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神滅のヘッズベル  作者: くろえ
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第6話 コンビニ、再び

しばらくは毎日12時更新なんやで

 翌日、学校に登校した俺の前にいつもの樺山ナントカが話しかけてきた。


「おはよう、コガネ君!」


 この樺山くんが何故、ぼっちである俺にこうも気安く声をかけてくるのかといえば、一応それなりの腐れ縁というか因縁みたいなものがある。

 樺山は俺が以前やっていたネットゲームで、別のギルドに所属していたプレイヤーだった。そこでPVP、いわゆる対人戦を行ったことがある。自慢じゃないが俺はそのゲームでは負けなしで、知らない内に変な異名のようなものまで付いていたこともあった。まぁ、それはいいとしてだ。樺山はそのゲームで、幾度となく対戦を挑み続けてきた傍迷惑な奴だったのだ。


「おはようさん」


「この前話したゲームのことだけど、やってみる気はないかい? 神滅のヘッズベルっていうんだけど」


 タイトルを耳にした瞬間、少し動揺してしまった。まさか樺山が勧めてきたのもヘッズベルだったとはな。しかし、ここは冷静に対処しよう。


「悪い。バイト忙しくてゲームやる時間ないんだわ」


 断った理由は二つ。まず樺山はしつこいこと。勝つまでやろうとする厄介なタイプで、相手にするのが面倒くさい。二つ目の理由は、俺があくまでネットゲームをするのは金を稼ぐためにやっているだけだから。


「そうかぁ、君とはまた対戦したかったんだが……」


「俺じゃなくても、強いやつなんてわんさかいるんじゃないのか?」


「ふっ、僕は君にリベンジしたいのさ」


 だからその前髪ファサーってするのやめろっての。

 そうこうしている内に、いつもの女が教室へと入ってきた。天驚院音遠だ。


「ごきげんよう、皆さん」


 音遠の姿を見るやいなや、クラスの女子が彼女の周りへと集まっていく。


「音遠さま、おはようございます!」


 音遠は男子のみならず、女子にも異常なほど人気がある。

 取り巻きの女子に一通り愛想を振りまいた音遠は、そのまま自席へと向かうのかと思いきや、あろうことかこちらへ近づいてきていた。嫌な予感がした俺は、限りなく存在感を消すように努めて、窓の外へと顔を向けた。


「桜庭君」


 おい、やめろ。俺に話しかけるとか、この状況で一番してはならないことだ。そんな俺の願いをブチ壊して、彼女は声をかけてきてしまった。頬杖をつきながら、俺は視線を声の主へと向ける。


「昨日はありがとう。助かりました」


 彼女は笑顔で俺に言った――。空気を呼んでください、お嬢様コノヤロー。


「礼なら昨日もう聞いたよ」


 俺は溜め息がちにそう言葉を返す。我ながら実に態度が悪い。そして俺と音遠のやりとりを聞いていたクラス中の生徒からの視線が痛い。


「改めて、ということです」


「あぁ、そう」


 俺のそんな態度に対しても、彼女は嫌な顔ひとつせずに微笑んでいた。きっと性格も良いのだろう。でもやっぱり俺は嫌いだ。

 踵を返して自席へと戻っていった音遠に、取り巻きの女子が群がっていた。どうせ態度の悪い俺のことをとやかく言っているに違いない。スクールカースト最底辺にいる俺に対して、最上位の彼女が声をかけてくるということはこういうことなのだ。


「驚いた。まさか天驚院さんがコガネ君に声をかけてくるなんて。何があったんだい?」


「バイト場でちょっとな」


 樺山は俺の返答に小首を傾げていたが、いちいち説明するのが面倒で俺は言葉を濁した。

 そもそも電子マネーの買い方を教えただけなのに大袈裟すぎるわ。

 そんなイレギュラーな出来事がありつつも、俺はなんとかその日の授業を終えた。


 そしてバイト場へ向かう途中。


「ん?」


 一人の少女が河原をじっと眺めていた。ランドセルを背負っている小学生だ。あまり見過ぎていると不審者扱いされそうで怖い。近くに交番もあることだし。

 しかし横顔だけしか見えなかったが、俺はふとデジャヴを覚えた。

 何処かで見かけたことがあるような気がする。通り過ぎた後にもう一度、その姿を確認しようと振り返った俺と少女の目が合った。


「……」


 お互い無言のまま、そよ風が頬を撫ぜる。少女の眠たげな瞳はどこか吸い込まれていきそうなほど深い黒で、肩口まである亜麻色のセミショートが夕日に照らされて薄く透き通っていた。ここで「どこかで会ったことある?」とか聞けば完全ナンパ目的だと思われるのだろうか。いや待て待て、相手は小学生だぞ。大体ナンパなんて行為はモテない男がする愚行だぜ。

 あ、俺モテないわ。

 きっとただのデジャヴ、そうに違いない。

 俺はそう思い直し、少女から視線を切ってバイト場へと足を運んだ。



「はぁ……」


 コンビニでのバイトは時間が経過するのがもの凄い遅く感じる。基本的にはただレジに突っ立ってるか、商品の整頓ぐらいしかない。あとはアレだ、から揚げをフライヤーにぶっ込んでおくことだな。俺はこれをよく忘れるんだわ。


「いらっ……」


 自動ドアが開き、客が入店してくる際に鳴るマヌケな音楽が店内に鳴り、俺は骨髄反射的に挨拶の言葉を口にしかけた。しかも言い掛けた言葉がそのまま俺の心境を顕わしていたわけだ。

 天驚院音遠がまた来た。今朝方、あれだけ煙たがってやったというのに、懲りずにまた俺のバイト場に顔を出すとか神経が図太いのか鈍いのか。はたまた単なる嫌がらせなのだろうか。


「こんばんは、桜庭君」


「おう」


 短く答えた俺に微笑を湛えたまま、遠音は再びネットマネーのカードがあるラック棚へと足を運んだ。そしてカードを手にしてレジへと戻ってくる。


「二〇〇〇円になります」


「はい」


「八〇〇〇円のお返しになります」


 本来ならお札の枚数を数えて出すのがルールだが、もう早く帰ってほしいので割と適当に手渡してしまった。釣りを渡す際に彼女の手が触れた時、少し鼓動が高鳴ってしまった俺マジ乙女。


「桜庭君は……私のことがお嫌いですか?」


「……随分とストレートに聞くんだな」


 俺は音遠の問いをはぐらかすように言葉を返した。


「私は何事にも正面から立ち向かうことを信条としています。正義とはそうあるべきですので」


「はっ、はは……正義? 天驚院はヒーローにでもなりたいのか?」


「そうです」


 音遠は微笑みを残しながらも至って真面目な声でそう言った。アホの子なのかな?

 恵まれた環境で育った人間てのは、大体二通りのタイプに分かれる。世界が自分を中心に回っている、或いは回っていないと気が済まない傲慢な奴。自分の歩む道が正しいと思い込み信じて疑わない愚かな奴。そういう意味では音遠は後者のタイプ。典型的なお嬢様で世間知らずだな。


「あぁ、そう。どうでもいいけど用が済んだら早く帰ってくれ。こっちは仕事中なんだ」


 俺は音遠に背を向けて、仕事をしているフリをした。


「そうですね。お邪魔しました」


 小さく鼻を鳴らし、俺の言葉に頷いた音遠は店から出ていった。その後姿を横目で見ながら俺は溜め息を吐いた。


 ――何なんだよ、あいつ。

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