第4話 チュートリアル(1)
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『ミーはこのチュートリアルの説明と、ヘッズベルの勝敗を公平にジャッジする為に造られたロボのベルだ。ベルだ』
「何で二回言ったんだよ。あとドイツ語のキャラは守れよ」
『早速、二人にはヘッズベルのイロハを教えてしんぜよう』
無視かよ……。
『まずは』
ベルが口というか、その丸い身体を大きく開くと中から青く光るボールのような物を出した。
「なんだそれ?」
『これはスフィアと呼ばれる物。まぁ見たままボールだ。持ってみるがいい』
俺はそのスフィアを受け取ると、バスケットボールのように地面へと叩きつけてダムダムしてみた。間違いなくただのボールだ。
「これがなんなわけ?」
『ヘッズベルではこのスフィアを敵プレイヤーにぶつける。それが試合に勝利するための条件だ』
「そ……それって」
「ドッジボールなの」
俺の言葉を紡ぐようにミモちゃんが言った。
『その通り。ヘッズベルとはドッジボールを基本とした戦闘競技であり、この世界での戦争のルールでもある』
懐かしいなぁ、小学生の頃によくやったっけか。
「ふ……ふふふ、ふはッ……あははははははは!」
腹の底から笑いが自然と込み上げてきた。
「くっだらねぇ! 戦争の代わりがドッジボール? どんな発想でそこに行き着くんだよ!」
俺が腹を抱えて笑ってそう言うと、ミモちゃんが俺のキャラクターの袖を掴む。そして相変わらず無表情ではあるが、どこか寂しそうな声音で訊いてきた。
「コガネ、やめるの?」
「ん、いやそうじゃないんだ。逆に面白いと思ったんだよ」
俺はミモちゃんの頭に手を乗せてぽんぽんと軽く叩いた。
いいぜ、ちょうど最近同じようなオンゲばかりでいい加減飽きてきたところだ。このヘッズベルでいっちょ派手に稼がせてもらうとしよう。
『チュートリアルを続けるかね?』
モノアイを点滅させながらベルが訊いてきた。
「あぁ」
俺は短くそう答えた。するとベルがモノアイカメラから光を放出し、空中に映像が映し出される。そこにはゲームの取り扱い説明書のようなビジュアルが描かれていた。
『それではまず、基本ルールから説明しよう。戦闘は最大四対四のチーム戦で行われるマルチプレイとなる。戦闘時間は一五分、その間に生き残っている人数の多いチームが勝利となる。それと、敵側の人数をゼロにした時点でも戦闘終了となる』
なるほどな、FPSゲームに似てる感じか。
「やられたら復活とかはないのか?」
『基本的に復活はできない。ただし、これは後で説明することになるがキャラクターのスキル次第ではそれも可能だ』
――味方を復活させる固有のスキルか。
『戦闘フィールドは現在実装されている一〇種類の中からランダムで選択される。市街地、砂漠、雪原に無人島など多種多様な場所が存在するが、地形を上手く活かすことで勝利への道筋も見えてくるだろう』
「ん? ちょっと待て。コートで戦うんじゃないのか?」
『コートは存在しない。よってラインもないので、敵に対し零距離からスフィアをぶつけることも可能だ』
「零距離って……じゃあ敵からスフィアを強奪してもいいのか?」
『バスケットボールでいうスティールに相当する行為は可能だ。プレイヤーに危害を加えなければ、敵の手元からスフィアを叩き落としても問題ない。その判定はシステム側で管理されているので、そもそもスティールが不可能な状況では、コマンドを入力しても反映されない仕様になっている』
「なるほど」
『ちなみにスフィアを一人が持っていられる時間は最大で三〇秒。それまでに仲間へパスを出すか、敵へ投げつけなければスフィアは手元から消失して敵側へと渡る』
「仲間内で延々とパス回しをしていた場合のペナルティは?」
『それは存在しない。ただし制限時間が残り五分を切ると、敵側にスフィアが与えられ、いわゆるダブルドッジとなるので注意が必要だ』
ラスト五分が勝負ってことね。
『では実際にスフィアを投げてみろ。とりあえず目標はあそこにある廃ビルの壁だ』
「あそこ? 遠くないか?」
『いいから投げてみろ』
俺は言われた通り、手に持っていたスフィアを一〇〇メートルほど離れた廃ビルめがけ思いっきり投げてみた。
「よいしょッ!」
驚くことに手元を離れたスフィアは、普通の人間が投げたとは思えないほどの超スピードで一直線にビルの壁めがけて飛んでいった。
うおおおおおお! すげぇ! はええええ!!
スフィアはビルに直撃すると、その硬いコンクリート壁に大きなくぼみを残してめり込んだ。
「なッ!? あんなの……現実で当たったら痛いじゃ済まないだろ」
『ビルを崩壊させてないだけまだ弱い方だ。レベルが上がり経験値をショットへ振れば、あれくらい造作もなく粉微塵にすることも可能だ』
「ショットって、威力を上げることに意味なんてあるのか?」
『スフィアスピードはショットの威力に比例して上がっていく。つまり速いボールを投げたい場合は経験値をショットに振ることが有効だ』
映し出された映像を見る限り、キャラクターの能力は大きく分けてショット(投擲力)、ラン(俊敏性)、セーブ(捕球力)に分かれているようだ。こういうのは大体、どの能力に特化するかでチーム内の役割も変わってくるんだろう。
『さて、基本ルールについて最後の説明をしよう。二人にはこの後、テストを受けてもらい、そこで各々の能力〝ヴンダー〟を目覚めさせる』
「ヴンダー?」
俺が聞きなれない単語に首を傾げていると、すかさずミモちゃんが解説を入れてくれる。
「ドイツ語で奇跡……という意味なの」
ミモちゃんマジ博識だなぁ。
ようするに超能力とか異能力と呼ばれるものを用いてドッジボールをする。それがヘッズベル・オンラインというわけか。
『それではテスト会場へ移動しよう』
ベルが俺達にそう告げた直後、周りの景色が歪みだした。そして、俺とミモちゃんは椅子に座っていた。
「学校……教室か」
『机の上にある用紙を見たまえ』
気が付くと、机の上に一〇枚ほどの紙が重なって置いてあった。テストってまさか、本当にペーパーテストでもやらせるつもりなのだろうか。
一枚目の紙を見る限り、マークシート方式のようだ。
「なになに、『問一、浴室に入ってからまず始めにすることは?』……何だこの質問」
A、乾布摩擦
B、カ○ハメ波の練習
C、オシッコ
「どれもしねーよッ!! これ作った奴バカだろ!? それと、ミモちゃんさりげなくC選ぶのやめい!」
はいはい、とりあえずB選んでおくか……もう問二いくぞ。
「えっと、『問二、プールに入った時に思わずしちゃうことは?』……おい」
A、友人をバックドロップ
B、波動拳の練習
C、小便
「だからどれもしねえから!! A以外ほとんど同じじゃねえか!! それと、ミモちゃんはC以外を選ぶ努力をしようね!? お願いだから俺の夢を壊さないでね!?」