つエリアがあった。

 一つはアリーナと呼ばれる試合を観戦できる施設エリア。

 もう一つはアバターパーツなどを購入できるショップエリア。

 そして対戦をする為に事前申請を行うフォートレスエリア。

 俺とミモちゃんが所属するウラノス軍と、敵勢力であるクロノス軍で違うところと言えば、拠点となる都市が違うことぐらいだ。

 それで俺が今いるこの場所が、クロノス軍の勢力下にある都市・ヒュペリオン。

 設定上は敵の勢力下にある街にまで転送できるなんて、やっぱりゲームだよな。


「ただいまなの」


「おう、おかえり。んで何でここに呼び出したんだ?」


 俺が小首を傾げながら尋ねると、ミモちゃんはいつになくシリアスな顔つきで答えた。


「敵を知るにはまず敵からなの」


「お、おう」


「……冗談なの」


 ツッコめなくてごめんね! でもね、本気か冗談か判断しづらいんですよ!


「でもわざわざヒュペリオンに来なくても、アリーナで観戦できるじゃないか」


 ミモちゃんはこくりと頷いた。


「じゃあ何でここに――」


 ミモちゃんに追求している時だった。


「ん?」


 俺は背後に感じた視線に気づいて振り返った。そこには四人のプレイヤーが立っており、薄ら笑いを浮かべてこちらを見ていた。

 こういう手合いに俺は心当たりがある。

 俺が気だるそうに頭をガシガシと掻いていると、大方の予想通りに四人がこちらへ近づいてきた。


「おう、お前ら暇ならバトルしねえか?」


 やっぱりな。俺もオンゲに関しちゃ結構な数やってきたが、こいつらみたいな初心者狩りはどこにでもいる。対戦メインのゲームなら尚更だろう。


「いや、やめとくよ。俺たちまだ始めたばっかりで相手にならないだろうし」


 俺は大人の対応でやり過ごそうとしたが、四人組が道を塞ぐように目の前に立ちはだかった。


「そう言わずによぉ、ゲームなんだから楽しもうぜ」


 おそらくリーダーと思われる男がニヤニヤしながら顔を近づけてくる。この男の頭上に表示されているキャラクターネームはゴリアテ。顔がなんかゴリラっぽいしゴリでいいだろう。

 俺は自慢じゃないが気が短い。それにこういう初心者狩りをしてくるような輩に対しても、学校で一目置かれている天驚院音遠のような女に対しても、自分の態度は決して変えない。


「そんなに楽しみたきゃ初狩りなんてつまんねーことしないで、真っ当にプレイしたらどうだ?」


「なっ……」


 図星を突かれたことでゴリは呆気にとられたように言葉を失っていた。しかし、すぐに怒りを露にして口を開いた。


「お前……ずいぶん態度でかいじゃねえか。雑魚のくせに」


「その雑魚たちに声かけて回る奴ほど暇じゃねえんだよ」


 売り言葉に買い言葉。こういう手合いにいちいちビビってたらオンゲなんてやってられない。ことオンゲに関して言えば、顔も名前も知らない不特定多数の人間とのコミュニケーションを可能とするツールである。これは一見すごく気楽な人間関係を形成できる代物に思われがちだが実際は違う。

 知らない人間だからこそ、人は簡単に他人を傷つける。

 ゲーム内で良い仲間に恵まれることも多いだろう。でも相手が人間である以上、そこには必ず自分とソリの合わない人間が少なからずいる。社会では現実の人間を相手にしているので不用意なことをすればその後の人間関係に問題が生じるというリスクもある。しかし、オンゲではそれがない。嫌ならシカトするなりゲームを辞めれば済む話だが、それはまだいい方だ。

 最悪のケースだと嫌がらせ、いわゆる粘着と呼ばれる行為にまで発展し追い詰められる。

 

「コガネが絡まれた回数はこれで通算八六回目なの」


 横でミモちゃんがぼそりと呟いた。


「ぐっ……俺のせいじゃねえやい」


 ミモちゃんの言う通り、俺は何故だか新しく始めたゲームで絡まれることが多い。いや別に俺は悪くないからな。それだけオンゲは怖いものなんだということを言いたいわけ。メンタルが弱い奴にはまじでお勧めしない。


「ん? そのキャラネーム……」


 ゴリが俺の頭の上に出ているキャラクター名を見ながら眉間にしわを寄せる。そして鼻を鳴らして半笑いで言った。


「――ハハッ! お前オンゲでそのキャラネームを使うとか、絡んでくれって言ってるようなもんじゃねえのか?」


「俺がどんな名前でプレイしようと勝手だろ。それよりそこどいてくれよ」


 小指で耳の穴をほじくりながら不貞腐れた態度で俺がそう言うと、周りの仲間が俺たちを取り囲むように陣取った。どうやら見逃してくれる気はないようだ。


「ミモちゃん行こうぜ」


 囲まれようが俺たちには関係ない。対戦てのはお互いの同意がなきゃ出来ないんだからな。と、俺が心の中で思っているのを見透かしていたミモちゃんが言った。


「コガネ、クロノス側の勢力下にいる場合、バトルは申請されると拒否できない仕様なの」


「――――――――は? え? マジで?」


 そんなのアリかよ……。


「いるんだよぁ、馬鹿な初心者がノコノコと敵側のエリアにくることが」


 ゴリがしたり顔で顎に手をあてパネルウィンドウを操作している。おそらくバトルの申請をしているんだろうな。


「ちなみに敵陣に来た側がバトルを仕掛けることを〝アサルトバトル〟。お前らみたいに仕掛けられた場合は〝ディフェンシブバトル〟と呼ぶ。アリーナ以外でのバトルは資金全損と、レベルアップ後に貯まった分の経験値喪失だからリスクが高いぞ」


 ゴリが懇切丁寧に説明してくれた。意外にイイ奴だな。

 言わずもがな、勝利チームがすべて総取りなのでリターンもでかいというわけか。


「ミモちゃんさぁ、もしかしてこうなるって知ってて俺を呼び出したんじゃないのか?」


 俺がジトっとした視線を送ると、ミモちゃんは無言のままピースサインをこちらへ向けた。この子の考えてることがまったく分からん。


「まぁいいけど。別に負けてもまだ失う物なんてないし」


 俺たちはまだこのヘッズベルで一度も戦闘をしていないしショップで何も購入していない。だから負けたところでせいぜいゴリたちに嘲笑される程度だろう。それはそれでムカつくけど。


「それじゃ始めようぜ。ルーキー、準備はいいか?」


 こいつ、抜け抜けと……準備もクソもないだろうが。


「ちょっと待て。俺ら二人しかいねえけど、この場合どうなるんだ?」


「悪いな、野良での強制戦闘は人数指定ができない。つまりお前たちは四対二で俺たちと戦うってわけだ」


 ひでぇ仕様だな。こいつがいま何を考えているか手に取るように解かる。


「ジワジワと時間かけて煽りながら、嘲笑いながら惨めに潰してやる」そういう面してるぜ。


 俺はどうしたものかと頭を掻いていると、ミモちゃんもパネルウィンドウを開きながら何かを操作していた。


「ミモちゃん?」


「助っ人、呼んだの」


 ミモちゃんの知り合いなのか? 一体どんな奴なんだろう。俺はミモちゃんとそこそこ長い付き合いだと思っているが、この子が俺以外のプレイヤーと親しくしているのを見たことないし、想像もできない。


「来たの」


 ほどなくしてミモちゃんにメールで呼ばれた人物が現れた。転送エフェクトが足元から上がりその姿が徐々に見える。そしてその人物の全貌が露わになった。


「うっ……」


 俺はその姿に思わず声を漏らす。

 その人物のアバターは、時代錯誤も甚だしいボロボロの学ランに学生帽、そして無駄に鍛え上げられたソフトマッチョな体にサラシを巻き、身長は二メートル近くあろうかという巨漢だった。昭和時代の番長スタイルみたいな見た目だ。


「久しぶりなの」


 ミモちゃんがその巨漢に軽く手を挙げて挨拶をすると、男もまたその風体にはそぐわない仕草で無言のまま手を挙げた。そこは「押忍!」とかじゃないのかよ。


「俺はコガネ。よ、よろしくな」


 俺もその流れに乗って挨拶を交わす。頭上のキャラクターネームは〝天剛〟と表記されている。おそらくテンゴウと読むんだろうな。いかにもな名前だ。そしてミモちゃん以上に無口で無表情なテンゴウは俺を一瞥すると、ゴリたち四人組へと視線を向ける。


「わざわざ仲間を呼ぶのを待ってやったんだ。感謝しろよ雑魚共」


 これで三対四か。いないよりは全然マシだろう。なんか強そうだし。


「そんな気遣いができるなら絡んでくるなっての」


 俺が目を眇めてゴリの挑発を軽く受け流す。


〈敵勢力に捕捉されました。これより戦闘フィールドへ強制転送されます〉


 俺の目の前にウィンドウが開き、一五秒のカウントダウンが始まりだした。ミモちゃんとテンゴウも同様にウィンドウが開いている。


「ミモちゃん、正直に言うが勝算なんて無いからな」


 俺の言葉にミモちゃんは無言で頷く。まったく、この子はいつもこうだ。あとで色々と聞きたいこともあるが、やるからには何か突破口を見出さないとな。


 そして転送が始まった――。

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